「昨日まで普通に働いていたのに、今朝倒れて……」
そんな話、どこかで聞いたことはありませんか?

健康診断でも特に異常はなく、残業もこなし、周囲からも「タフだなあ」と言われていた同僚。そんな人がある日突然、病院に運ばれる。
驚きとともに、どこか他人事ではない気がする……。

これは、私が救急医として働いていた頃に何度も見た光景です。そしてパーソナルドクターとして予防医療に携わるなかで、症状が出る前の“気づき”と“行動”の重要性を日々実感しています。

「倒れる直前まで元気に見えていた人」の話から、「不調は静かに進行する」ということのリアルに迫ってみたいと思います。


■「健康診断A判定」でも安心できない理由……安心感の裏で進行していたリスク
40代男性・Aさんは、大手企業の管理職。健康診断は毎年欠かさず受け、「A」か「B」判定ばかり。喫煙習慣もなく、BMIも標準。いわゆる「健康意識は高いタイプ」でした。

ある日、朝起きてスーツに腕を通そうとした瞬間、右腕に力が入らない。うまく言葉も出ない——救急車で運ばれ、「ラクナ梗塞」と診断されました。ラクナ梗塞とは、脳の深部の小さな動脈が詰まることで起きる、典型的な生活習慣病型の脳梗塞です。

「そんな兆候、これまで一度も言われたことがなかったのに…」

これは決して、珍しい話ではありません。
私たちの体は、静かに、しかし確実に変化していくのです。


■ストレスと生活習慣……小さな異変で、静かに進行する“予備軍”
健康診断では「異常なし」とされていても、実際には高リスク状態であるケースは少なくありません。Aさんの生活は、典型的な“頑張りすぎているビジネスパーソン”のものでした。

・睡眠は5~6時間程度。出張や深夜帰宅も多い
・食事は外食が中心。昼食は早食い、夜は会食
・休日は疲れを癒すだけで、運動の習慣なし

Aさんは、「頭が重い」「肩がこる」「朝起きづらい」といった症状を「年齢のせい」と放置していましたが、こうした“軽視されがちなサイン”こそが、実は大きなリスクの前兆です。

健康診断でA判定が出ているからといって、全てが安心というわけではありません。「検査で異常なし=健康」、というのは誤解です。多くの人が「まだ大丈夫」と思いたくなる小さな症状こそが、最初の警告なのです。


■「自分は大丈夫」が「まさか自分が」へ……認知のズレが招く“突然の病気”
救急搬送されてくる多くの方々が共通して口にされるのが、「まさか自分が」という言葉です。人は明らかな症状がないと、自分は健康だと錯覚してしまいます。この“認知のズレ”が、突然の病気の発症につながる原因なのです。


現実には、高血圧も、糖尿病も、脂質異常症も、症状がないまま進行し、ある日突然、発症します。しかも30~40代は、体力的には無理がきく年代です。だからこそ、気づかぬうちに無理を重ね、“不調を日常化”してしまうのです。

「今は大丈夫」と言えるうちが、最大のチャンス。健康は、“何もないうちに守る”ことしかできません。そして一度発症してしまえば、リセットはできません。だからこそ、「元気な今こそが、最も重要な分岐点」なのです。

あなたの“なんとなく気になる不調”——それは、体からの静かなサインかもしれません。「何も起きていない」と思っている今こそ、自分の体と向き合う時間を持ってみてください。

▼中田 航太郎プロフィール予防医療専門家として活動する起業家医師。「後悔のない人生」をモットーに、戦略的な健康経営と個別化された予防医療サービス『Wellness』を提供。様々な媒体で幅広く情報を発信をしながら、人々が自分らしく生きるための健康をサポートしている。

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