◇<1>小林エリカ著『女の子たち風船爆弾をつくる』(文藝春秋)
◇<2>奈倉有里著『ロシア文学の教室』(文藝春秋)
◇<3>アイザック・B・シンガー著『モスカット一族』(未知谷)
<1>太平洋戦争末期に日本では少女たちが勤労動員され、アメリカを攻撃する「風船爆弾」を作らされた。小林さんはこの半ば忘れられた史実を掘り起こし、数多くの「わたし」と「わたしたち」の響き交わす圧倒的な叙事詩を書き上げた。
<2>まったく新しいロシア文学入門書。学生たちは魔法のような授業を通じて、作品世界に入り込む。同時にこれはみずみずしい青春小説でもある。文学へのピュアな愛に貫かれた一冊。私も学生時代にこういう授業を受けたかった!
<3>二〇世紀前半のワルシャワを舞台に、多くの個性的な登場人物が交錯し、失われたユダヤ人社会が生き生きと蘇る。シンガーという稀有の「語り部」の真骨頂。九百ページ近い大作を日本の読者に初めて届けた訳者の快挙を称えたい。
『女の子たち風船爆弾をつくる』(文藝春秋)著者:小林 エリカAmazon |honto |その他の書店


【書き手】
沼野 充義
1954年東京生まれ。東京大学卒、ハーバード大学スラヴ語学文学科に学ぶ。2020年7月現在、名古屋外国語大副学長。2002年、『徹夜の塊 亡命文学論』(作品社)でサントリー学芸賞、2004年、『ユートピア文学論』(作品社)で読売文学賞評論・伝記賞を受賞。
【初出メディア】
毎日新聞 2024年12月14日