◇<1>『「細雪」の詩学: 比較ナラティヴ理論の試み』平中悠一著(田畑書店)
◇<2>『翻訳とパラテクスト: ユングマン、アイスネル、クンデラ』阿部賢一著(人文書院)
◇<3>『楽しみと日々: 壺中天書架記』高遠弘美著(法政大学出版局)
<1>目の覚めるような文芸評論研究の書。今年断トツだった。
<2>翻訳の不等価性、不均衡性を掘りさげた、チェコ文学者による稀有な研究書だ。翻訳とは二言語間の水平移動ではないことがわかる。ヨゼフ・ユングマン、パヴェル・アイスネル、クンデラの仕事をパラテクストという視点からつぶさに解明する。
<3>高遠弘美の書くものは韻文であれ散文であれ、エセーであれ評論であれ翻訳であれ、すべてが詩である。数千年の時を超えた詩人たちの交感の声が聞こえる。
『「細雪」の詩学: 比較ナラティヴ理論の試み』(田畑書店)著者:平中 悠一Amazon |honto |その他の書店


【書き手】
鴻巣 友季子
翻訳家。訳書にエミリー・ブロンテ『嵐が丘』、マーガレット・ミッチェル『風と共に去りぬ1-5巻』(以上新潮文庫)、ヴァージニア・ウルフ『灯台へ』(河出書房新社 世界文学全集2-1)、J.M.クッツェー『恥辱』(ハヤカワepi文庫)、『イエスの幼子時代』『遅い男』、マーガレット・アトウッド『昏き目の暗殺者』『誓願』(以上早川書房)『獄中シェイクスピア劇団』(集英社)、T.H.クック『緋色の記憶』(文春文庫)、ほか多数。文芸評論家、エッセイストとしても活躍し、『カーヴの隅の本棚』(文藝春秋)『熟成する物語たち』(新潮社)『明治大正 翻訳ワンダーランド』(新潮新書)『本の森 翻訳の泉』(作品社)『本の寄り道』(河出書房新社)『全身翻訳家』(ちくま文庫)『翻訳教室 はじめの一歩』(ちくまプリマー新書)『孕むことば』(中公文庫)『翻訳問答』シリーズ(左右社)、『謎とき『風と共に去りぬ』: 矛盾と葛藤にみちた世界文学』(新潮社)など、多数の著書がある。
【初出メディア】
毎日新聞 2024年12月14日