9月21日、スタジオジブリは記者会見を開催し、日本テレビ放送網(以下、日本テレビ)がスタジオジブリの株式を取得し子会社化することを発表した。

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記者会見にはスタジオジブリ代表取締役社長・鈴木敏夫、同取締役・中島清文、日本テレビ放送網代表取締役会長執行役員・杉山美邦、同取締役専務執行役員・福田博之が登壇。
まずは鈴木プロデューサーから、今回の経緯と「これからのジブリはどうなるのか」についての説明が行われた。

「宮﨑駿と僕は、気がついたら出会って45年の付き合いです。と同時にジブリもスタートが1985年。そこから数えて38年。そういう中で、ジブリはどうなるのか。この問題は僕自身がすごく悩んできました。

ジブリはもの作りという仕事をやる一方で、会社を経営しなければならなかったのですが、宮崎が82歳、僕も75歳。皆さんおわかりのとおり後期高齢者で、一種「老害」みたいなことも考えなきゃいけない年齢になって、スタッフともいろいろ相談していました。

僕はそれをすごく簡単に考えていて、宮崎吾朗にすべてを託そうとしたんですが、彼といろんな話し合いをした結果『自分一人がジブリを背負うのは難しい』と。僕らが始めた時と違っていまのジブリは、ぼくらの想像を超えて大きい存在になった。それをいきなり息子だからといって、吾朗君に全部預けちゃうのは、これは、やっぱりこちらにとって虫のいい話で、それを受けざるを得ない吾朗君にはとんでもなくしんどい話になる。

そういう中で、僕らが考えたのは、この先やっていく時に、やっぱり個人ではなくて、大きな会社の力を借りないと、やっぱりうまくいかないのではないか。
そうしないと、ジブリで働いている人たちも安心して働くことができない、などと考えた次第です。
ジブリと日本テレビは、本当に長いお付き合いです。『(風の谷の)ナウシカ』のテレビ放映から始まるんですが40年近くなるので、日本テレビさんにお願いするのはファン含めみなさんのご納得をいただけるのではないか、と。

そこで杉山さんにご相談して、スタジオジブリは経営の部分を当面今の日本テレビさんにやっていただきます。日本テレビさんに経営を全部預けて、僕らは作品作りに没頭する。日本テレビさんからも『今まで通りジブリはやってもらって構わない、その中で両者の関係を深くしていこう』となりました」

日本テレビ・杉山会長は「鈴木さんの提案を真剣に受け止めて、経営をサポートして、いろんな事業を円滑にできるようにしていきたい」と語り、この度スタジオジブリの新社長となる福田氏は「私はスタジオジブリ設立の年に日本テレビに入社しまして、これも何かの縁だと思う。
この度大役を仰せつかって大変緊張しておりますが、できる限りの力を使っていきたい」、そしてスタジオジブリの副社長となる中島氏は「今後もスタジオジブリが宮﨑さん、鈴木さんの二人を中心にして動いていくために、日本テレビさんのご協力を賜るというというのが今回の主旨だと受け止めております。そのほかに宮崎吾朗を中心にジブリ美術館・ジブリパークなどの創作活動も進めていくことになりますので、社内のまとめ役として頑張ってまいります」と、それぞれ今回の新体制への期待を語った。

ここからは質疑応答へ。

――ジブリ作品がHuluで配信される可能性はあるのか。

福田 今のところ現状と何も変わっておらず、何かあればこれから考えたい。

――宮﨑監督は、今回の動きをどう考えているのか。


鈴木 (スタジオジブリを)吾朗君に継いでもらいたい、という考えを最後まで反対したのが宮﨑です。「宮﨑」という名前の下でジブリを支配するのは違うのではないか、もっと広い目でいろいろやったほうがいい、というのが理由として大きかったです。
今朝改めて「今日こういうことをやる」と説明したのですが、彼も納得していました。

――今後のジブリの制作態勢のイメージは。

鈴木 どういう体制で作品を作っていくかは大きな問題です。僕も現場でいろいろやってみたのですが、ことごとく失敗に終わりまして……宮﨑に続く有望な監督を見つける、育成するその困難さを知りました。

ひとつだけ言い訳をさせていただくと、『君たちはどう生きるか』という作品を客観的に見ると、「これ大変だな」と思った。同じものを要求されたら、今の若い人たちには作れない、ということを強く感じました。

正直に言いますと、宮﨑はいま『君たちはどう生きるか』の興行成績を、かつてない位に気にしていて、「もし支持してくれる人がいるのなら、(次回作の)企画までは考えていいかな」と言っている。今そういう心境であることだけは間違いないです。

――『君たちはどう生きるか』は時間もお金もかけた贅沢な映画だった。今回の子会社化にはお金の問題も影響している?

鈴木 ちゃんと採算は取れました(笑)。
本当のことを言うと「難しい」と思っていたが、7年かけて頑張ってやっても回収できると証明できた。

――後継者問題に関して、宮﨑監督がこれからも新しい才能、人材の育成をやっていきたいという思いをもって取り組む予定なのか。

鈴木 作品というのは、宮﨑や高畑(勲)がやる、作家を尊重してそれを中心に映画を作るやり方と、もうひとつは企画――枠を決めて作っていくやり方がある。
ジブリはそれでいうと、宮﨑や高畑は作家主義、そのほかの若い人は企画主義。基本的にはこれだと思っています。

――社員として雇用を継続して、アニメを作る体制をもう一度作り直すイメージなのか。

鈴木 若干開き直りに聞こえるかもしれないが、人材の育て方、僕と宮﨑はちょっと下手ですね。
誰か別の人がきて、ある考え方をつくる、それによって先に行くというありようはあるのだと思います。宮崎吾朗は僕や宮﨑よりプロデュース能力がすごいんですよ。随分説得したこともあるんですが「いや、自分で(アニメを)作りたい」と実現しませんでした。

――『君たち』が今の若い人たちには作れない、という話が出てきたが、そういう状況が今回の決断につながった部分もあるのか。

鈴木 ジブリは世界でも珍しい、映画しか作らない会社なんです。その考え方を、誰かがどこかで変えてほしい。
若い人材を育成したり、育つために必要なのはテレビシリーズだと思うんです。テレビシリーズで若い人に機会を与えて、ある種の秀作を作ってもらう。(かつて)その中から出てきたのが高畑であり、宮﨑だった。その意味で(スタジオジブリには)本物の経営者が必要なんだと僕は思います。

――そういう形で日本テレビからの介入を求めている?

鈴木 これからいろんなことを話し合いますが、これまで僕が問わず語りにあれこれ話していることを、もしかしたらヒントにしていただけるのかもしれません。

福田 間違ってもジブリファン・アニメファンをガッカリさせるようなことはありません。新しい作品を実現させるお手伝いをしたいと思っています。

――宮﨑監督の今後の企画案などは?

鈴木 本当はあるんですけれど内緒です(笑)。宮﨑はとにかく引退宣言を繰り返してきましたから「またか」と言われると困っちゃうが、やっぱり死ぬまで、企画だけじゃなく自分が作りたい。やれるものなら死ぬまでやりたい、命のある限り、ということだと思います。

繰り返り触れられる「後継者問題」という言葉に、抱える問題の大きさを感じさせながらも、「それでも作品を作っていく」というスタジオジブリの前向きな思いが、今回の選択と記者会見から強く伝わって来た。早くも様々な憶測を呼んでいるが、まずはこの新たな取り組みを、今後も注目していきたい。