かつてない挑戦的な仕掛けや作劇で話題を振り巻いているスーパー戦隊シリーズ第46作『暴太郎戦隊ドンブラザーズ』もいよいよ終盤。最終回に向けてドンブラザーズと脳人の結末も大いに気になるところだ。


そんな中、9人のキャラクター全員が歌う賑やかなパーティーソング「アバターパーティー!ドンブラザーズ!」が完成した。スーパー戦隊シリーズの既成概念を覆す、まさかのライバル同士の歌を通じての共演はもちろん、個性を見事に描き切った9人それぞれのパートが楽しめる、魅力溢れる楽曲はいかにして生み出されたのか?
今回、音楽ディレクターの穴井健太郎(日本コロムビア)、東映の番組プロデューサー補佐(AP)の松浦大悟、そして作曲家の大石憲一郎の鼎談が実現。前編となる今回は、企画の始まりから作詞の成り立ちについて語り合ってもらった。
キャスト9人が熱唱「アバターパーティー!ドンブラザーズ!」制作秘話 
▲左から大石憲一郎、松浦大悟、穴井健太郎

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★前代未聞のヒーローと敵側のデュエットソング★

――スーパー戦隊シリーズでは、OP&EDをはじめ、挿入歌にキャラソンと数々の歌が制作されていますが、番組との連携が不可欠だと思います。『暴太郎戦隊ドンブラザーズ』の音楽制作に関してはどのように進めているのでしょうか?

松浦 音楽面に関しては、穴井さんに全面的に舵取りをしていただきました。

穴井 いえいえ。
松浦さんからもたくさんアイデアをいただきました。中でも印象的だったのが、「月ノミゾ知ル。」ですね。これは元々、松浦さんと「脳人の曲を作るのはどうですか?」と話していたのが、桃井タロウとソノイのデュエットソングに発展しました。

松浦 そうでしたね。ちょうど前作『機界戦隊ゼンカイジャー』のステイシーが、敵ながらもキャラクターとしてすごくハネた。僕らとしては、そこにひとつの手応えを感じていたんです。
僕を含め、プロデューサーの白倉(伸一郎)を筆頭に『ゼンカイ』から『ドンブラ』に続投したスタッフも多かったですし、そういう連綿と続く流れがある中、脳人もまたすごく魅力的だったので、「悪役フィーチャー」の一貫として、歌のほうで何かアピールできたらと。

穴井 それで「脳人の曲ならこんな感じでしょうか?」と話を進めていたところ、ある日、松浦さんからいただいたのが二人のデュエットのアイデアで。普通に考えると、ヒーローと敵同士でデュエットなんてあり得ないので、これはちょっと度肝を抜かれましたね(笑)。

松浦 逆に僕としては、敵味方のデュエットはそれほど意識してなかったんです。アニメとかの別ジャンルなら普通にありますし、それより、あんなに目立っている桃井タロウを差し置いて、脳人の曲を先に作るわけにはいかないだろうって(笑)。

穴井 「月ノミゾ知ル。」は、作詩&作曲は高取ヒデアキさん、編曲は籠島裕昌さん、演奏はZETKIといった布陣でした。


松浦 高取さんとZETKIのあのジャジーな感じが好きなんですよ。たとえば高取さんが歌われた『快盗戦隊ルパンレンジャーVS警察戦隊パトレンジャー』の挿入歌「ルパンレンジャー Here we go!」とかはお気に入りの1曲です。

穴井 ちょっとダークな雰囲気が漂う曲で、あれがリファレンスになっていましたね。

松浦 ええ。「月ノミゾ知ル。」は、穴井さんはもちろん、高取さんたちのおかげで、めちゃくちゃカッコイイ曲に仕上げていただきました。井上敏樹大先生からもお褒めの言葉を貰ったりして(笑)。


穴井 しかも「月ノミゾ知ル。」は、メロディを使ったBGMも別途作りましたよね。これは籠島さんがピアノアレンジして弾いてくれました。

松浦 第32話の山口恭平監督が、ラストで第27話を踏まえた展開を描きたいとのことで、あの場面のためにわざわざお願いして作っていただいたんです。

――大石さんは『ドンブラ』をどのようにご覧になっていましたか?

大石 OP主題歌「俺こそオンリーワン」が近年にない斬新さで、それと同様に番組自体からも斬新さを感じながら観させていただいていました。

松浦 主題歌は「ダンサブル」ってワードが出ていましたね

穴井 暴太郎でアバだし、ABBAも復活したし、ダンスミュージックはどうだろうか?と(笑)。

松浦 基本ギャグから入る(笑)。


穴井 最初期のアイデア出しではそんな話もしていましたね。

松浦 僕個人としては、大石さんに作っていただいた曲で、ゾックスの2曲目のキャラソンがめっちゃ好きなんですよ。

大石 ありがとうございます。「FLAG~界賊の美学~」ですね。

松浦 そうです。ゾックスのBGM(「頼れる兄貴」/D-04)も大石さんに作っていただきましたが、「FLAG~界賊の美学~」の一部にはそのメロが使われているんですよね。


大石 ああ、入れてましたね。

松浦 そういう細工が分かるとまた嬉しくなります(笑)。『ドンブラ』では、まだ大石さんとご縁がなくて、穴井さんに色々とお願いしている中、ちょうどお名前が挙がったので、「是非、ご一緒したいです!」と。

大石 今年はイチ視聴者かなと思って番組を観ていたら、すごく特濃な案件が(笑)。いわゆる紹介ソングは、遡ると『炎神戦隊ゴーオンジャー』の「炎神ラップシリーズ」から始まり、『海賊戦隊ゴーカイジャー』の「スーパー戦隊ヒーローゲッター」とやってきて、ある意味、得意分野というか、そこは任せてください!と引き受けさせていただきました。

松浦 「スーパー戦隊ヒーローゲッター」を作った方なら、どんな無茶振りでもきっと対応してくれると思っていました!

(C)テレビ朝日・東映AC・東映

★挿入歌から見えるスーパー戦隊シリーズの伝統★

――ちょうど話題が出てきたところで、本題の「アバターパーティー!ドンブラザーズ!」についてのお話に入っていきたいと思います。

穴井 松浦さんからは、ストレートに「9人で歌う曲が欲しい」とのことでした。「月ノミゾ知ル。」もそうでしたが、僕らはどうしてもヒーローはヒーロー、敵は敵という固定概念があるんですよね。そんな中、プロデューサー視点で「ドンブラザーズも脳人も別に一緒にいてもおかしくないですよ」と言ってもらえたので、「そうなんだ!」という驚きと発見がまたひとつありました。

松浦 いつも無理をお願いしてばかりなので、そこは(イヤそうな顔をして)と入れておいてください(笑)。

穴井 いやいやいや!(一同笑) ゾックスのBGMの話からもお分かりの通り、松浦さんはとても音楽に理解の深い方なんですよ。今回も作曲が大石さんに決まり、次は歌詩の話になるわけですが、そこで松浦さんのほうから「詩先とメロ先、こういう場合はどっちですかね?」とご相談いただきました。

――歌詩ありきで作曲するのが「詩先」、作曲してから歌詩を付けるのが「メロ先」ですよね。昨今のJ-POPではメロ先が主流です。

穴井 そうです。今回はバッチリ詩先でもなくてもいいから、ある程度、主要なワードはあった方がいいかも知れません、とお話ししたところ、ある程度どころか、一発目からみっちり書いて来てくださって。

松浦 この複雑怪奇な曲の作詩を他の方にお願いするのが忍びなさ過ぎて(苦笑)、言い出しっぺの自分が、「八手三郎」としてやるしかないなって。

穴井 そこはスーパー戦隊シリーズの伝統ですよね。昨年、「合体魂~昭和・平成・令和 スーパー戦隊シリーズ ロボットソング大全」というCDを出した際に、歴代のプロデューサーや監督、脚本家の方々に寄稿していただいたのですが、そこで白倉プロデューサーのコメントにすごく胸熱くなるものがあったんです。『恐竜戦隊ジュウレンジャー』の1号ロボの歌の作詩について触れられていたのですが、その後に『五星戦隊ダイレンジャー』のED主題歌も手掛けられています。今回、『ドンブラザーズ』の主題歌制作に際して話し合っていたのが、ちょうど『五星戦隊ダイレンジャー』や『忍者戦隊カクレンジャー』の主題歌でした。

松浦 2曲ともちょっと変わっているけど、それがまた斬新な主題歌なんですよね。

穴井 そうなんです。当時、「おお、こんな感じの主題歌が来るんだ!」とけっこう驚きがあったと思うのですが、『ドンブラ』ではあの衝撃の2022年バージョンをやりたいと意識していた部分がありました。なので、今、白倉プロデューサーの下で、APを務められている松浦さんにお願いするのは、何かすごく繋がるものがあるなと思いました。『ドンブラ』では、その前に「出陣!ドンオニタイジン」と「燃えろ!虎龍攻神!」の2曲の作詩も松浦さんにお願いしていましたが、これがまた僕が言うのも何ですが、実に上手い!

松浦 いえいえ、恐縮です……。一応、主題歌の歌詩を書いていただいた、作詩家の及川眠子先生の『ネコの手も貸したい 及川眠子流作詞術』とかを読んで勉強したりはしたのですが、まだまだです。
ちなみに及川先生の作詩で、山下康介先生に曲を書いていただいた桃谷ジロウのテーマソング「君のヒーロー」も好きな曲なんですけど、「運命」と書いて「ほし(星)」と読ませるというのがあって、そこは「アバターパーティー!ドンブラザーズ!」のジロウのパートでも踏襲しました。

穴井 「燃えろ!虎龍攻神!」は特に秀逸ですね。この場合は「誰それのキャラクターの感じを書いてください」ではなく、ドンドラゴクウとドントラボルトの2面性を描く必要があるので、共通を持たせつつも違いを出さないといけないので、難易度が高いんですよ。

松浦 あれは「出陣!ドンオニタイジン」の後でした。特撮監督の佛田洋さんとロボソンについて話したことがあるんですけど、佛田さんが「白倉さんの『ドラゴンシーザーのうた』は良かった」としみじみ仰ってたんです。だから悔しくなって(笑)「燃えろ!虎龍攻神!」では、追いつけ追い越せじゃないけど、「ドラゴンシーザーのうた」をちょっと意識したところがありました。擬音の繰り返しを入れたりして……。「出陣!ドンオニタイジン」は理屈優先で書いてしまったという反省もあったので、何か口にして気持ちがいいワードを入れたいという気持ちもありましたね。

穴井 その2曲を経ての「アバターパーティー!ドンブラザーズ!」ですが、メロ先と詩先だと全く違う頭を使うので、歌詩もどう来るのかと思ったら……。これは是非大石さんに第一印象を語っていただきたいですね。

大石 いや、めちゃくちゃ歌詩がちゃんとしているというか(笑)。韻もきちんと踏まれているし、「こことここが繋がるのか」とすごく練られていると思いました。それからプロデューサーだからこそ分かる視点と濃さ、仕掛けの多さ。

松浦 色々とくすぐったつもりです(笑)。

大石 劇中で描かれる要素だけでなく、ちょっと外側からもネタを引っ張ってきているところが面白いですね。犬塚翼とか(笑)。

松浦 「またしても何も知らない犬塚翼」ですね。ネットミームにすり寄っていると言われるけど(笑)、元々、東映の番組公式HPに書いたのは自分なんですよ。だから自分で言い出して自分で回収した形。まぁ、大泉洋さんにはすり寄っているけど(笑)。

大石 それから同じメロに対して、違う言葉でも同じ母音になるようになっているんですよね。そういうのが歌う上での気持ち良さに繋がるものなんです。

松浦 そこはちょっと意識していて、自分で歌詩を書きながら自分で歌っていました。

大石 おお、そうですか。詩先でもらう際にはいつもどういうメロを想定していたのか気になるんですよ。

松浦 今はもう大石さんメロに染まっちゃっているから、どう歌っていたかは忘れちゃいましたけど(笑)、大石さんには「まさにこれでしょ!」と思える素晴らしいメロディを付けていただきました。

――楽曲は9人揃ったパーティーソングとのことですが、どういった意図でこのコンセプトが決まったのでしょうか?

松浦 エンディングの「Don't Boo!ドンブラザーズ」が「ハッピーエンド」+「?」で終わっていたので、こんなハッピーエンドになればいいなというアンサーソングにしたいと思ったんです。後はふざけつつも、『ドンブラ』本編とリンクさせ、なおかつそれぞれのキャラクターの人柄の良さを織り交ぜて、時折しんみりもさせ、またふざけるみたいな。そのバランスでしょうか。ドンブラと脳人の9人の歌ならそういう感じなのかなって。

――桃井タロウから始まり、9人全員のキャラクターが盛り込まれているのも特徴で、大石さんが仰ってたようにまさに「特濃」の中身ですが、歌詩はスムーズに決まりましたか?

穴井 歌詩を受け取った時点で、曲自体が長くなるんじゃないか、というのはありましたね

松浦 第一稿は歌詩がめちゃくちゃ長くて……。

大石 現在の約1.5倍はありました。とりあえず歌詩をいただいた時点で「全部メロを付けておきます」と穴井さんにはお伝えしたのですが、どう考えても7分くらいにはなるだろうなと。

穴井 確か7分40秒くらいでしたかね。

松浦 尺の計算までできてなくて申し訳ないです(笑)。

大石 いや、そこは難しいと思いますよ。もちろん、長くてもラップっぽくすれば、それくらいの分量でもギュッと入れることはできるんです。でも、キャストの皆さんがラップに精通しているわけでもないですし、9人それぞれに独自のメロを付けて、バランスよくいくためには調整が必要かなと思いました。

穴井 最終的に各キャラクターから1行くらい削っていますよね。

松浦 例えばジロウの「熱烈歓迎」のくだりなんかももっと長かったんです。

大石 ちゃんと意味が通るようになっていたんですよね。

松浦 「それじゃなかったら処刑!」みたいな。しっかり文章になっていましたね。

大石 でも、逆に圧縮した感じが良かったですよ。

穴井 それに合わせて大石さんにメロの感じを調整してもらいましたね。

松浦 それから1番の最初が桃井タロウなんですけど、僕のほうからお願いして、歌詩にある「桃井タロウ」を5人のコールにしてもらいました。最初は樋口幸平くん本人に歌ってもらうつもりでしたが、イメージしていたのは、キャストやファンの皆さんが、カラオケをしている感じだったんです。それで、全員で叫ぶことが出来るワードはここしかないなと思いました。
(後編に続く)

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