スタジオジブリ最新作『君たちはどう生きるか』の公開を記念して、日本テレビ系〈金曜ロードショー〉にてスタジオジブリ関連作を3週連続放送。
7月12日(金)放送、『君たちは~』公開初日の夜を彩るのは、宮﨑駿の脚本をベースに宮崎吾朗監督が瑞々しい青春ストーリーを描いた『コクリコ坂から』だ。


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舞台は1963年の横浜。
丘の上の「コクリコ荘」に暮らす高校生の少女・松崎海(まつざき・うみ)は、船乗りだった亡き父を偲んで毎朝、庭に信号旗を掲げていた。そして、海と同じ高校に通う少年・風間俊(かざま・しゅん)はタグボートで登校しながらその旗を眺めていた。
ある日、二人が通う港南学園の老朽化した部室棟「カルチェラタン」に取り壊しの話が持ち上がり、取り壊し反対運動に巻き込まれた海はその騒動の渦中で俊と出会い、徐々に惹かれていく。
だが二人の恋の行方には意外な困難が待ち受けていた……。

ベースとなったのは1979~80年に「なかよし」(講談社)に掲載された原作・佐山哲郎/作画・高橋千鶴の少女マンガ。

原作に惹かれた宮﨑駿が企画・脚本(脚本は丹羽圭子と連名)を担当、物語の舞台を1963年という高度経済成長期に設定することで、独特の活気に満ちていた時代の空気や希望と共に生きる若者たちの力強い姿が描き出されている。
また、宮崎吾朗監督の真摯で瑞々しい演出や主演の長澤まさみ(海役)と岡田准一(俊役)のストレートな演技を通して、映画全体から心地よい爽やかさが感じられるのも、本作の大きな特徴であり、魅力といえるだろう。
劇場公開は2011年7月。東日本大震災直後というタイミングだったが、フィルムから立ち上る前向きなエネルギーは当時の観客にも強い印象を残して大ヒットを記録した。

激動する時代の中で、カルチェラタン存続運動に邁進していく、バイタリティに溢れた高校生たち。
思いも寄らぬ運命の壁に突き当たりながらも、自分たちの気持ちに正直に、まっすぐに恋をする海と俊。

はたしてカルチェラタンはどうなるのか……そして若い二人はどうなるのか?
その結末はぜひ、本編で確認してほしい。

(C)2011 高橋千鶴・佐山哲郎・Studio Ghibli・NDHDMT

そんな本作の物語で重要な鍵を握っているのが、アニメオリジナルのキャラクターであり、剛腕実業家でもある徳丸理事長(演:香川照之)だ。
カルチェラタン存続を直談判するため、海と俊、そして俊の親友の水沼(演:風間俊介)は学園理事長のもとを訪れる。
そこに現れた徳丸理事長は、若い高校生たちに対してもけっして礼を逸することなく、明るく気さくな態度で接し、その主張に真摯に耳を傾ける……。

この徳丸理事長には実在のモデルが存在する。それは徳間書店の創業社長・徳間康快(とくま やすよし)だ。

徳間は「アサヒ芸能新聞社」から発展した総合出版社・徳間書店を創設し、出版のほか音楽、映画など幅広いメディア事業を展開した実業家だ。自身の母校でもある逗子開成中学校・高等学校を運営する逗子開成学園では理事長を務めており、徳丸理事長同様に教育にも熱心だった。そして作中で海たちが訪問する徳丸理事長の会社も、徳間書店の初代本社ビルがモデルとなっている。

スタジオジブリのプロデューサー・鈴木敏夫は、徳間書店の社員として「週刊アサヒ芸能」編集部からキャリアをスタート、その後アニメ情報誌「アニメージュ」の編集に関わり、そこで宮﨑駿と出会うこととなる。
宮﨑がアニメージュで連載していたコミック『風の谷のナウシカ』のアニメ化企画が持ち上がった際に、徳間は製作総指揮として本作を支え、『ルパン三世 カリオストロの城』以来不遇の時を過ごしていた宮﨑を再びアニメの現場へと送り出す。
さらに徳間は、1985年に徳間書店の子会社としてスタジオジブリを設立、初代代表取締役にも就任している。
つまり宮﨑駿、鈴木敏夫、そしてスタジオジブリに大きな影響を与えた人物なのだ。

『コクリコ坂から』公開時に発売された「アニメージュ」2011年9月号には、30年以上にわたり徳間の秘書を務めていた大城良子氏のコメントが掲載されている。
それによれば徳間は「豪放磊落で、快活で、さっぱりした性格です。頭の回転の速い人でした。人の話をよく聞き、細部まで記憶し、的確に判断しました」とのことで、まさに作中の徳丸社長を彷彿とさせるような人物だ。

さらに大城氏は、本作を観た感想を次のように述べている。

「(徳間康快が)出ていてびっくりしました(笑)。徳丸理事長を見ていてすごく共通点を感じたので、宮﨑駿さんと吾朗さんがそう脚色してくださったことが伝わってきました。お2人に感謝です。胸が一杯になりました」

成長期の日本を実業家として力強く生き抜き、若い世代を温かく見守る好漢として描かれる徳丸理事長の姿には、本日公開の最新作『君たちはどう生きるか』にまで連なっていくスタジオジブリの歩みを支えてくれた徳間康快に対する宮﨑駿、鈴木敏夫の感謝の思いが投影されているのかもしれない。

(C)2011 高橋千鶴・佐山哲郎・Studio Ghibli・NDHDMT