スマホの見過ぎで現代の若者の頭蓋骨に「ツノ」が生え始めているというニュースは本当なのか?

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 海外では、スマホのせいで若者の頭蓋骨からツノが生えてきたというニュースが話題となっている。

 きっかけになったのは、6月20日付のワシントンポスト紙に掲載された記事だ。
これは、2018年2月に豪サンシャイン・コースト大学のデビッド・シャハール氏らが『Scientific Reports』で発表した研究を紹介したもので、他にも大手メディアにで取り上げられるなど、ここ最近大いに注目されている。

 だが、このニュースに対して、研究内容はおかしいのではないかという反論が出ている。研究の根拠は脆弱で、あらかさまに矛盾しているデータが含まれているというのだ。

 それによると、おそらく一番の問題は、この研究ではツノが生えたなどとは一言も言っておらず、被験者による携帯機器の使用について何らのデータも提供していないことだろうという。
【そもそもツノじゃない】

 そもそもシャハール氏らの研究はツノについてのものではない。ワシントンポストの記事で”ツノ”や”ツノ状の突起”と呼ばれているものは、小さな骨棘の一種のことで、頭蓋骨の両脇から生えるものではなく、後頭部の下の部分に生じる。


 そこは「外後頭隆起」という部分だ。ここには脊椎がつながっている部分に沿って重要な靭帯と筋肉がある。自分自身の後頭部を触ってみれば、硬い塊があるのがわかるだろう。そこが外後頭隆起だ。

 骨に靭帯と筋肉が付着しているほかの部分と同じく、ここを酷使したり、伸びるような負荷をかけたりすると、骨が成長して、新しく骨が形成されることがある。

 これが骨棘の一種である骨の突起だ。
研究では、これのことを「伸長した外後頭隆起」と呼んでいる。

【外後頭隆起が起きてもほぼ問題がない】

 呼び方は別にして、ここで一番重要なのは、外後頭隆起が大したことではないということだ。それ自体は、首の筋肉を過度に使っているという微かなサインかもしれないが、それ以外に健康を害するようなことはない。

 痛みなどの症状が出ることもない。わざわざレントゲン写真などで調べたりしなければ気づくこともないし、それゆえに医師がわざわざレントゲン写真を撮るようなことも普通はない。

 だから、この症状がどのくらい一般的で、どうした人たちに生じやすいのか、あるいは最近になって増えているかどうかなど、本当のところはわからないはずなのだ。


【若者グループの40パーセントに外後頭隆起?】

 研究では、カイロプラクティックに通う18~86歳の患者1200人のかつて撮られたレントゲン写真を引っ張り出して、60歳以上の25パーセントに骨棘があることを発見した。それまでずっと筋肉が使われてきたことを考えれば、特に驚くには当たらないだろう。

 注目されたのは18~30歳のグループだ。60歳よりも若いグループになると外後頭隆起が生じている割合が減っていたのだが、その若年グループに限っては40パーセントに外後頭隆起が見られたという。

 そしてシャハール氏の研究では、ここで2つの推論の飛躍をする。

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Shahar & Sayers, Scientific Reports, 2018
【データは全体を代表するものではない】

 最初の飛躍は、カイロプラクティックの患者は人口全体を代表するようなサンプルではないというのに、そうみなしている点だ。


 18~30歳のグループは300人で構成されているが、そもそも彼らは何らかの理由でカイロプラクティックに通っていたわけで、そのために骨棘(外後頭隆起)が出やすい傾向にあったのかもしれない。

 しかも、異なる時点で計測されたデータが一切ないので、カイロプラクティックの患者にそうした症状が増えているのかどうかはわからない。

 さらに調査されたレントゲン写真をどのように、なぜ選んだのかもよくわからない。

 研究では、「軽度より大きな」痛みを訴える患者が除外されたと説明されているが、その理由は不明だ。また痛みのない患者もいたというが、そんな患者のレントゲン写真がなぜあるのかもよくわからない。

【スマホと外後頭隆起との関連を示すデータがない】

 2つ目の飛躍は、スマホやタブレットを使うことと、「そうした機器を見ているときの首の角度は脊椎により大きな負担をかける」というほかの研究の結果を結びつけて、そのストレスが骨棘の発生につながっていると主張していることだ。


 確かに首を前傾すると脊椎にかかる荷重は増える。最近の研究では、それを計測し、「自然な姿勢のとき脊椎にかかる荷重は4.5~5.4キロであるのに対し、角度が15度で12.2キロ、30度で18.1キロ、45度で22.2キロ、60度で27.2キロ」だと報告している。

 しかし、カリフォルニア大学ロサンゼルス校の神経外科医トッド・ランマン博士は、これが実際のところ首回りの問題とどのように関連しているのか、きちんと臨床的な調査をしなければ断定はできないと指摘しているという。

 残念ながらシャハール氏らはそれをやらなかった。おそらくできたにも関わらずだ。彼らは実際に患者にスマホやタブレットを使ってもらい、そのときの首回りのデータを計測し、症状との相関関係を調べればよかったのだ。


 確かにスマホが骨棘の発生に何らかの役割を担っている可能性はある。だが、この研究では、それをデータによって裏付けていない。

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Jan Vašek/PIXABOY
【データと図表の矛盾】

 スマホと骨棘との関連を示したデータは提示されていないが、性別と骨棘と年齢との関係を統計的に分析した結果なら提示されている。

 そして、それは性別が主要な予測因子というもので、男性は女性に比べると5.48倍も骨棘が生じやすいことを示している。

 それなのに、この分析結果と、研究論文で提示されている骨棘の有病率を性別と年齢別に整理したグラフは完全に食い違っている。グラフを見る限り、男女で有病率に差があるようにはちっとも見えない。
 
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Prevalence of EEOPs
 ランマン氏はこの点を特に問題視して、シャハール氏に質問したが、回答を拒否されたそうだ。

【研究は注意して解釈するべき】

 結局、ランマン氏はこの研究の解釈はかなり注意が必要で、著者は自分たちが提示したデータについてきちんと説明すべきであると結論づけている。

 ついでにランマン氏は、この研究で外後頭隆起と呼ばれている骨棘は何らかの症状と呼べるようなものではなく、心配には及ばないだろうと考えている。

 そして、もし肩こりや首の痛みがあるならば、姿勢に気をつけるといいとアドバイスもする。スマホなどを普段より高く持ち上げ、首が曲がりすぎないようにし、文字を打つさいに親指1本ではなく2本でやるといいそうだ。

References:Debunked: The absurd story about smartphones causing kids to sprout horns | Ars Technica/ written by hiroching / edited by parumo

記事全文はこちら:スマホの見過ぎで現代の若者の頭蓋骨に「ツノ」が生え始めているというニュースは本当なのか? http://karapaia.com/archives/52275901.html