久保建英が日本代表として国際Aマッチに出場するのは、これがちょうど10試合目。その節目の試合は彼にとって、最もゴールに近づいた試合になったのではないだろうか。

久保建英がバージョンアップ。完璧アシストで「自らのゴールも近...の画像はこちら >>

パナマ戦で先発出場し、何度となく決定機を生み出した久保建英

 オーストリア・グラーツで行なわれたパナマとの親善試合は、1-0で勝利したものの、得点はPKの1ゴールのみ。90分を通して攻撃が機能していたとは言い難い。

 特に前半は苦労した。後方のビルドアップでもたつき、中盤でボールを失ってはパナマの攻撃を受ける。しかも、全体が間延びしてセカンドボールを拾えないため、連続攻撃を許してしまった。

 なかでも苦労したのは前半なかばの10~25分あたりで、かなり危ういピンチを何度か迎えている。

 久保にしても、なかなかボールに関わることができずにいた。いい形で前を向くことができず、劣勢の展開に埋没してしまう時間が少なくなかった。

 とはいえ、それはチーム全体の問題によるところが大きい。

「守備の人数が多く、後ろが重かった。3トップ(1トップ2シャドー)の選手は、コンビネーションで崩すことを得意としているので、低い位置からカウンターになると難しい。チームとして、もう少し前線の選手が気持ちよくプレーできるような守備ができればよかった」

 GK権田修一がそう話していたように、初めての組み合わせとなった前線の3枚、1トップの南野拓実、2シャドーの久保と三好康児は、相手に囲まれた苦しい状況でのプレーを強いられることが多かった。

 しかし、だからといって、彼らが焦ったり、慌てたりすることはなかった。

 いたずらに動き回るのではなく、相手のDFとMFのライン間に立ち、パスコースに顔を出す。それを続けることで、縦パスを引き出そうとし続けた。

 後半開始から交代出場したボランチの遠藤航が「(前半をスタンドで)上から見ていて、前に(縦パスを)つければチャンスになると思っていた。拓実と2シャドー(久保、三好)は空いていた」と語っているとおりだ。

 前半30分を過ぎたあたりから、徐々に縦パスが入るようになると、久保は1トップの南野との間でいい距離感を保ちながら、持ち味である高い技術とアイデアを発揮。

(オフサイドにはなったが)三好と(シュートには至らなかったが)南野に惜しいチャンスを提供している。

 そして迎えた後半14分、南野が相手GKに倒されて得たPKは、久保のパスから生まれたものだ。

 ピッチ中央で遠藤がパスを受けた瞬間、「タケがうまく(相手MFとDFの)間に入っていたので、シンプルに使った」と遠藤。一方、「遠藤選手から、自分が受けたい位置ですばらしいパスが来た」という久保は、ファーストタッチで流れるように前を向くと、「南野選手のいい動き出しが見えたので、パスを出すだけだった」。

 巧みなポジション取りから、前を向いてラストパスを出すまでの無駄のない一連の動き。久保の完璧な"アシスト"だった。

 その後、後半23分には自ら左サイドにボールを持ち込み、強引に左足でシュート。ゴールにはならなかったものの、後半27分に鎌田大地(公式記録上は浅野拓磨)との交代で退くまで、後半はいい形で攻撃に絡み続けた。

 久保は、苦しんだ前半を「縦パスが何本かしか入らなかったが、通ったときにはチャンスになった」と振り返り、日本が攻勢に試合を進めた後半について、こう語る。

「前半からの戦い方を徹底した。しっかり相手の嫌なところにポジションを取れた。自分たちがブレずにやり続けたことで、相手に迷いや疲れが出て、後半に結果が出たのではないか」

 久保が過去に出場した日本代表の9試合を振り返ると、彼らしいプレーが随所に見られることはあっても、それらは概して単発だった。

 当然、そのうち6試合が途中出場だったことも、影響はしているだろう。短い時間で試合に入り込み、自らの特長をコンスタントに発揮するのは簡単なことではない。

 しかし、この試合に関していえば、劣勢の時間も多かった前半は、我慢強く高い位置でプレーを続け、"ここぞ"という縦パスが入ったタイミングでは決定的なチャンスを作る。そうやって、徐々に試合の主導権を引き寄せるなかで存在感を強めていった。

 これが4試合目の先発出場とはいえ、五輪世代中心の"準A代表"で臨んだコパ・アメリカでの2試合を除けば、先月のコートジボワール戦に続く、実質2試合目。にもかかわらず、「だんだん味方の特長がわかってきて、連係を深めながら、チームのコンセプトを理解してきている」という久保は、先月の試合に比べ、明らかに自分の武器を生かしたプレーができていた。

 もちろん、コートジボワールとパナマでは大きく実力が異なる点は差し引いて考えねばならない。だとしても、たまたま1回の決定機を作ったのではなく、試合の流れに応じて、その都度チャンスに絡むプレーを繰り返すことができていた。コートジボワール戦からは、格段の変化を見せたことは確かだろう。

 単なる現象面の話ではなく、もっと本質的な意味において、久保が最もゴールに近づくことができた試合だったのではないかと思う。

「今日は(PKにつながるプレーの)起点というところだったが、今日みたいなプレーを続け、いいところに飛び込んでいけば(自身のゴールも)近いのではないか」

 そう語るスペイン育ちの19歳は、ゴールへの意欲をはっきりと口にする。

「(決定的なパスを)出せるけど、自分もほしいよっていうところをどんどんアピールしていきたい」

 初ゴールの瞬間は確実に近づいているようだ。