素人目にも分かるが、昭和の競馬のレベルは低く、騎乗技術もスマートさも劣っていた。だが、昭和の騎手たちは個性が強く、レースにはスリルがあり、驚きがあった。
彼らの師となる世代には「ミスター競馬」野平祐二がいた。競馬後進国でありながら、いち早く海外競馬に目を向け、愛馬スピードシンボリで欧米の大レースに挑戦した。
戦後にあって、空前の競馬ブームをおこしたのは地方出身の怪物ハイセイコーの人気だった。競馬を知らない老若男女をも巻きこみ、増沢末夫騎手が歌った「さらばハイセイコー」は45万枚の大ヒットになった。冠名「サクラ」の馬にピンクの勝負服が似合う小島太は、「酒とタバコと夜遊びは絶対やらない」と誓って騎手になったが全部守れなかったと苦笑する。でも、競馬への純真さは人一倍だったという。
【書き手】
本村 凌二
東京大学名誉教授。博士(文学)。1947年、熊本県生まれ。1973年一橋大学社会学部卒業、1980年東京大学大学院人文科学研究科博士課程単位取得退学。
【初出メディア】
毎日新聞 2020年7月4日
【書誌情報】
昭和の名騎手著者:江面 弘也
出版社:三賢社
装丁:単行本(ソフトカバー)(264ページ)
発売日:2020-04-27
ISBN-10:4908655162
ISBN-13:978-4908655166