ネット上でお参り「バーチャル参拝」とは?
バーチャルではない、ホンモノの神社外観(上段)と本殿内(下段)
受験シーズン真っ只中の2月。「最後の神頼み!」とばかりに、今年も受験生たちは神社やお寺に合格を祈願しにやってくる。
だが、変わらない光景にも、徐々に変化は訪れているのだ。そのひとつが、“バーチャル参拝”なるもの。
なんと、神社仏閣のウェブサイト上で参拝ができてしまうというシステムだ。バーチャル参拝を実施する神社のひとつ、東京都世田谷区、桜新町駅にほど近い桜神宮のサイトを覗いてみると、参拝にまつわるあらゆる儀式をネット上で執り行うことができ、おみくじや絵馬奉納、そしてなんと郵送や銀行振込によるお賽銭まで受け付けている。

一年の節目のお正月や「ここ一番」の際のお参りは、あの神聖な空気が気を引き締めたりしたもの。なのに自宅にいながら参拝とは何事だ。寒い中、遠方から赴くなんてもう時代遅れなのか!? 少しせつない気持ちと軽い憤りを覚えながら、桜神宮の宮司、芳村正徳さんにその真意を問うことにした。
「バーチャル参拝は、2001年に神社のウェブサイトを作った際に、いっしょに始めました。“バーチャル”というと、どうしても“疑似参拝”といった捉えられ方をしますが、お寺までの道案内の名目だったり、その用途はさまざまなんですよ。うちでは“インターネット遥拝”という言い方をしていますが、古来から、お参りの方法は2通りあって、ひとつは直接足を運ぶ方法と、もうひとつが“遥拝”という遠くから神社の方向を向いて拝むという方法とがあったんです。戦国武将が領地から離れ、お参りに行くときなどに、遥拝をしていたといわれています」

“古来から”という言葉に弱い私は、ぐぐっと気持ちが和らぎそうになるが、いやいや、そうは言ってもネットで絵馬奉納って、その絵馬はどうなるのだろう? と、踏ん張ってみる。
「記帳や絵馬奉納は、メールで送っていただいたものを、プリントアウトして神前にお供えしています。
病院に入院している方で、継続的に絵馬奉納をされる方や、毎朝メールでお参りをしてこられる方や、中には日本的な行事を生活に取り入れたいと思われるのか、海外に駐在している方もいるんですよ。インターネットは、そもそも神社の活動を広めたいという気持ちから始めたものなので、いまの時代に即した活動の一貫として、前向きに捉えています。実際に足を運んでいただく方も増えていて、千葉や埼玉などの遠隔地から来ていただいている方もいます」

そうなんだ……。確かにお参りに行くに行けない人は、いるのだろう。しかも受験シーズンのいま、桜神宮は「サクラサク」の験担ぎに、受験生のネットからの参拝が増えているという。桜神宮のインターネット遥拝のページを見ると、お辞儀を何回するとか、何回手を叩くといった作法を細かく指示してあり、作法や教義の普及にも役立っているらしい。
バーチャル参拝奨励に傾きつつあった私に、最後に宮司はこう付け加えた。

「でも人と人との関係だって、何かお願いしたり、お礼をしたりするのに、メール一本というのはちょっと礼儀に欠けると思われるのと同じことが、参拝にもいえますよね。また、神社には“神気”といって、ご神域に行くことで、神様のエネルギーを直接もらえるという考え方があります。だからやはり節目節目には、直接お参りしていただくほうがいいと思います」

便利なツールも使いよう。何事もメール一本で用を足すのは、無作法というもの。昔ながらのお参りをこれからも忘れずに、でも体調が悪いときなどは、無理せずバーチャル参拝というのも、今後はアリかもしれない。

(駒井麻衣子)

桜神宮HP
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