ショウアップナイター エピソード55
<エピソード19~言っている事とやっている事が違うのが野村スタイル~>
~今年2021年、放送開始から「55周年」のシーズンを迎えたニッポン放送「ショウアップナイター」。これを記念し、中継だけでは届けきれない取材情報や解説陣の“ここだけの話”など、「55」のエピソードを紹介していく連載企画~
ショウアップナイター解説者・江本孟紀が、野村克也さんの“野村語録”を振り返った
プロ野球 南海・江本孟紀投手と野村克也捕手(右) 写真提供:産経新聞社
今年2021年に55周年を迎えるニッポン放送ショウアップナイター。
「私の野球界での一番の思い出ですが、やっぱり野村克也さんじゃないかなと思います。野村さんと言えば現役時代もさることながら監督時代も名将・野村と言われてね、皆さんもご存知の通り、選手としても監督としても活躍された方でした。私も南海時代から長いことお付き合いさせていただいて、最後は本も一緒に書かせていただきましたが、まぁ、ひとくちに思い出話と言っても色々あるので、何をお話したらいいのか迷いますが、今回は、野村語録の中から『鶴は千年、亀は万年』にまつわる語録について私が紹介・解説しましょう。
野村さんが監督時代、訪ねてくる解説者達に『あんた、運動してるか?』って聞いていて、ほとんどの方は『ウォーキングとか色々やってますよ!』と答えるんですが、そうすると……『それは、あかんで~。お前、鶴とか亀はじっとして動かないだろ。あれは動かないからあれほど長生きするんだよ! お前らは、ちょこちょこウォーキングとかジムへ行って運動したりしているけど、それは死を早めるものだからやめろ! 俺は亀なんだ。俺を見ろ! じーっと動かないだろ。だからちょろちょろ動きまわっちゃダメなんだよ』……と、そこから“亀理論”が始まるわけです。
そして野村さんがベンチに座ってそんなことを喋っているとき、私がふと足元を見ると足を浮かして動かしているんですよね。私はそれを見るなり『監督何してるんですか?なんで足浮かせているんですか?』って聞いたら、口ごもりましたよ。口では『運動は良くない』と言いつつも、頭の片隅にやっぱり体を動かさないといけないんじゃないかなぁというのがどこかにあってね。ただ、人前では“亀理論”を言った手前、運動は良くないと言い張る。
この“亀理論”、もうひとつは性格的なものもあるでしょうね。野村さんはやっぱり動くのが嫌い。運動はあまり好きじゃない。選手兼任監督時代もそうでしたね。監督とキャッチャーを兼務していましたが、練習の時は監督になるんですよ。だからベンチでずーっと選手のこと見ててね、練習をうまいことさぼったりしてるわけですよ。でも天才ですから、練習しなくてもあれだけの大選手だったわけです」

ニッポン放送ショウアップナイター解説者 江本孟紀氏
「そして監督時代、ベンチで番記者を横において色々な話をしていた野村監督ですが、話をしているうちに毎日じゃ飽きてくるので前の日に四文字熟語とか、ことわざとか、そういうものを頭に仕入れておいてましたね。ある時はポケットにネタ帳を入れてましたよ。それで、毎日違う話題をマスコミの皆さんに提供するという、この辺がやっぱり野村さんのうまさ、生き方のうまさでしたね。周りの人達はそれを聴いて「凄い事を言っているな」と感心するわけです。
野村さんがヤクルトの監督時代、私は評論家でしたので何度か喧嘩もしたこともありました。采配を批判すると、翌日待ち構えていて『お前、なんや昨日のあれは』と言われ随分言い合いしたこともありました。ある時、サード側のベンチで延々と喧嘩をしていたら試合前のノックが始まってしまって、それをサードの長嶋一茂が見ていてね、後日、『江本さんすごいですね』なんて一茂に言われましたよ。そんな思い出もあります」

野村克也さん(右)と江本孟紀氏
「私と野村克也さんは、一緒にプレーしていた、バッテリーを組んでいた現役時代から、現役引退後まで本当に長い付き合いでした。そういう意味では、私の野球界での一番の思い出はやっぱり野村克也じゃないかなと思います」

ショウアップナイター エピソード55