アリババクラウド、「+AI」で日本市場の開拓強化 新トップ “実践知で勝負” 

アリババグループのクラウドコンピューティング事業であるアリババクラウド(阿里雲)は「AI(人工知能)+クラウド」という経営方針のもと、日本市場のさらなる開拓を進める。日本法人のアリババクラウド・ジャパンサービスの与謝野正宇カントリーマネージャーが36Kr Japanのインタビューで明らかにした。

与謝野氏との一問一答は以下の通り。

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与謝野正宇カントリーマネージャー

――アリババクラウドはこれまで、日本市場でどのように事業を展開してきましたか

「当社は2016年に日本市場に参入し、首都圏に3カ所の専用データセンターを置いて日本の顧客にサービスを提供してきた。マンガ配信やモバイルゲームなどのデジタルネイティブ事業をはじめ、アニメ、小売り、企業内情報システムなど幅広い業種を対象に、日本企業のデジタルトランスフォーメーション(DX)を幅広く支援してきたと自負している」

「マンガ配信では、2025年6月に電子マンガサービス大手のand factory(東京・目黒)と提携したのが好例だ。背景イラストの自動作成支援など、生成AIでマンガ業界の生産性や創造性を向上させる狙いがある。企業内の情報システムの案件では、ほぼ同じ時期にパナソニックAPチャイナとAIによる白物家電のスマート化で提携している」

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電子マンガ領域での生成AI活用を目指す、and factoryとの提携発表会

「小売業も当社が注力する重要な分野のひとつだ。中でも資生堂とは、長年にわたりデジタル変革に関する協業を続けてきた。昨年は、当社のオープンソース大規模言語モデル(LLM)である『通義千問(Qwen)』が、資生堂傘下のスキンケアブランド・Drunk Elephant(ドランク エレファント)による新技術『DRUNKGPT』の中国市場向けアプリケーションに導入された。これにより、製品のおすすめからスキンケアのアドバイスまで、お客様からのお問い合わせに対して、よりきめ細やかでパーソナライズされた対応が可能となっている」

――いずれの事例も、AIと組み合わせてクラウドサービスを受注しています。

「アリババクラウドが全社で『AI+クラウド』という受注戦略を掲げており、日本でも2025年3月に『AIパートナーシッププログラム』を始めると発表済みだ。具体的には、日本語に対応したQwenの最新モデルを投入し、受注活動をテコ入れした。and factoryなどとの提携は、その一例でもある」

「さらに、動画基盤モデル『通義万相(Wan)」の最新バージョンも日本市場に導入予定。

高品質なテキストから動画、画像から動画の生成が可能となり、メディア、広告、デジタルコンテンツ業界での活用が進むと見込んでいる」

――アリババクラウドは2025年4月末に、最新版の「Qwen3」を発表しました。これは日本市場の開拓でどんなプラス効果がありましたか。

「Qwen3には、当社として初めてLLMと論理的推論の能力を兼ね備えた『ハイブリッド推論モデル』を採用するなど革新的な仕様が特徴だが、日本市場の開拓にあたっては日本語を含む119種類の言語・方言に対応している点が大きい。発表から1カ月余りの6月9日の時点で、全世界での累計ダウンロード数は1250万件を超えている。現在、Qwen3は世界的にトップクラスのオープンモデルとして認識されている(出典)」

推論コスト、DeepSeekの3分の1に⋯世界を揺らすアリババ「Qwen3」、オープンソースLLMで“最強“評価

――日本のクラウド市場は、アマゾン・ウェブ・サービス(AWS)やマイクロソフト・アジュールなどグローバル企業との競争が激しい中で、アリババクラウドの強みは何でしょうか。

「当社のクラウドサービスは、アリババグループ内の実際のニーズに応える形で発展してきた。たとえば、ECプラットフォームの急成長を支えるために、自社で分散型データベースを開発した実績がある。つまり、当社の技術は実環境での応用を通じて進化しており、今も“実践に根ざしたソリューション”の提供を重視している」

――Qwenはオープンソース型のAIサービスですが、アリババクラウドはどのように収益化しているのでしょうか。そして、オープンソース型AIの強みとは何ですか。

「ユーザーは、事前にトレーニングされたQwenのLLMを自由にダウンロードし、自社インフラ環境にローカルで導入することができる。クローズド型AIとは異なり、当社のオープンソース型はすべてのデータをローカルで処理できるため、特に銀行業界のような厳格なデータガバナンスが求められる業種に適している」

「QwenのLLMを活用して各社が独自のエコシステム(生態系)を構築する際、当社はチューニング、アップデート、保守といった商用サービスを有償で提供している。加えて、Qwen運用に最適化された当社のクラウドコンピューティング基盤も併せて提供しており、インフラ、開発ツール、各種AIモデルを含む“フルスタック”のクラウドサービスをご活用いただける」

――中国発の生成AIではDeepSeekもオープンソース型の戦略をとっていますが、アリババクラウドの競争優位はどこにありますか。

「中国国内では、当社は最大級のAIオープンソースコミュニティ『魔搭(ModelScope)』を運営している。中小企業や創業者など、アイデアを持つ誰もがAIを活用できる環境を整えるためだ。2022年11月の設立から3年足らずだが、500社以上が参加し、登録ユーザーは1600万人以上に拡大した。公開されたAIモデルの総数は7万件を超えている」

「当社のAIはQwen3が119種類の言語に対応していることが示す通り、そもそも国際展開を視野に入れた仕様となっている。これは中国の他のオープンソース型AIには真似のできない優位性だ。米国発のAIモデルのプログラム共有サイト『ハギングフェイス(Hugging Face)』では、すでにQwenをベースにした派生モデルが13万件以上公開されている。これは米メタのLLM『Llama(ラマ)』をベースにした派生モデルの数を上回っている。さらに、Qwenには0.6Bの軽量モデルから大規模なモデルまで、さまざまなサイズのバリエーションがある。中でも小型・軽量なモデルは、エッジ環境での活用に非常に適しており、デバイス上でのカスタマイズや導入がしやすいという利点がある。そのため、グローバルの開発者の間でも高い人気を集めている」

Qwen3モデルは業界の各種ベンチマークでトップクラスの結果を達成

――日本では中国発のクラウドサービスに対し、セキュリティー上の懸念を指摘する声も根強いです。

「日本に3カ所のデータセンターを置いていること自体が、当社がこの指摘に真剣に対応していることの証明だ。言うまでもなく、日本ローカルで全てのクラウド・AIサービスを提供することができる。

進出先の各国・地域でこうした懸念を払しょくするため、当社は世界全体で130件を超えるセキュリティーとコンプライアンスの認証を取得済みだ」

――AI活用が進むなかで、データセンターの消費電力の増大など環境負荷が世界的な問題になっています。アリババクラウドはどう対応していますか。

「当社は2024年9月に、中国でエネルギー効率の高い計算処理を可能にする次世代データセンターアーキテクチャ『CUBE DC5.0』を導入し、2017年にはデータセンターを液体によって冷却する技術を導入している。日本に持つデータセンターにも可能な限り、これらの技術を導入したいと考えている」

――あなたは2024年10月にカントリーマネージャーに就任しました。改めて、抱負をお聞かせください

アリババクラウド、「+AI」で日本市場の開拓強化 新トップ “実践知で勝負” 

「私は大阪大学大学院で情報科学の修士号を取得し、その後は富士通、スクエアエニックスと一貫して日本のIT(情報技術)業界で働いてきた。アリババクラウド・ジャパンサービスにもチーフソリューションアーキテクトなどとして6年以上在籍しており、当社のクラウド・AIサービスに対する日本の顧客からのニーズに十分に対応できると考えている。現在、日本法人には日本採用のローカルチームがあり、日本語と英語の両方に堪能なメンバーがお客様のニーズにきめ細かく対応している。最先端のクラウドおよびAI技術を通じて、日本企業のDXを力強く支援できると確信している」

(取材:36Kr Japan編集部)

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