年金は原則として65歳から受け取れますが、人生100年時代と言われる現在、働き続ける人が増加しているようです。
今回は、高齢者の就業者数の推移や、どの業種で多く働いているかを確認し、その上で、高齢者が働き続けるメリットについて考えてみましょう。
■2023年の働く高齢者の割合は65~69歳で52.0%(2人に1人)、70~74歳で34.0%(3人に1人)、75歳以上で11.4%(およそ9人に1人)
総務省統計局の『統計トピックス No.142 統計からみた我が国の高齢者-「敬老の日」にちなんで-』によれば、2023年の65歳以上人口に占める就業者の割合は「25.2%」。前年と比べて同率です。
各年齢階級の人口に占める就業者の割合は、65~69歳では52.0%(2人に1人)、70~74歳では34.0%(3人に1人)、75歳以上では11.4%(およそ9人に1人)となっており、いずれの年齢階級においても上昇傾向が続いています。

元気な高齢者が増加し、長生きが原因で資金が枯渇する「長生きリスク」に備えるため、少しでも貯蓄を増やしたいと考える方が多いのではないでしょうか。次に、高齢者がどのような業種で働いているのかを見てみましょう。
■高齢者の就業率が高い産業は「卸売業、小売業」、2013年と比べて就業率が伸びた産業は「医療、福祉」
総務省統計局の同資料では、高齢者がどんな業種で就業している割合が多いのか以下のグラフで確認できます。

2023年の結果で、高齢就業者が最も多い上位の産業は次のとおりです。
・1位:「卸売業、小売業」132万人
・2位:「医療、福祉」107万人
・3位:「サービス業(他に分類されないもの)」104万人
・4位:「農業、林業」99万人
・5位:「製造業」88万人
2013年と比べて大きく就業率が伸びた産業は、「医療・福祉:2.4倍」「卸売業・小売業:1.3倍」などです。
高齢者の就業率が大きく伸びた産業には、それぞれに共通する魅力や特性があります。
例えば「医療・福祉」は、人と直接かかわる機会が多く、相手の状況に応じた臨機応変な対応が求められますが、人生経験を積んだ高齢者だからこそ、思いやりを持って対応できる場面も多くあります。
「建設業」では、若い世代にはない“長年の現場経験”や“手に職”が強みとなり、技術指導や管理業務などで活躍の場が広がっています。
また「卸売業・小売業」は、地域のスーパーや店舗など、身近で働きやすい環境が整っており、人と接することが好きな方にはぴったりの職場です。
いずれの産業も、高齢者が持つ豊かな人間力や実務経験が生かされる場面が多く、「やりがい」や「社会とのつながり」を実感しやすいことが、選ばれる理由と言えそうです。
■高齢者が働き続けるメリット3つ
高齢者が働き続けるメリット3つを紹介します。
▼1:気持ちに張りが出る、生きがいが得られる年齢を重ねると、日常の関わりはどうしても同年代が中心になりがちです。安心感はあるものの、会話の内容が体調のことや日常の話に偏ってしまい、少し物足りなさを感じることもあるでしょう。
そんな中で仕事を続けていれば、若い世代を含むさまざまな年代の人と接する機会が生まれます。そうした交流から新しい刺激を受けて、「習い事を始めてみようかな」「こんな考え方もあるんだ」と、自分の世界が広がっていくことも。こうした日々の小さな変化や挑戦が、自分の中に前向きなエネルギーを生み出し、生きがいや心の張りへとつながっていくでしょう。
▼2:規則正しい生活で健康維持につながる仕事を続けていると、自然と生活リズムが整いやすくなります。決まった時間に起きて外に出る、体を動かす、人と会話するなどの習慣が、足腰や脳の働きを保ち、心身の健康によい影響をもたらします。
体を使うことで程よく疲れ、夜はぐっすり眠れるようになり、食欲も自然と湧いてくるはず。
▼3:社会保険に加入できる定年後に仕事を続け、条件を満たせば、健康保険や厚生年金などの社会保険に加入できます。
・健康保険に加入していれば、75歳になるまでは今までと同じ制度で、健康診断や人間ドックを割安で受けられます。
・厚生年金は最大70歳まで加入可能で、加入期間がのびるほど老齢厚生年金の受給額も増えます。
ただし、働きながら年金を受け取る「在職老齢年金制度」では、給与など+老齢厚生年金の報酬比例部分の月額の合計が月51万円(令和7年度)を超えた場合、老齢厚生年金が支給停止になることがあります。しかし、合計が51万円以下なら、老齢厚生年金は全額支給されます。これより、収入を調整しながら働けば、無理なく将来もらえる老齢厚生年金を増やせるというメリットが得られます。
文:舟本 美子(ファイナンシャルプランナー)
会計事務所、保険代理店や外資系の保険会社で営業職として勤務後、FPとして独立。人と比較しない自分に合ったお金との付き合い方を発信。3匹の保護猫と暮らす。All About おひとりさまのお金・ペットのお金ガイド。