「体力に自信のない方は申し込まないでください」――。そんな厳しい文句に怯みながらも、真夏の暑さに自分の体が耐えられるか試すべく、別のゴミ収集会社へ再び応募した63歳のフリーライター。


覚悟を決めて飛び込んだ現場は、最新の「空調ジャケット」が完備され、熱中症対策が徹底された想像以上に衛生的な職場でした。しかし、作業中には指先に“見知らぬ誰かの黄金”がべっとり付くという、強烈な洗礼も浴びることに……。

定年後の職探しのリアルを描く体験型ノンフィクション『60歳からのハローワーク』(飛鳥新社)より、「ゴミ収集業編」を一部抜粋・編集してお届けします。

■きれいなシャワー室と尻洗浄機付きトイレに感動した朝
翌週、別の地域のゴミ収集会社でも働いた。

6月なのに全国各地で気温が35度を超える猛暑日となった週。暑い日でもゴミ収集業が体力的にこなせるか、自分を確認したかった。同じ清掃会社ではなく同業他社を選んだのは、求人アプリをチェックしていたら求人があったからだ。

「体力に自信のない方は申し込まないでください」

アプリにはそう表記されていたが、一度体験しているので、ある程度やれる気はした。

ゴミ収集の会社に着いたのは朝7時過ぎ。前週の会社と同業だが、こちらのほうが扱うものが多かった。可燃物、不燃物、紙類のほかに、粗大ゴミ、剪定枝(せんていし)のチップ化、汲(く)み取りトイレのバキューム、下水道の掃除なども行っていた。チップ化とは、切った木の枝をチップソー内蔵のコンテナ車で粉砕して家主に戻す作業だ。


この会社はかなり衛生的だった。事務所は、更衣室、シャワールーム、そしてトイレもきれいに清掃されていた。トイレは尻洗浄機付き。やはり、会社は清潔なほうがいい。ゴミを集める仕事だからこそ、きれいにしておいたほうが、従業員のモチベーションが下がらない。

■涼しすぎて寒さに震えた、徹底的な熱中症対策
壁には熱射病対策が貼られていた。ウォーキング、エアロバイク、ストレッチを行い、サウナに通うなど、暑さへの耐性を付けるためのアドバイスだ。

オシッコの色のチェック表も貼られてあった。透明からまっ茶色までグラデーションで描かれている。透明ならば問題なし。黄色ならば、少し水を飲むことが勧められている。まっ茶色は要注意。
すぐに1000ミリリットルの水を飲むことを指導している。

ここでも、社名のロゴが刺繍(ししゅう)されたポロシャツ状のユニフォーム、滑り止め付きのゴム手袋、キャップ、そしてヘルメットが貸与された。さらに熱中症対策で空調ジャケットも用意してくれた。

この作業着は両腰のあたりにファンが付いていて、スイッチを入れると、ひんやりした風が身体にあたる。初めて着用した。実はあまり期待していなかった。こんなもので暑さをしのげるはずはない、となめていた。ところが、実に涼しい。涼しすぎるほど。エアコンの効いた室内でスイッチオンすると寒くて震えた。

■年齢が配慮された(?)ウジのわく生ゴミ以外のポジション
この会社の社員の年齢層は、見たところ、20代から60代までいる。アスリートのような体形の男性もいる。
後で聞いたところによると、格闘家とのWワークの社員だという。格闘技だけで食べていくのは大変らしい。

感心したのは、どの従業員も髪がきれいに刈られていること。清潔感がある。東京都内の同じ業種でも、衛生面をはじめ働く環境にはかなり違いがあることを知った。勤めるなら、前もって会社を見学するべきだろう。

僕にあてがわれたのは剪定枝のチップ化。そして、下水専用トラックの整理も手伝った。

配置分けには、年齢が配慮されたのだろうか。この日は5人が日雇いされていた。63歳の僕は最年長。ほかの4人は可燃、つまり生ゴミが主のクルマに乗って出かけて行った。


可燃はほぼすべての家から出るので量が多い。生ゴミが水を含んでいるので重い。しかもすでに3日ほど夏日が続いていたため、ウジが発生し始めていた。

実はそちらの仕事がやりたかった。自分の“労働力”を試したかったからだ。しかし、その会社の人の目には、僕は頼りなく見えたのだろう。

■炎天下で続く剪定枝のチップ化作業
ペアを組んでくれたドライバーは50代半ばのスズキさん(仮名・以下同)。穏やかなイケメンだった。

チップの作業は、自治体のリクエストのあった家に専用のクルマで行き、住人の手ですでに束ねられている木の枝をコンテナに入れて砕く。細かくなった枝はさらにコンテナから出すときにも砕くので土状になる。これが植木にとっても、畑の土壌としても役立つ。枝そのものが栄養分を含んでいるだけでなく、そこに付いているさまざまな虫も不幸にもチップソーで砕かれて混ざり土の栄養になる。


剪定枝のチップ化は、1軒30分ほどで作業が終わることもあれば、1時間以上かかることもある。

この日の東京は快晴。午後には気温が32度まで上がった。そのなかで、枝を運び、砕き、砕いたものをまた運ぶ。体中から汗が噴き出した。下着も肌にこびりつく。5~10分ペースで水を補給した。塩分補給と頻尿対策のために、塩飴(しおあめ)をなめ続けた。作業では何度も前かがみになるので、腰への負担も大きい。

■指先に見知らぬ誰かの“黄金”がベットリ付いた瞬間
コンビニでお弁当を買い、昼食をとるために会社に戻ったとき、同じタイミングで形状の違うトラックが戻ってきた。下水担当のクルマらしい。

そちらのトラックはドライバーが1人で担当していたので、スズキさんと一緒に荷台に積んだ専用のホースや管を下ろす作業を手伝った。


「管は汚れているから、持つところに気をつけてくださいね」スズキさんが叫ぶ。

日本の下水道管は、雨水と水洗トイレやキッチンの排水を一緒に流す合流式と、別々に流す分流式がある。下水環境が早くに整った地域は、排水は全部一緒の合流式。東京はそのほとんどがこれ。

つまり、味噌もクソも一緒に流している。管の内側には“黄金”がこびりついていることが多い。実際に、生々しい黄金が大量にあった。くさい。油断した。指先で触れてしまった。指先に見知らぬ誰かの黄金がベットリ。あわてて手を洗いに走った。

ガレージには、東京でほとんど姿を見なくなったバキュームカーも停車していた。この会社ではコンスタントに稼働しているそうだ。東京の水洗トイレ普及率は99.7%(2023年・総務省)。離島の一部を除き、下水環境は整っている。

それでもまれに汲み取りトイレの家はあるらしい。実際、この会社の担当エリアにも数軒、汲み取りトイレの家があるそうだ。下水環境が整っているこの時代になぜ汲み取りトイレを選ぶのか? 趣味か? スズキさんに聞いても首をかしげるだけだった。

■ゴミ収集業がシニア世代に人気の理由
このエリアでも、住民に職業差別のような扱いは受けなかった。街の人たちには好意を持って迎えられ、午後に訪れた家では作業後に冷たい飲み物がふるまわれた。

給与体系は、60歳以上の従業員は時給制。1時間1200円から。年収250万円くらいになる計算だ。スズキさんは常駐のドライバーでまだ50代だから、もっともらっているだろう。60歳を過ぎて再雇用扱いになり給与が減っても働き続けるつもりだという。

ゴミ収集業には、その日の担当エリアの作業が終われば上がれる会社が多い。午後2~3時には帰宅できる。自分が自由に使える時間が多いので、家族とともに過ごせるし、体力があればWワークもやれる。だからだろう、日雇いの求人アプリでも人気の高い仕事だ。

この書籍の執筆者:神舘和典 プロフィール
1962(昭和37)年東京都生まれ。雑誌および書籍編集者を経てライター。政治・経済からスポーツ、文学まで幅広いジャンルを取材し、経営者やアーティストを中心に数多くのインタビューを手がける。中でも音楽に強く、著書に『新書で入門 ジャズの鉄板50枚+α』(新潮社)など。
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