二千年紀一〇〇〇年間での最大の発明は何かと問えば、グーテンベルクの活版印刷だという声が高い。
だが、日本ではすでに奈良時代から、称徳天皇の発願による「百万塔陀羅尼」が印刷されている。
ところで、安定した幕藩体制のもとに読書人口が増えると、活版印刷では書物の需要に応えきれなくなり、再版に有利な木版印刷があらためて盛んになったというから、皮肉である。京都・大坂・江戸を中心に印刷・出版の産業が生まれ、学芸や大衆向けの読み物が拡がったという。
『好色一代男』が飛ぶように売れ、『雨月物語』や『南総里見八犬伝』などの読本も多くの庶民たちに親しまれたが、その背景には貸本屋が拡がっていたことも特筆される。
活版印刷が本格的に定着するのは、明治政府の近代国家づくりに従うもの。世界史のなかで異彩をはなつ日本の印刷文化は今なお注目され、そこに「印刷文化学」が生まれる素地がある。
【書き手】
本村 凌二
東京大学名誉教授。博士(文学)。1947年、熊本県生まれ。1973年一橋大学社会学部卒業、1980年東京大学大学院人文科学研究科博士課程単位取得退学。東京大学教養学部教授、同大学院総合文化研究科教授を経て、2014年4月~2018年3月まで早稲田大学国際教養学部特任教授。
【初出メディア】
毎日新聞 2021年1月30日
【書誌情報】
日本印刷文化史著者:印刷博物館
出版社:講談社
装丁:単行本(ソフトカバー)(346ページ)
発売日:2020-10-09
ISBN-10:4065204526
ISBN-13:978-4065204528