『時のながめ』(新潮社)著者:高井 有一Amazon |honto |その他の書店

◆戦争への深い後悔底に
高井有一のエッセイ集。高井の小説は少なからず読んできたが、エッセイ集を読むのは初めてだった。
エッセイ一つひとつがとても短い。だが、その中に、長い間文章を書いてきた人間にしかできない落ち着いた呼吸が感じられる。二十年以上も前の書き物も混じっている。

にもかかわらず、一貫している。そんな印象だ。書いてあることも対象もバラバラなのに、戦争(ほぼすべてが太平洋戦争)への深い後悔と、亡くなった文人を哀惜する感情が、文章の底に流れている。

たとえば、「戦争は悪だ」と短歌に詠み込んだ宮柊二に対し、「単純な表現だが」いまそれを言わなくなったら、「宮柊二を裏切る事になる」と書く。胸に刻みたい。

【書き手】
陣野 俊史
1961年長崎生まれ。文芸評論家、フランス文学者。ロック、ラップなどの音楽・文化論、現代日本文学をめぐる批評活動を行う。最新作に『戦争へ、文学へ 「その後」の戦争小説論』(集英社)。
その他の著書に『フランス暴動 - 移民法とラップ・フランセ』『じゃがたら』(共に河出書房新社)、『フットボール・エクスプロージョン』(白水社)、『フットボール都市論』(青土社)など。

【初出メディア】
日本経済新聞 日本経済新聞

【書誌情報】
時のながめ著者:高井 有一
出版社:新潮社
装丁:単行本(221ページ)
発売日:2015-10-30
ISBN-10:4103116064
ISBN-13:978-4103116066
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