2023年を締め括る12月の「日曜アニメ劇場」(BS12トゥエルビ)は、2週連続で富野由悠季監督の『機動戦士ガンダム』劇場作品が登場。12月17日(日)19時からは『機動戦士ガンダム 逆襲のシャア』が放送される。

88年に松竹系で公開された本作は、『ガンダム』初のオリジナル劇場映画であり、富野由悠季監督にとっても初のオリジナル長編劇場作品。『機動戦士ガンダム』『機動戦士Zガンダム』、『機動戦士ガンダムZZ』と続く物語の中で、時に敵として、時には味方として戦い続けたアムロ・レイとシャア・アズナブルの長きに渡るライバル関係に決着がつけられる重要作だ。

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物語の舞台はTVシリーズ第3作『機動戦士ガンダムZZ』の後となる、宇宙世紀0093年。宇宙に暮らす人類=スペースノイドへの圧政を止めない地球連邦政府に対し、シャアは新生ネオ・ジオンの総帥となり反旗を翻す。
「地球に残っている連中は地球を汚染しているだけ」「重力に魂を縛られた人々を粛正する」――そう主張するシャアは、隕石落とし作戦による地球の寒冷化を目論む。
そんなシャアの野望に立ち向かうのは、ブライト・ノアとアムロ・レイが所属する連邦軍独立部隊「ロンド・ベル」。
ブライトの息子・ハサウェイや優れたニュータイプの素養を持つ少女クェス・パラヤたちを巻き込みながら壮絶な戦いが繰り広げられる中、シャアは遂に小惑星基地アクシズを地球へと落下させるが……。

ファーストガンダムや『Zガンダム』『ガンダムZZ』の主要な登場人物たちのドラマは、戦争や政治という大局の中の「局地的な状況」として描かれており、それこそがリアルな戦争だったが、本作でのシャアとアムロの立場は大きく変わっている。
世界の変革を掲げる革命家として政治の表舞台に登場することになったシャアは、体制側の脅威の対象として世界の注目を浴びることとなる。そんなシャアに立ち向かうアムロやブライトの戦いは、これまでの様な歴史に記されない局地的な戦闘ではなく、世界の行く末を占う闘争となっていく。

40年を超えるガンダムシリーズの中でもアムロとシャアの直接対決の機会は限られており、現段階において「最後の対決」でもある。そしてその戦いが宇宙世紀の歴史の中で大きく位置づけられるものになっているという点も含めて、本作はガンダムシリーズの中において特別な1作だと言えるだろう。


(C)創通・サンライズ

『逆襲のシャア』は、アムロとシャアという二人の主人公のドラマの最終章である。
クライマックスでの一騎打ちは、赤裸々な会話劇が同時に進行する特有の演出、俗に言う”富野節”の魅力と共に、アムロとシャアのパイロットとしての高い技能、そしてニュータイプとしての成熟をあらためて堪能できる必見のシーンだ。
本作でシャアが搭乗するモビルスーツは真紅に彩られた高性能機のサザビー。そしてアムロが操るνガンダムは、初めてサイコミュシステム(ファンネル)を搭載した白を基調とした機体。ファーストガンダム以来となる白と赤のモビルスーツの激突は、本作の大きな注目点としてファンの胸を昂ぶらせる。

その一方で、本作はタイトルにも冠されているとおり、シャア・アズナブルという人間の真の姿に迫るドラマでもある。

シャアは政治家、革命家として理想や主義を語り、大義を掲げ、それを支持するスペースノイドの支持を背負って立つ。だが、アムロとの最後の決戦の最中の互いに本音を剥き出しにした対話によって、シャアを本当に突き動かしていたのは ”悲しみ” ”後悔” ”憎悪” ”孤独”……抑えようのない個人的な感情だったということが明らかになる。
大衆を巻き込んで世界に影響を与える思想とその根底に渦巻く感情の混沌、その両面を描くことでシャア・アズナブルという人間の実像が表現される。この重厚なキャラクタードラマこそが、富野監督作品の真骨頂だ。

正義も悪もない正解のない人々の心の葛藤はやがて ”呪い” となり、静かに後の世界へと影響を与えていく。
それこそが富野由悠季が『ガンダム』をはじめとした多くの作品で描き、乗り越えようともがいてきたドラマであると言える。
しかも、本作が描いた”呪い”は『機動戦士ガンダムUC』、そして『機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ』の物語へと続いていくことになる……。
『逆襲のシャア』という作品が観る者に伝え遺していくものは、あまりにも深く、そして大きい。

(C)創通・サンライズ