「検索されない世界」で生き残るために。淘汰されるメディア、生き残るメディアとは
GoogleのAI Overviews、日々進化するChatGPTなどの生成AI、そしてAIエージェントの台頭。今、検索プラットフォームは大きな転換点を迎えている。
情報を「検索して探す」時代から、AIが最適な答えを提示し、購買や行動に直結させる時代へと移行しつつあるのだ。

ユーザーはキーワードで検索する代わりに、AIに日常会話のように質問する。その回答として、ブランドや商品の情報、メディア記事の要約が瞬時に生成される。この激変期において、情報発信するメディアの役割も再定義が迫られている。

「検索されない世界」で生き残るために、メディアはどのような価値を提供すべきか。株式会社TechFabricの代表取締役社長であり、「SEO研究チャンネル」を運営する平大志朗氏に、急激な変化の波と、その中でも変わらない本質について聞いた。

【プロフィール】平 大志朗(たいら だいしろう)氏株式会社TechFabric 代表取締役社長。YouTubeチャンネル「SEO研究チャンネル」運営者。1987年生まれ。米国でエンジニアリングを学んだ後、インターネット関連事業会社でリスティング広告の営業・運用に携わる。2012年に株式会社Speeeに入社し、SEOディレクターとして従事。2014年4月、株式会社CINC(当時・株式会社Core)を共同創業。
退任後、現在はTechFabricにてAIやDXのコンサルティングを手掛けている。

生成AIの登場で、従来の“検索エコシステム”が揺らぎ始めた

検索エンジンが登場して以来、その仕組みは常にアップデートを続けてきた。しかし、今回の生成AIの影響は、過去に類を見ない構造的な変革だと平氏は語る。

「スマートフォンの登場がそうであったように、IT業界では5年から10年周期で大きな転換点が訪れます。今回、検索業界にその波が来たと捉えています」

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この変化に対し、業界はかつてないほど騒がしく、多くの企業が「漠然とした不安」を抱えていると言う。 その不安の根源は、これまで長年続いてきた検索におけるエコシステムが、根底から覆されるかもしれないという懸念だ。

「これまでWebサイト運営者は、Googleに有益なコンテンツを提供する代わりに、サイトへのトラフィックを得るというエコシステムの中にいました。集客によって収益が生まれ、ユーザーにも有益な情報が届く。まさに“三方よし”の関係が成り立っていたのです。 しかし、生成AIはコンテンツから学習はするものの、必ずしも集客を送り返してくれるとは限りません」

一方でGoogleは公式ブログで、AI機能の導入後もWebサイトへのクリック数は減少していないと発表している。AIによって「より多くの種類の検索」や「質の高いクリック」が生まれている、というのがGoogleの見解だ。

しかし「クリック数が減る現象」や、検索エンジンからの流入を前提としたこれまでのエコシステムが揺らいでいるという肌感覚は、依然として多くのメディア担当者やマーケターに共通する不安だ。

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参照:SEO研究チャンネル現に平氏が独自に分析した調査によると、AI Overviewsの出現以降、特に情報探索系のキーワードで集客していたメディアを中心に、クリック数が減少する傾向が確認された。
検索結果への表示回数は横ばい、あるいは微増しているにもかかわらず、クリック数だけが減少するケースも見られる。これは、自然検索での順位に大きな変動はなくとも、AI Overviewsがユーザーの検索意図を満たした結果、クリックの必要がなくなった、とも解釈できる。

ただし、平氏はこうも付け加える。

「AI Overviewsの表示が増え始めた2025年3月頃に、Googleのコアアルゴリズムアップデートも同時に実施されました」

分析期間中に複数回のコアアルゴリズムアップデートも実施されている。そのため、クリック数の変動がAI Overviewsだけの直接的な影響なのか、これらの要因が複合的に絡み合った結果なのかを慎重に見極める必要がある。

では、コンテンツ提供者はこの変化にどう対応すべきなのだろうか。

「非常に難しい問題で、Googleさえも答えを持っておらず、業界全体で試行錯誤しているのが現状です。時代なのか、AIに自社コンテンツを学習させないためのファイアウォールを提供する企業も登場するほどです。何が正解なのか分からない。誰もが手探りで市場を作っている段階です」

淘汰されるメディアと、価値が高まるメディアの違い

このような状況で平氏が指摘するのは、メディアの役割そのものの変化だ。

「これまでのSEOは、関連するキーワードを広く拾い、とにかく接点を増やす『集客』が目的でした。しかし今後は、AIに自社ブランドや商品を推奨されるか、また、より深い情報を求めて訪れたユーザーの『受け皿』としてWebサイトが役割を果たせるかが重要になります」

つまり、これからは「いかにしてAIに自社ブランドを推奨してもらうか」が新たな戦場になるのだ。

さらにAI時代において、本当に価値が高まるのは、“当事者”にしか作れない一次情報だと平氏は強調する。


「生成AIには、人間のように自ら体験したり、見聞きしたりして一次情報を生み出すことができません。逆に言えば、既存の情報を収集・要約して二次情報を生成するようなキュレーションは、人間よりもAIの方が得意な領域です」

平氏が指摘するように、AIは「当事者」になれない。AIが既存の情報を整理・最適化することに長けているからこそ、人間が直接得る一次情報、つまり自身の「体験」から得た知見の価値は相対的に高まる。

その体験に基づく「専門性」が社会的に認められ、「権威性」や「信頼性」が育まれれば、AIが模倣できない唯一無二の情報となる。AI時代において、メディアや企業が発信する情報に真の価値をもたせる鍵は、ここにあると言えるだろう。

「検索されない世界」で生き残るために。淘汰されるメディア、生き残るメディアとは
では、今後どのようなメディアが生き残るのか。それは、AIに“参照データ”として重宝され、かつ読者からも支持され続けるメディアと平氏は言う。

「具体的には、そのメディアでしか得られない独自かつ便益のある一次情報や、『この人が言うから信頼できる』という権威性のある情報が鍵となります。Googleが提唱するE-E-A-T(経験、専門性、権威性、信頼性)は、まさにこのような未来を見越して作られた概念なのかもしれません」

AIは、多くの第三者からの推薦をもとに、その商品や情報を「確からしい」と判断し、回答に採用する。そのためにも、自社での情報発信はもちろんのこと、大前提として「多くの人に支持される良い商品やサービスを作ること』が、これまで以上に重要になる。

今後も生き残る可能性が高い、信頼性の高いメディアについて、具体例も挙げてもらった。

「私は『マイベスト』を挙げたいです。
彼らの強みは、各ジャンルの専門家が、膨大な商品を一つひとつ人の手で検証するという、徹底したこだわりにあります。正直、途方もない労力がかかるので、他社は真似したくてもできません。しかし、それをやり遂げたからこそ、『マイベストにしかない情報』が生まれ、消費者から絶大な信頼を得るメディアになったと思います。普段ITに触れる機会の少ない私の母でも、何か買うときには必ず参考にしているほどですから」

比較サイトやランキングサイトも、単に情報をまとめただけでは生き残れないのだろう。信頼できる専門家が監修したり、実際にすべての商品を試したりして作られた“有益で独自の情報”であれば、AIが参照する価値は十分にあり、AI時代のメディアサイトの役割なのかもしれない。

情報発信のフォーマットについては、どうだろうか。

「記事か動画か、というフォーマットの違いは本質ではありません。かつては『動画を埋め込むと滞在時間が延びてSEOに有利だ』といった小手先のテクニックがもてはやされた時代もありました。しかし、今はAIが字幕、台本、チャプターといったデータから動画の内容を構造的に理解し、ユーザーにとっての価値を判断する時代。重要なのは、ユーザーがそのコンテンツを見て課題を解決でき、『これは他の人にも教えたい』と思えるほどの価値を提供できるかどうかです」

そのため、記事か動画かというフォーマットは、あくまでそのための手段にすぎないのである。

SEOハックの終焉。AIが評価するのはマーケティングの本質

生成AIの登場は、SEOのあり方も大きく変えようとしている。


「これまでのSEOは、良くも悪くもアルゴリズムをハックするテクニックが通用する世界でした。キーワード含有率などを意識する、テクニック重視のマーケターが成果を出せた時代です。しかし、AIが人間に近い選好をデータから学習し、擬似的に再現できるようになると、小手先のテクニックは通用しにくくなるでしょう。そうなれば、SEOを武器としてきたマーケッターも顧客に真摯に向き合い、本質的なマーケティングに取り組む土壌が整うと考えています」

もちろん、具体的なテクニックが皆無というわけではない。平氏の分析によると、現状のAI Overviewsに採用されやすいコンテンツには、「結論が明確であること」「奇抜すぎず、多くの人が納得する平均的な内容であること」といった特徴があるそうだ。しかし、こうしたテクニックはアルゴリズムの変更ですぐに通用しなくなる可能性が高く、短期的な施策に過ぎないと平氏は釘を刺す。

「検索されない世界」で生き残るために。淘汰されるメディア、生き残るメディアとは
「より重要なのは、SEOの捉え方そのものをアップデートすることです。もはや検索順位や自社サイトの流入を増やすことだけを目的とする従来型のSEOは通用しません。これからは、顧客との接点をいかにして多角的に創出するかが不可欠です。例えば、WebサイトだけでなくSNSや動画、展示会や実店舗での販促なども含めた『総力戦』が求められると考えています」

こうした状況を捉え、一部ではSEOを「Search Everywhere Optimization(検索のあらゆる場所での最適化)」と呼ぶ人もいる。つまりSEOは、従来のGoogle自然検索枠の最適化から、あらゆるプラットフォーム上で“推奨される”ための接点づくりへ、その意味合いを大きく変えつつあるのである。

また、こうした変化は市場原理の中だけで起きているわけではない。
欧州連合ではAI Overviewsに対して独占禁止法に関する異議申し立てがなされるなど、プラットフォーマーの動きには外部からの目も光る。検索の未来は、技術だけでなく、規制や競争環境といった要因にも左右される、複雑な方程式の上にあるのだ。

しかし平氏は、この状況をマーケティングが「正常化」に向かっていると前向きに捉える。

「小手先のテクニックだけで成果を出すのが難しくなると、当たり前のことですが、良質な商品・サービスを作り、その価値を根拠と共に伝える設計に投資できる企業ほど、ますます選ばれるようになっていくのだと思います」

「短期間で結果が出る」という考え方を捨て、中長期的な視点で本質的な価値を追求する。そんな当たり前を、再認識させられる取材となった。

文:吉田 祐基
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