
名前まで相当堅いこのパン、気になったので即、取り寄せてみた。パッケージはかなりレトロな雰囲気で、クリーム色の箱に、グレーの文字で漢字がならぶ。そして軍服に印刷してありそうな日の丸と星印。世界観はまさに軍隊。箱の裏面には「軍人直喩」なるものが書いてあった。『一、軍人は忠節を尽すを本分とすべし 一、軍人は禮儀を正しくすべし 一、軍人は……』と続く5か条。ふむふむ。
軍隊の心を学んだところで、中身を拝見。正方形のビスケット風だ。以前紹介された「堅(カタ)パン」に似ている気がする。中に入っていた注意書きには「少しずつかなづち等で割って、かまずにほおばりながら……」とのアドバイス。「かなづち」――堅いもの好きにはたまらないキーワードだ。とりあえずアドバイスを無視し、そのままチャレンジ。イメージでは「ガリッ」といくはず……うっ……。噛んで割れないどころか、びくともしない。歯を横にスライドしてみたが、歯形をつけることさえも困難だ。そのままいってしまったことに後悔しながら、しばらくほおばっていると、噛んでいる部分が次第に水分でやわらかくなってきて、ようやくパリン。破片を咀嚼しようとするが、これがまた大変。3cm×3cmくらいの破片を食べきるのにおよそ5分もかかってしまった。
味は、素朴な懐かしいビスケット風で甘さ控えめ。黒ごまの風味が香ばしくて特徴的だ。よく噛むので、徐々にいい味が出てくる。これぞ堅いパンの醍醐味! 注意書きによると、コーヒーや紅茶に浮かばせたり、クルトンがわりにしてもよいとか。歯の弱い人は無理せず工夫して味わうべし。
このパン、大東亜戦争中当時の鯖江連隊より兵隊さんが木村屋さんに派遣され、軍人用のパンを焼いていたのをそのまま復元したものだとか。軍人さんはこんなに堅いパンを食べていたのだ。歯もさぞかし丈夫だったのだろう。
製造元は昭和2年創業の老舗パン屋さん「K.K.ヨーロッパン キムラヤ」。
キャッチコピーは『軍人(つわものども)の夢の味』。よく読むと、パッケージに『往事をしのんで味わってみてください。』とある。なるほど、軍人直喩を胸に刻み、鯖江連隊をしのんでゆっくりと味わうことにしよう。「軍隊堅麺麭」は、名前もコンセプトも、日本一お堅いパンであった。
(さくら)
・「K.K.ヨーロッパン キムラヤ」HP