サマータイム、イタリアで毎年体験して実際どうなのか語ってみる


2020年に開催される東京オリンピック・パラリンピックを契機として導入が検討されているサマータイム。さまざまな議論を巻き起こしているが、もし導入されたら生活がどう変わるか、誰もが気になるのではないだろうか。


一部では健康への影響や労働時間の増加なども指摘されているが、実際のところはどうなのだろう。毎年サマータイムが実施されるイタリアに住んでみて感じる影響について紹介したい。

太陽の出ている時間帯を有効に使うことが目的


サマータイムとは日照時間の長い夏季に限って時計を1時間(一部地域では30分)進める制度のこと。デイライト・セービング・タイム(日光節約時間)という別名がある通り、太陽が出ている時間帯を有効に使うことを目的として導入される。

2018年現在でサマータイムを導入しているのはアメリカやカナダ、イギリス、フランス、イタリア、オーストラリア、ブラジルなどをはじめとするおよそ60カ国で、国の一部のみで実施しているケースもある。また、最近ではモンゴルが2015年に導入、2017年には廃止するなど実施している国の入れ替わりも多い。ちなみに日本でも1948〜1951年まで導入されていた。


時計を1時間早めるだけといっても、普段馴染みがない制度だけに少しイメージしにくいかもしれない。以下に簡単にまとめてみた。

サマータイム、イタリアで毎年体験して実際どうなのか語ってみる


会社の就業時間を例に取ってみると、サマータイム実施中はもともと8:00だった時間に出社し、16:00だった時間に退社することになる。もちろん、いずれの場合も時計の表示時刻は9:00もしくは17:00のままである点は注意しておきたい。

さて、実際にサマータイムが実施されている間は生活にどのような影響があるのだろうか。上記を踏まえてご紹介したい。


夕方の時間を有効に使える


日常生活レベルの話に限れば、サマータイムの最も大きな影響は「夕方の時間が長くなる」ことだと思う。筆者はフリーランスなので基本的に就業時間はないが、妻が仕事から帰ってくる時間や幼稚園に通う子供のお迎え時間が早くなるため、それにあわせて仕事も早く終えることになる。
仕事が終わってもまだまだ明るい時間が続くため、夕食前に家族で少し出かけたり、1杯だけ飲みに行こうという気にもなりやすい。平日でもこうした時間が取れるのは大きなメリットだろう。

日本はヨーロッパの国々と比べると全体的に緯度が低いため日没が早く、また残業時間も長い傾向にあるため「夕方の時間が長くなる」恩恵は受けにくいかもしれない。ただ、それでも2時間程度の残業であれば19:00(サマータイム実施前の18:00)に退社することができる。
……ということは、平日でも日の出ているうちにビールが飲めることになる。
これ、やってみると思いのほか爽快だ。これだけでサマータイムを実施する十分な理由になるかもしれない。


時間が変わることの影響は意外と感じない


サマータイムが実施されると、時間を間違える人が増えて混乱するのではと心配する人もいるかもしれない。

これは個人的な話になり恐縮だが、私が普段時間を見るために使用しているのはスマホとパソコン、活動量計の3つ。いずれもタイムゾーンの自動設定をONにしているため、サマータイムが始まると自動的に時間が調整される。そのため、今のところサマータイムが原因で寝坊したり、時間を間違えたりした経験はない。
壁かけのアナログ時計を見て初めてサマータイムが始まったことを知るときもあるほどだ。こうした事情もあり、日常生活ではサマータイムをそれほど意識する必要を感じない。

サマータイムが始まると今までより1時間早く起きるため少し眠気を感じることもあるが、それも初日だけですぐに慣れる(これは単に自分が鈍いだけかもしれないが……)。時間が変わることの影響は意外と感じないというのが正直な感想だ。

……ということで、以上が筆者がイタリアで6年暮らしてみて感じるサマータイムの影響である。夕方の時間が長くなり、時間が変わることの悪影響も感じないため、個人的にはサマータイムの実施そのものには賛成である。


ただ、そのサマータイムを実施する理由がオリンピック・パラリンピックのためだけとなると、ちょっと大げさすぎる感じも否めない。個人的にはともかく、社会全体でどんな影響があるかはまだ十分に議論されていないし、ITシステムの改修や保守にだって莫大な手間がかかるだろう。
通常サマータイムにより変更する時間は1時間だが、日本ではオリンピックの競技開始時間にあわせて2時間変更するという話も出ている。朝1時間早く起きる程度ならあまり違いを感じなくても、2時間となると大きな影響になる可能性もある。

また、EUでは健康への悪影響や交通事故の増加、省エネ効果がないことなどを理由にサマータイムを廃止しようとする動きもある。これらの廃止理由を裏付けるデータも出てきていることを考えると、個人レベルでは感じない悪影響もあるのかもしれない。


最終的にサマータイムを導入するかどうか、現在は検討段階でどちらに転ぶかはまだ見えない。ただ、導入するのであればサマータイムのメリット・デメリットをしっかりと検討したうえで導入してほしいと思う。オリンピック・パラリンピックのためだけに導入するのは、さすがに本末転倒だと思うので。

(鈴木圭)