
経済や産業の進化に不可欠なBtoB企業に焦点を当て、その強みや社会的価値を可視化することで、そのダイナミズムと未来におけるBtoB企業の価値成長を紐解く企画「Social Shifter~進化を加速させる日本のBtoB」 。今回取り上げるのは、 株式会社カオナビだ。
同社では、人材マネジメントの手法である「タレントマネジメント」を推進するツールとして「カオナビ」を展開。ツール上で人材情報を一元化・可視化することで、社員一人ひとりの能力やスキルを最大限に活用する「タレントマネジメント」を推進する狙いがある。そんなカオナビの革新的なプロダクトの特徴や導入現場での成果について、今回は同社 CPO(Chief Product Officer) 平松 達矢氏に話をうかがい、人材マネジメントにおけるDX推進を考えていきたい。
<企業概要>
株式会社カオナビ
クラウド型タレントマネジメントシステム「カオナビ」を提供する日本のHRテック企業。顔写真付きの人材情報を一元管理し、スキルや評価、志向性などを可視化することで、企業の人材配置や育成、評価を支援する。属人的な判断に依存しない戦略的人事を可能にし、組織の生産性向上に貢献。多様な業種・規模の企業に導入されており、導入実績は4,000社を超える。
企業公式サイト:https://corp.kaonavi.jp/
「人事部が40代以上の中堅・ベテラン社員ばかりで構成されることも多いため、働き盛りの20代、30代の若手層との間にギャップが生じ、企業文化に馴染めず離職してしまうケースも見られます。採用競争が激化する中、さらに人材の流出まで加速してしまうと、人材の確保はさらに難しくなるわけです」
事実、国内で優先的に対処すべきリスクの1位は「人材流出、人材獲得の困難による人材不足」を挙げる調査データもある。
これらの課題に対し、社員の特性や意向を理解したうえで本来の能力やスキルを発揮してもらうために取り組むのが、タレントマネジメントだ。まずは人材情報を可視化し、社員の個性を理解しながら、経営目標の達成につながる戦略的な人事施策の実行が急がれる。
従来の人事情報を管理する基幹システムやExcelは、社員の個性を可視化するには不向きだった。なぜなら、名前や社員番号、給与といった基本的な情報のみの管理に留まってしまい、それぞれの社員が持つ多岐にわたる情報を会社や人事が把握することができなかったからだ。
「現行の業務に直接的な関連性はないけれど、優れたスキルを持った社員は少なくありません。ですが、会社や人事はそれに気づけていないんです。例えば、エンジニアとして働いている人が実は絵の才能があり、受賞したような経験があったとしても、履歴書上には表れないため、会社側がそのスキルを知れる機会がありません。従来の基幹システムやExcelだと、1つの画面で複数の従業員情報をまとめてリスト化するため、一人の情報は1行でしか表現できず、その人の全体像を把握するのは難しかったわけです。
ですが、画面全体を使って顔写真付きで、これまでの経験やスキル、キャリア志向などを一人ひとり表現すると、もっと奥行きのある情報が見えてくる。その人の個性が見えることで直接声をかけるきっかけになるなど、次のアクションにもつなげやすいですよね」
こうした気づきから、顔写真付きの人材データベースとして「カオナビ」が誕生し、社員の個性を正しく理解できる世界を目指した。
実際、創業当初は「社員の顔写真が一覧で見られるようにしたい」というニーズが中心であったが、人材情報の可視化が進むにつれて「個々の社員をもっと深く知りたい」というニーズが生まれた。
「人事担当者や経営者が『この社員のことをもっと深く知りたい』と思うようになったことで、『評価制度もきちんと整備したい』『この情報も集めたい』『集めた情報をもとに多面的に分析したい』といったご意見も耳にするようになりました。
平松氏は「カオナビ」の特徴を一言で、「汎用性の高さ」だと表現する。
「SaaSのプロダクトは一般的に、『これがベストだ』という特定の最適解を提供し、どの企業でも同じように使えることを目指します。
一方で『カオナビ』はSaaSでありながら企業の社風や人材データの保有方法、組織構造におけるこだわりなど、企業ごとの個性をクラウド上で表現できる『汎用性の高さ』が特徴です。これは、企業として私たちが大切にしている『人の個性を正しく理解できる世界観』と同様に、プロダクトにおいてもお客様の個性に寄り添いたいと考えているためです。当たり前ですが、人に個性があるように、企業の人事制度にも個性があります。企業ごとの違いに寄り添うかたちでプロダクトを提供しようと思ったとき、最も大事なことが『汎用性の高さ』だったんです」
同社がとりわけ重視する汎用性は、顧客への提案場面でも活かされている。例えば、営業担当者が顧客からヒアリングした要望は、翌週の商談で「うちの会社専用だ」と思わせるほどカスタマイズされたかたちでカオナビに反映されることがあるという。
「通常、営業担当者はプロダクトのデモ画面を見せながら提案しますが、お客様から『もっとこうしたい』という要望を聞いた際、各担当者主導で柔軟にカスタマイズした提案もできます。『この機能を外して、代わりにこれとこれを追加して』といったかたちで、お客様にとって理想的な人事評価シートなどをカオナビ上で再現して提案できるんです」
なかにはシステムの仕様上、顧客からの要望を再現できないこともある。こうした機能の改善要望は、年1~2回顧客に配布される「ロードマップ」に反映される。
ロードマップはオフラインイベントなどで、顧客に配布される。「ロードマップを通じ、お客様は自身の意見がどのようにプロダクトに反映されるのかを知ることができるため、カオナビとの一体感醸成にもつながっています」
「元々『カオナビ』というサービスは、創業者の『三国志のゲームのように人事管理ができたら』という発想から生まれたものでもあります。そのため開発では、楽しく操作できるUIを目指し、学習コストを感じさせず、導入ハードルを下げるよう意識しています。ゲーミフィケーションを具体的な行動指針に落とし込むかたちで、説明書なしで直感的に使える『ユニバーサルデザイン』、新しいものをつくり出す余白がある『クラフト』、さらに最新のデバイスに対応する『テクノロジートレンド』も掲げています」
また、顧客がつまずかないような導入支援にも力を入れている。
「多くの企業では、すでに履歴書やExcelなど、何らかの人材情報を保有しています。しかし、そのデータが『活用できる状態ではない』お客様がほとんどなので、『カオナビ』への既存データの移行が最初の課題となります。そのため、カスタマーサクセスやサポート担当者が伴走するかたちで、初期設定のサポートを手厚く行っています」
さらに「カオナビ」は、単なるツールの提供に留まらず、ユーザーコミュニティでの交流が活発なのも強みだ。
「ユーザーコミュニティである『カオナビキャンパス』には、利用企業の85%以上が参加しており、毎週のようにコミュニティ活動が行われています。お客様同士のコミュニケーションを通じ、活用状況を相対的に把握したり、ヒントを得たりすることで、自社内でのカオナビの活用を一歩前に進めるきっかけになっていると感じています」
「製造業において、工場や生産ラインの現場では、高い専門性を持つ職人技のようなスキルが培われています。しかし、これらのスキルは言語化されていないことが多いんです。そこで、『カオナビ』を導入することで、これまで工場長などが感覚的に把握していた生産管理能力やマネジメント力、コミュニケーション力などの定性的なスキルを可視化します。
その結果、自社の生産ラインが持つ多様な職能が存在することを改めて認識したり、特定のスキルが60代社員に集中しているため、10年後には失われる可能性が高いことに気付いたりと、課題発見につながることがあります」
また、経営層やマネージャー層にとっては、スマホアプリで社員の顔と名前、情報が確認できるため、現場訪問の際などにスムーズに声をかけられるきっかけとなっている。
「例えば、『今日はこの部署を見に行こう』『この店舗に行こう』というときに、事前にその部署や店舗の人材情報を確認しておくことで、現地でのコミュニケーションが円滑になります。このように、マネジメント層が社員の顔と名前を一致させる補助として活用するケースも多いですね」
「現状だと1on1を実施したとしても、手入力でシステムに登録したり、記録したりするのが現状です。ただし、オンライン会議ツールなどを使えば自動で文字起こしができるので、そうした上司と部下のコミュニケーションや成長の変遷までを自動でデータとして蓄積できる状態になると、より企業側は人の個性を正しく理解できるようになると思うんです。息をするように情報が蓄積され、それがきちんと人材マネジメントに活用される。そんな状態を目指したいですね」
企業が直面する人材不足や若手の離職といった課題に対し、人物像を深く理解するための情報の「可視化」を通じて解決しようとするカオナビ。個々の個性が正しく理解され、最適な活躍の場が与えられるようになれば、誰もが自分らしく価値を発揮できる社会になる。自分の強みを理解し、仕事に対して自信を持てるようになれば、主体的にキャリアを歩む人も増えるだろう。人と組織の関係性をアップデートするプラットフォームとして、カオナビが描く未来に期待したい。
取材・文:吉田 祐基
写真:小笠原 大介
人材不足、多様な働き方の台頭、そしてDXの加速。企業の成長戦略に「人材マネジメント」がかつてないほど重要なテーマとなるなか、人材マネジメントツールのリーディングカンパニーとして注目されている。
同社では、人材マネジメントの手法である「タレントマネジメント」を推進するツールとして「カオナビ」を展開。ツール上で人材情報を一元化・可視化することで、社員一人ひとりの能力やスキルを最大限に活用する「タレントマネジメント」を推進する狙いがある。そんなカオナビの革新的なプロダクトの特徴や導入現場での成果について、今回は同社 CPO(Chief Product Officer) 平松 達矢氏に話をうかがい、人材マネジメントにおけるDX推進を考えていきたい。
<企業概要>
株式会社カオナビ
クラウド型タレントマネジメントシステム「カオナビ」を提供する日本のHRテック企業。顔写真付きの人材情報を一元管理し、スキルや評価、志向性などを可視化することで、企業の人材配置や育成、評価を支援する。属人的な判断に依存しない戦略的人事を可能にし、組織の生産性向上に貢献。多様な業種・規模の企業に導入されており、導入実績は4,000社を超える。
企業公式サイト:https://corp.kaonavi.jp/
人物像に奥行きをもたせ、個性を正しく理解できる世界を目指す
現在、企業の人材マネジメント領域で最も顕著な課題は、人口減少による採用競争の激化である。さらに、転職が当たり前になる中、時間をかけて育成した若手人材の流出はかつてないほどになっていると平松氏は指摘する。「人事部が40代以上の中堅・ベテラン社員ばかりで構成されることも多いため、働き盛りの20代、30代の若手層との間にギャップが生じ、企業文化に馴染めず離職してしまうケースも見られます。採用競争が激化する中、さらに人材の流出まで加速してしまうと、人材の確保はさらに難しくなるわけです」
事実、国内で優先的に対処すべきリスクの1位は「人材流出、人材獲得の困難による人材不足」を挙げる調査データもある。
これらの課題に対し、社員の特性や意向を理解したうえで本来の能力やスキルを発揮してもらうために取り組むのが、タレントマネジメントだ。まずは人材情報を可視化し、社員の個性を理解しながら、経営目標の達成につながる戦略的な人事施策の実行が急がれる。
従来の人事情報を管理する基幹システムやExcelは、社員の個性を可視化するには不向きだった。なぜなら、名前や社員番号、給与といった基本的な情報のみの管理に留まってしまい、それぞれの社員が持つ多岐にわたる情報を会社や人事が把握することができなかったからだ。
「現行の業務に直接的な関連性はないけれど、優れたスキルを持った社員は少なくありません。ですが、会社や人事はそれに気づけていないんです。例えば、エンジニアとして働いている人が実は絵の才能があり、受賞したような経験があったとしても、履歴書上には表れないため、会社側がそのスキルを知れる機会がありません。従来の基幹システムやExcelだと、1つの画面で複数の従業員情報をまとめてリスト化するため、一人の情報は1行でしか表現できず、その人の全体像を把握するのは難しかったわけです。
ですが、画面全体を使って顔写真付きで、これまでの経験やスキル、キャリア志向などを一人ひとり表現すると、もっと奥行きのある情報が見えてくる。その人の個性が見えることで直接声をかけるきっかけになるなど、次のアクションにもつなげやすいですよね」

実際、創業当初は「社員の顔写真が一覧で見られるようにしたい」というニーズが中心であったが、人材情報の可視化が進むにつれて「個々の社員をもっと深く知りたい」というニーズが生まれた。
「人事担当者や経営者が『この社員のことをもっと深く知りたい』と思うようになったことで、『評価制度もきちんと整備したい』『この情報も集めたい』『集めた情報をもとに多面的に分析したい』といったご意見も耳にするようになりました。
そうしたニーズに応えて機能を拡充してきた結果、導入していただけるお客様の数も増えていきました」
「うちの会社専用みたい」を実現する、汎用性の高さがプロダクトの強み
プロダクトの特徴も、詳しく見ていきたい。平松氏は「カオナビ」の特徴を一言で、「汎用性の高さ」だと表現する。
「SaaSのプロダクトは一般的に、『これがベストだ』という特定の最適解を提供し、どの企業でも同じように使えることを目指します。
一方で『カオナビ』はSaaSでありながら企業の社風や人材データの保有方法、組織構造におけるこだわりなど、企業ごとの個性をクラウド上で表現できる『汎用性の高さ』が特徴です。これは、企業として私たちが大切にしている『人の個性を正しく理解できる世界観』と同様に、プロダクトにおいてもお客様の個性に寄り添いたいと考えているためです。当たり前ですが、人に個性があるように、企業の人事制度にも個性があります。企業ごとの違いに寄り添うかたちでプロダクトを提供しようと思ったとき、最も大事なことが『汎用性の高さ』だったんです」
同社がとりわけ重視する汎用性は、顧客への提案場面でも活かされている。例えば、営業担当者が顧客からヒアリングした要望は、翌週の商談で「うちの会社専用だ」と思わせるほどカスタマイズされたかたちでカオナビに反映されることがあるという。
「通常、営業担当者はプロダクトのデモ画面を見せながら提案しますが、お客様から『もっとこうしたい』という要望を聞いた際、各担当者主導で柔軟にカスタマイズした提案もできます。『この機能を外して、代わりにこれとこれを追加して』といったかたちで、お客様にとって理想的な人事評価シートなどをカオナビ上で再現して提案できるんです」
なかにはシステムの仕様上、顧客からの要望を再現できないこともある。こうした機能の改善要望は、年1~2回顧客に配布される「ロードマップ」に反映される。

BtoBのプロダクトでも「ゲーム感覚で使える」ことが大事
汎用性が高いがゆえに、操作や画面が複雑になる懸念もある。だからこそ大切にしているのが、「ゲーム感覚で使える」こと──つまりゲーミフィケーションの思想だ。「元々『カオナビ』というサービスは、創業者の『三国志のゲームのように人事管理ができたら』という発想から生まれたものでもあります。そのため開発では、楽しく操作できるUIを目指し、学習コストを感じさせず、導入ハードルを下げるよう意識しています。ゲーミフィケーションを具体的な行動指針に落とし込むかたちで、説明書なしで直感的に使える『ユニバーサルデザイン』、新しいものをつくり出す余白がある『クラフト』、さらに最新のデバイスに対応する『テクノロジートレンド』も掲げています」

「多くの企業では、すでに履歴書やExcelなど、何らかの人材情報を保有しています。しかし、そのデータが『活用できる状態ではない』お客様がほとんどなので、『カオナビ』への既存データの移行が最初の課題となります。そのため、カスタマーサクセスやサポート担当者が伴走するかたちで、初期設定のサポートを手厚く行っています」
さらに「カオナビ」は、単なるツールの提供に留まらず、ユーザーコミュニティでの交流が活発なのも強みだ。
「ユーザーコミュニティである『カオナビキャンパス』には、利用企業の85%以上が参加しており、毎週のようにコミュニティ活動が行われています。お客様同士のコミュニケーションを通じ、活用状況を相対的に把握したり、ヒントを得たりすることで、自社内でのカオナビの活用を一歩前に進めるきっかけになっていると感じています」
スキルや顔の見える化がもたらす意外な効果
「カオナビ」を導入した企業では、象徴的な変革が数多く起きている。例えば製造業では、職人技のような言語化されにくい専門スキルを「カオナビ」に登録することで、新たな気づきが生まれているという。「製造業において、工場や生産ラインの現場では、高い専門性を持つ職人技のようなスキルが培われています。しかし、これらのスキルは言語化されていないことが多いんです。そこで、『カオナビ』を導入することで、これまで工場長などが感覚的に把握していた生産管理能力やマネジメント力、コミュニケーション力などの定性的なスキルを可視化します。
その結果、自社の生産ラインが持つ多様な職能が存在することを改めて認識したり、特定のスキルが60代社員に集中しているため、10年後には失われる可能性が高いことに気付いたりと、課題発見につながることがあります」
また、経営層やマネージャー層にとっては、スマホアプリで社員の顔と名前、情報が確認できるため、現場訪問の際などにスムーズに声をかけられるきっかけとなっている。
「例えば、『今日はこの部署を見に行こう』『この店舗に行こう』というときに、事前にその部署や店舗の人材情報を確認しておくことで、現地でのコミュニケーションが円滑になります。このように、マネジメント層が社員の顔と名前を一致させる補助として活用するケースも多いですね」

息をするように個人の情報が蓄積され、活用される未来
人の個性を正しく理解できる世界を目指し、プロダクトを展開するカオナビ。企業側はタイムリーに社員の情報を見ることができ、それが企業と社員双方にとって幸せな状態を実現したいと話す。「現状だと1on1を実施したとしても、手入力でシステムに登録したり、記録したりするのが現状です。ただし、オンライン会議ツールなどを使えば自動で文字起こしができるので、そうした上司と部下のコミュニケーションや成長の変遷までを自動でデータとして蓄積できる状態になると、より企業側は人の個性を正しく理解できるようになると思うんです。息をするように情報が蓄積され、それがきちんと人材マネジメントに活用される。そんな状態を目指したいですね」
企業が直面する人材不足や若手の離職といった課題に対し、人物像を深く理解するための情報の「可視化」を通じて解決しようとするカオナビ。個々の個性が正しく理解され、最適な活躍の場が与えられるようになれば、誰もが自分らしく価値を発揮できる社会になる。自分の強みを理解し、仕事に対して自信を持てるようになれば、主体的にキャリアを歩む人も増えるだろう。人と組織の関係性をアップデートするプラットフォームとして、カオナビが描く未来に期待したい。
取材・文:吉田 祐基
写真:小笠原 大介
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