「駅弁」食べ歩き20年・5000個の放送作家・ライター望月が、自分の足で現地へ足を運びながら名作・新作合わせて、「いま味わうべき駅弁」をご紹介します。
青森県産黒毛和牛 牛めし
「駅弁屋さんの厨房ですよ!」第42弾・幸福の寿し本舗編(第4回/全6回)
平成22(2010)年12月の東北新幹線全線開業から5年あまり。平成28(2016)年3月には、北海道新幹線(新青森~新函館北斗間)が開業し、東北新幹線「はやぶさ」号の一部が、青函トンネルをくぐって新函館北斗まで運行されるようになりました。
E5系新幹線電車「はやぶさ」、北海道新幹線・新青森~奥津軽いまべつ間
とはいえ、新青森発着で運行される列車も多いのが事実。ちなみに、早朝・深夜の盛岡・新青森~新函館北斗間には、希少となった「はやて」を名乗る列車も運行されています。
幸福の寿し本舗・那須尚幸営業部長
新青森駅の「駅弁」を手掛けている「幸福の寿し本舗」は、90年代から青森県の「デイリーヤマザキ」のフランチャイズ店舗を運営してきました。その後、サークルK(現・ファミリーマート)が青森に進出した際も、弁当の大量生産設備を持っていたことから取引が始まりました。その意味では、コンビニ弁当から駅弁へ進出した希少な駅弁屋さんです。今回は幸福の寿し本舗・那須営業部長に、まず震災のときのことを伺いました。
幸福の寿し本舗・おにぎり製造風景
●コンビニを通じて、青森の食のライフラインを守った東日本大震災
―平成22(2010)年12月、東北新幹線が全線開業し、翌年3月5日「はやぶさ」が運行開始。さあ、これからというときに東日本大震災が起こりました。このときの青森は?
那須:青森市内は停電が続き、断水も一部ありました。震災当日は街が真っ暗になって、吹雪になり、初めて怖い感覚がありました。幸い1日半程度で復旧しましたので、翌日から八戸で津波の浸水被害に遭ったデイリーヤマザキの復旧支援に当たりました。ただ、食材や包材の供給が難しく、調達できそうな鮭やすじこなどのおにぎりなどを作るところから再開して、地元の店や復旧作業に当たる自衛隊の皆さんに納めていました。
―東北新幹線の運休が1ヵ月半以上続きましたが、どんな影響がありましたか?
那須:その間、駅弁の製造は全てストップしていました。
“マグ女”監修による津軽海峡にぐさがな弁当(現在は製造・販売終了、2016年撮影)
●北海道新幹線開業では、新作駅弁を開発!
―2010年代に入って、幸福の寿し本舗は、老舗駅弁屋さんの多くが参加している「日本鉄道構内営業中央会(中央会)」にも加盟されましたね?
那須:八戸駅弁・吉田屋さんや仙台駅弁・こばやしさんをはじめとした、東北の老舗駅弁屋さんなどのお力添えを受けながら、中央会に加盟いたしました。これによって、弊社の弁当にも駅弁マークを付けることができるようになりました。ただ、マークを付けたことで、すぐに売り上げが伸びるということもなくて、当時は、東北新幹線の車内で行われていた駅弁の車内販売の存在が大きかったと記憶しています。
―新青森開業から5年あまり、平成28(2016)年には北海道新幹線(新青森~新函館北斗間)が開業しました。これに向け、どんな準備をされましたか?
那須:JRさんからお声がけいただいて、青森県の協力のもと、新作駅弁を開発しました。津軽海峡を隔てた青森と函館の皆さんが参加した「マグロ女子会」というサークル活動とコラボして、青森県・函館デスティネーションキャンペーンに合わせて発売した、「懐かしの津軽海峡にぐ・さがな弁当」という駅弁です。青森の食材と北海道の食材を半々ずつ盛り付けた駅弁でした。“マグ女”の皆さんが弊社に来て、試食を繰り返しながら作りました。
(注)津軽海峡マグロ女子会青森と北海道・道南の女性による町おこしグループのこと。町おこしグループのリーダー、旅館の若女将、観光案内スタッフなど、約70名で構成されていたという。
新青森駅の駅弁売場
●新幹線で東京へも運ばれる、幸福の寿し本舗の駅弁!
―現在、「幸福の寿し本舗」の駅弁は、どの駅で販売されていますか?
那須:新青森駅、盛岡駅、そして東京駅「駅弁屋 祭 グランスタ東京」で販売しています。当初は駅弁を東京まで運ぶ手段が確立されていなかったのですが、いまは東京まで新幹線に載せて貰って運んでいます。ただ、新幹線による駅弁輸送は、1社当たり段ボールが3箱までという制約があるのが正直なところです。一方、車販の駅弁販売が終了したため、「ギリギリで乗ると、駅弁が買えないのが辛い」というお客様の声もいただいています。
青森県産黒毛和牛 牛めし
新青森駅はもちろん、東京駅の「駅弁屋 祭 グランスタ東京」でも、おなじみとなっている幸福の寿し本舗の「青森県産黒毛和牛 牛めし」(1200円)。発売当初は「八甲田牛 牛めし」でしたが、八甲田牛の安定供給が厳しいこともあり、現在は青森県産黒毛和牛を使用しています。那須営業部長も、「駅弁に使う、脂を落とした赤身の牛肉は、いまの健康志向の時代によく合うのでは?」と話していました。
青森県産黒毛和牛 牛めし
【おしながき】
・白飯(青森県産「青天の霹靂」使用)
・青森県産黒毛和牛の玉ねぎ炒め 糸唐辛子
・玉子焼き
・わさび菜醤油漬け
・大根漬け
青森県産黒毛和牛 牛めし
牛めし駅弁には、牛肉を煮たものが多いなか、幸福の寿し本舗の「青森県産黒毛和牛 牛めし」は珍しい“牛肉玉ねぎ炒め”の「牛めし」。特製のたれで炒めることで、牛肉の美味しさがギュッと閉じ込められる一方、玉ねぎはシャキシャキした食感はそのままに、肉のうま味がしっかりしみ込んでいて、糸唐辛子のピリ辛感と一緒に、食べ進めるのが楽しくなります。玉子焼きと漬物などささやかなおかずも付いて、いいアクセントになってくれます。
E751系電車・特急「つがる」、奥羽本線・鶴ヶ坂~大釈迦間
青森駅を発車し、新青森駅で新幹線からの乗り継ぎ客を乗せた奥羽本線上りの特急「つがる」号が、かつて峠越えの難所だった区間を軽快に走り抜けていきます。奥羽本線の弘前~青森間は、5月27日から「Suica」が利用できるエリアとなりました。
- ※画像はイメージです
- E5系新幹線電車「はやぶさ」、北海道新幹線・新青森~奥津軽いまべつ間
- 幸福の寿し本舗・那須尚幸営業部長
- 幸福の寿し本舗・おにぎり製造風景
- “マグ女”監修による津軽海峡にぐさがな弁当(現在は製造・販売終了、2016年撮影)
- 新青森駅の駅弁売場
- 青森県産黒毛和牛 牛めし
- 青森県産黒毛和牛 牛めし
- 青森県産黒毛和牛 牛めし
- E751系電車・特急「つがる」、奥羽本線・鶴ヶ坂~大釈迦間
連載情報
ライター望月の駅弁膝栗毛
「駅弁」食べ歩き15年の放送作家が「1日1駅弁」ひたすら紹介!
著者:望月崇史
昭和50(1975)年、静岡県生まれ。早稲田大学在学中から、放送作家に。ラジオ番組をきっかけに始めた全国の駅弁食べ歩きは15年以上、およそ5000個!放送の合間に、ひたすら鉄道に乗り、駅弁を食して温泉に入る生活を送る。ニッポン放送「ライター望月の駅弁膝栗毛」における1日1駅弁のウェブサイト連載をはじめ、「鉄道のある旅」をテーマとした記事の連載を行っている。日本旅のペンクラブ理事。
駅弁ブログ・ライター望月の駅弁いい気分 https://ameblo.jp/ekiben-e-kibun/