お互い順位浮上のきっかけにしたかったはずの注目の関西ダービーは、この夏に戦力整備を敢行した両チームにとって、ポジティブにもネガティブにも受け止められる微妙な試合となった。

イニエスタが守備に全力疾走。関西ダービーは両軍の今後の迷走を...の画像はこちら >>

神戸とG大阪の関西ダービーは、2-2のドローに終わった

「2点目もカウンターから取れましたし、それ以外にもチャンスを作れていたなかで、PKで失点してから難しい流れになったと思います。
3点目のチャンスもありましたし、我々としては勝点2を失ったというか、もったいない試合をしてしまったと思っています」

 試合後にそう語ったのは、アウェーのガンバ大阪を率いる宮本恒靖監督だった。

 前半8分に矢島慎也のロングフィードから倉田秋がフィニッシュ。幸先よく先制し、さらに後半53分にはカウンターから宇佐美貴史、倉田とつないだボールをパトリックが決めて追加点。ガンバが2点リードした時に、勝敗の行方はほぼ決したと思われた。

 ところが試合終盤の78分、試合の流れを大きく変えるジャッジが下される。

 ガンバの福田湧矢が自陣ボックス内でホームのヴィッセル神戸の古橋亨梧のドリブルに対して背後からチャージ。

佐藤隆治主審はトリッピングの反則を取り、ヴィッセルにPKが与えられたのである。

 たしかにボックス内で不用意に足を出してしまった福田は反省すべきだが、スロー映像で振り返れば、このプレーに対して自信を持って足を刈るジェスチャーでPKの判定を下されるのは、やや酷な気がした。

 これで得たPKをイニエスタがキック。一度は東口順昭にセーブされるも、冷静にリバウンドをコントロールしてネットを揺らすと、試合の流れは堰を切ったようにオープンな展開になった。ヴィッセルに同点ゴールが生まれたのは、その5分後のことだった。

 試合後に宮本監督が「勝ち点2を失った」と振り返った理由である。

 一方、救われたのはリーグ3連敗中だったヴィッセルを率いるトルステン・フィンク監督だ。

「追いかける試合になりましたが、0-2から2-2まで持ち込んだチームの姿勢、根性を見せた試合だったので、次につながるものはたくさんあると思います。ただ、全体を振り返ると、2-2というスコアはフェアな結果ではないかと思っています」

 フィンク監督は勝ち点1を手にしたことをポジティブに受け止めていたが、それには自身の交代策が当たったことも影響していたと思われる。ヴィッセルの同点ゴールは、西大伍が入れたクロスを増山朝陽がヘッドで決めたものだったが、彼らは2点を追いかける展開になったあとに、指揮官がピッチに送り出した選手だった。

 しかしながら、この選手交代策だけでフィンク監督を評価するのは早計だろう。

 少なくとも、ここまで指揮を執ったリーグ7試合では、初陣のFC東京戦以外はほぼ似たような試合内容で、相変わらず問題の解決策を提示できていない。

この試合の失点シーンは、その象徴とも言える。

 たとえば1失点目では、3-1-4-2のシステムを敷くガンバの「1」でプレーする矢島のロングフィードに対し、CB大﨑玲央と左SB初瀬亮の間にギャップが生まれてしまい、そこを倉田に突かれて一気に背後をとられている。

 この局面で、ノープレッシャーの矢島がキックする瞬間、大崎は明確にラインを上げるわけでもなく、かといって視界に入っているはずの倉田のランニングに対して下がってマークするわけでもなかった。ポジショニングを誤っていた初瀬も含め、相変わらず最終ラインの統率が整っていないことが浮き彫りになった格好だ。

 そして2失点目は、自分たちが相手陣内で得たフリーキックのチャンスの直後、相手のカウンターの餌食になった。攻撃から守備への切り替えが遅れたことで、相手に4対2の場面を作られてゴールを許してしまっている。

 しかも、最後にパトリックに寄せていたのはそのフリーキックでキッカーを務めたイニエスタである。彼が全力疾走で守備に戻らなくてもいい戦い方を前提にしているのであれば、やはり山口蛍プラスもうひとりでイニエスタのカバーをする必要があるだろう。

 こうしたトランジションの遅さに加え、そのリスク管理が為されていなかったことも、ヴィッセルの課題のひとつと言える。

 試合後、フィンク監督は「ボール支配率が平均54%あるチームに対して、今日の我々は57%を記録し、相手のエリア内にも24回入ることができた」と語り、スタッツをエビデンスに自らのチームの攻撃を評価した。

 たしかにこの試合のヴィッセルは、ボール支配率のみならず、シュート20本を記録して13本のガンバを上回った。さらに、後半からシステムを4-4-2に変更してボールを取り戻そうとしたガンバに対しても、それを許さなかった。

 ただし、その割にはヴィッセルがゲームを支配していた印象は薄く、むしろ指揮官の戦術は、攻守ともにまだ浸透していないと見るのが妥当な内容だった。すでに就任1カ月半が経過しているだけに、この状態が続けば、いずれその手腕に疑問の声が挙がることになるはずだ。

 フィンク監督は「来週はうまくいけば新加入DF2人も加わるので、ここから勢いをつけて前に進みたい」と意気込んだが、この試合でデビューしたGK飯倉大樹、トーマス・フェルマーレン、ジョアン・オマリを加えた守備陣を立て直せるかどうかは、監督の手腕次第と言える。

 一方、試合運びの面でネガティブな要素を見せてしまったガンバにしても、まだ先は見えてこない。前節の宇佐美に続き、この試合ではパトリックがゴールを決めて復帰組新戦力が結果を残したことはポジティブな要素だが、今後、井手口陽介(グロイター・フュルト)も復帰するとなれば、再びチームを作り直す必要も出てくるだろう。3バックが定着したばかりの発展途上のチームにとって、それはマイナス材料になりかねない。

 そういう意味でも、遠藤保仁の公式戦1000試合出場が達成された記念すべき関西ダービーは、両者にとって上位進出の起爆剤にはなり得なかった。むしろ、今後の迷走を暗示するかのような、じつに微妙なダービーマッチだった。