『プライヴァシーの誕生―モデル小説のトラブル史』(新曜社)著者:日比 嘉高Amazon |honto |その他の書店
明治以来、小説のモデルとされた人物が多くおり、作家とモデルとのあいだにトラブルは絶えない。モデル小説をめぐる争いを解明したり、作家研究の一環として論じたりするものはこれまでにもあったが、「私的領域」という意識の誕生と変遷との関係性において、この問題を捉え直すのは初めての試みである。


一口にモデル小説とは言っても、時代によって作家の意識も、描写の仕方も、読者の受け止め方も同じではない。内田魯庵、島崎藤村から三島由紀夫、柳美里にいたるまで、一世紀を超える歴史をたどってみると、時代ごとに想像力投影の仕方が違い、言語表現の性質が変わっただけでなく、モデル小説をめぐる人々の認識も社会の変化と響き合っていたことが浮き彫りにされた。

モデル小説の歴史的展開を分析することで、「私生活」の意識、プライバシーの観念がどのような経過をたどって変化してきたかが明らかになった。さらに、「虚構」の二面性、文学とメディアとの寄生関係、<読み>という行為の暴力性など、多くの問題が炙(あぶ)り出されて興味深い。『ジャパニーズ・アメリカ』(新曜社、2014年)以来の快著である。

【書き手】
張 競
1953年、中国上海生まれ。明治大学国際日本学部教授。上海の華東師範大学を卒業、同大学助手を経て、日本留学。東京大学大学院総合文化研究科比較文化博士課程修了。國學院大学助教授、明治大学法学部教授、ハーバード大学客員研究員などを経て現職。著書は『恋の中国文明史』(ちくま学芸文庫/第45回読売文学賞)、『近代中国と「恋愛」の発見』(岩波書店/一九九五年度サントリー学芸賞)、『中華料理の文化史』(ちくま新書)、『美女とは何か 日中美人の文化史』(角川ソフィア文庫)、『中国人の胃袋』(バジリコ)、『「情」の文化史 中国人のメンタリティー』(角川選書)、『海を越える日本文学』(ちくまプリマー新書)、『張競の日本文学診断』(五柳書院、2013)、『夢想と身体の人間博物誌: 綺想と現実の東洋』(青土社、2014)『詩文往還 戦後作家の中国体験』(日本経済新聞出版社、2014)、『時代の憂鬱 魂の幸福-文化批評というまなざし』(明石書店、2015)など多数。

【初出メディア】
毎日新聞 2020年9月26日

【書誌情報】
プライヴァシーの誕生―モデル小説のトラブル史著者:日比 嘉高
出版社:新曜社
装丁:単行本(308ページ)
発売日:2020-08-17
ISBN-10:4788516853
ISBN-13:978-4788516854
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