スタジオジブリ最新作『君たちはどう生きるか』公開を記念して、日本テレビ系〈金曜ロードショー〉にてスタジオジブリ関連作を3週連続放送。
7月7日(金)に放送されるのは、ジブリアニメの原点としてアニメーション映画史に輝く『風の谷のナウシカ』だ。


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物語の舞台は、「火の七日間」と呼ばれる最終戦争で文明社会が滅んでから1000年後、人間の命を脅かす「腐海」に覆われつつある世界。小国「風の谷」の姫として平和に暮らしていた少女・ナウシカは、「腐海」の主である「王蟲」をも巻き込んだ大国同士の争いに巻き込まれていく。

1984年公開の本作は、魅力的なキャラクターや躍動感と浮遊感にあふれたアニメーション、胸躍るエンタテインメントに力強いメッセージ、宮﨑駿監督の魅力があますところなく詰め込まれた永遠の名作であり、宮﨑監督にとって唯一無二の ”ミューズ” の存在を感じることができる重要作だ。

ミューズとはギリシア神話における文学、学術、音楽、舞踏などを司る女神であり、転じて「詩的霊感」、芸術家にとってのイマジネーションの源泉を意味する言葉として使われている。
また映画においては、特定の監督の作品で鮮烈な印象を残したり、その監督の作品を象徴する存在の女優を指すこともある。例えば、ジャン=リュック・ゴダールにとってのアンナ・カリーナ、伊丹十三にとっての宮本信子などがそれに当たるだろう。

そして宮﨑監督にとってのミューズといえば――多くの人が本作でナウシカ役を演じた声優島本須美を思い浮かべるのではないだろうか。

島本が初めて宮﨑作品に出演したのは、1979年の『ルパン三世 カリオストロの城』でのヒロイン・クラリス役。当時まだほぼ無名の新人だった島本の抜擢にあたっては、宮﨑監督と作画監督・大塚康生の強い推薦があったそうだ。

「クラリスの島本須美さんに関しては、大塚、宮崎両氏からの強力な推センによるもの(中略)両者が『赤毛のアンで最後まで山田栄子さんときそった人で、非常に新鮮だった』から印象に強く残っていたというもの」(アニメージュ1980年1月号、録音監督・加藤敏のコメント/表記は掲載時ママ)

結果、島本演じるクラリスの可憐さは、数々の名セリフと共に今なお多くの人の心に強烈に刻まれる。さらに続く1980年、宮﨑監督が脚本・演出をてがけた(名義は照樹務)『ルパン三世(TV第2シリーズ)』最終話「さらば愛しきルパンよ」のゲストヒロイン・小山田真希役も島本が担当。こちらも1話限りのゲスト登場ながら、視聴者に強烈な印象を残した。


(C)1984 Studio Ghibli・H

『ナウシカ』が制作・公開された1980年代前半、宮﨑監督はまだ現在ほどの知名度は獲得していなかったが、先の2作の強い印象によって、一部の熱心なアニメファンの間では「宮﨑作品のヒロイン=島本須美」というイメージが共有されていたと言っていいだろう。
宮﨑監督の手による漫画原作はアニメージュ誌上で1982年から連載が開始されていたが、読者の間では早くから「もしアニメ化されるなら、ナウシカ役は島本須美で」という願望の声が挙がっていた。
実際のナウシカ役はオーデョションを経て決まったものだが、当時のファンにとって島本がナウシカを演じることは「待望」であったと同時に、ある意味「必然」とも感じられたはずだ。

島本もまたその期待を裏切らない、むしろ期待を遙かに上回ったナウシカ像を表現したことは本作を観れば一目瞭然だ。
清楚さ、透明感、はかなさ、優しさ、その奥にけっしてブレることのない凜とした芯の強さーー島本の声と演技はナウシカという少女を構成する複雑な魅力をそれぞれ的確に表現したことで、文字どおり宮﨑駿のミューズというイメージを決定づけたのだ。

その後、島本は『小公女セーラ』(1985年)のセーラ役や『めぞん一刻』(1986年)の「管理人さん」こと音無響子役、『ジャイアントロボ THE ANIMATION ~地球が静止する日~』(1994年)の銀鈴役など印象的なヒロインを演じ、多くのアニメファンの憧れの存在となった。

ジブリ/宮﨑作品との縁も続き、『となりのトトロ』(1988年)ではサツキとメイの母役、『もののけ姫』(1997年)ではトキ役で出演。2021年から全国各地で開催されている「アニメージュとジブリ展」ではアンバサダー&音声ガイドナビゲーターを務め、各会場でのイベントにも登場、当時とまったく変わらない声で来場客を楽しませている。

公開から40年近くを経てもなお、全く色あせることのない映画『風の谷のナウシカ』――今回の放送では、ナウシカに永遠不滅の存在感を吹き込んだ ”島本須美の声” に注目して楽しんでみてはいかがだろうか。

(C)1984 Studio Ghibli・H