いま、Z世代を中心に「Buy Now, Pay Later(以下、BNPL:後払い決済)」の利用が急増している。米国の世界的な市場調査・コンサルティング会社、J.D. Powerが行った、2024年のホリデーシーズンの調査では、Z世代のBNPL利用率がクレジットカード利用率を初めて上回った。
こうした流れは単なる決済手段の変化にとどまらず、同国で2025年秋から始まる信用スコア制度の改定によって、若年層の“信用のかたち”を大きく変えようとしている。

本記事では、Z世代のBNPL利用が進む背景や信用スコアへの影響、そして日本市場への波及について多角的に考察する。

なぜZ世代はクレジットカードよりBNPLを好むのか?

Z世代とY世代(ミレニアル世代)は、現在BNPLサービスの主要な利用層となっている。J.D. Powerの2025年版の調査によれば、この2世代の利用率は全体の42%に達し、他世代(21%)を大きく上回っている。特にZ世代は、BNPLをクレジットカードの魅力的な代替手段と捉えており、同調査ではZ世代のBNPL利用率が史上初めてクレジットカード利用率を上回ったと報告されている。

この傾向の背景には、いくつかの明確な理由がある。まず、クレジットカードに付随するリボ払いや分割払いの金利・手数料を避けたいという意識が強い。BNPLは一定期間の後払いが無利息で提供されることが多く、コストパフォーマンスを重視するZ世代にとっては合理的な選択肢となっている。

また、BNPLは従来のクレジットカードに比べて審査が非常に簡易で、利用登録も即時に完了する。アプリを開いて数回タップするだけで決済が可能な手軽さは、スピード感と効率を求めるZ世代の消費行動にフィットしている。

さらに、BNPLはオンラインショッピングとの相性が良く、ファッションやガジェット、日用品といったZ世代の関心が高いカテゴリで広く導入されている。ECサイトやアプリとシームレスに連携した決済体験は、直感的な操作を好む若年層にとって大きな魅力となっている。支払いという行為が、スマホ一つでスムーズに完結するというUX設計そのものが、彼らの金融行動をBNPLへと自然に導いていると言えるだろう。


このように、Z世代がBNPLを選好するのは、単なる流行や便利さにとどまらず、金融コストへの感度、スピード重視のライフスタイル、デジタルネイティブとしての感性が複合的に作用した結果なのである。

BNPLが信用スコアに組み込まれる衝撃

このように拡大を続けるBNPLだが、2025年秋にはその存在が金融システム全体に大きな影響を及ぼすことになる。米国では、FICO(Fair Isaac Corporation)が新たな信用スコアの計算方法を導入する予定だ。この新アルゴリズムでは、従来のスコアに反映されていなかったBNPLの返済履歴も評価対象に含まれる。

この変更により、若年層の信用行動がより明確に可視化されるようになる。たとえば、BNPLの返済を期日通りに続けていれば、それが信用構築に寄与する。一方、支払い遅延や利用過多が続けば、逆に信用スコアを下げる要因となる。

WEF(世界経済フォーラム)は、この新ルールは特にZ世代にとって“諸刃の剣”となる可能性があると指摘。従来、クレジットカードの使用履歴を持たなかったことで「信用履歴が薄い」と評価されていた若年層が、BNPLの返済行動を通じてスコアを構築できるようになるのは画期的だが、金融リテラシーが不十分なまま乱用すれば逆効果になるリスクもある。

「支払い行動」が「信用」に変わる時代、必要な金融教育とは?

このように「どのようにお金を払うか」が、その人の「信用」に直結する時代では、金融教育の重要性が増している。BNPLは一見、気軽で便利なサービスに見えるが、仕組みを理解せずに使うことで「無意識の借金」を積み重ねてしまうケースもある。複数のBNPL業者を利用して多重債務状態に陥るリスクも無視できない。

この状況に対処するには、個人の自助努力に加えて、社会全体での教育体制の強化が求められる。たとえば学校教育では、金利や信用スコアの基本的な仕組みに加え、BNPLのような新しい金融サービスについても教える必要がある。
また、企業側にも透明な情報提供や利用上限の設計といった責任が問われる。

先にも述べたように、米国では、今後BNPLの返済履歴が信用スコアに反映される新制度が2025年秋に導入される予定だが、こうした規制強化の流れは他国にも波及している。オーストラリアでは、2025年6月以降BNPLの利用履歴が信用機関に報告される仕組みが整備され、延滞や債務超過がスコアに影響するようになった。また中国でも、2021年以降、アリペイの「Huabei」など主要BNPLサービスが国家の信用情報システムと連携し、ユーザーの返済状況を登録する体制が整備された。

このように、BNPLが「個人の信用」を形成するツールとなりつつあるなかで、制度面・教育面・リテラシー面の三方向からの備えが急務となっている。

日本でも加速するBNPL市場とZ世代のシンクロ

BNPLの潮流はアメリカだけの話ではない。日本でも「メルペイスマート払い」や「Paidy(ペイディ)」といったサービスが若年層を中心に利用を拡大している。2020年以降、非接触決済やキャッシュレス決済が加速したこともあり、BNPLの導入障壁は下がってきた。

特にPaidyは、メールアドレスと携帯番号だけで利用できる手軽さからZ世代に人気があり、Amazonなど大手ECサイトとも連携している。また、メルカリのようなフリマアプリ経済圏の中で、ユーザー間での即時取引とBNPLの相性が良いことも利用拡大を後押ししている。

ただし、日本におけるBNPLの信用スコアへの影響はまだ限定的だ。アメリカのようにスコアに反映される制度は整備されておらず、規制も未成熟である。一方で、金融庁などが注視を始めており、将来的には返済履歴の信用情報機関への報告義務などの制度化が進む可能性がある。


未来の信用は「買い方」で決まる

Z世代が好む「後払い」という選択は、単なる決済手段の進化ではない。それは「信用」の概念そのものを再定義する動きとも言える。BNPLのようなサービスは、適切に使えば若者にとって強力な信用構築ツールとなり得る。しかし、過信すれば落とし穴にもなりかねない。

未来の信用社会において問われるのは、「どれだけ借りたか」よりも「どのように返したか」。そうした価値観を支えるために、金融リテラシー教育、制度整備、そして個人の自覚という三本柱のバランスが、これからの時代を左右する鍵となるだろう。

文:中井 千尋(Livit
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