『シン・ゴジラ(2016)』や『ゴジラ-1.0(2023)』を観た人は、ゴジラの恐ろしさに圧倒されたのではないでしょうか。まるで災害のように街を破壊し、対処にあたる人々を追い詰めるその姿に、恐怖や絶望、そして登場人物を応援したい気持ちを抱いた人も多いはずです。
「ゴジラって子供向けのキャラクターだと思っていたけど、こんなに怖かったの!?」と。

一方で、まだ作品を観ていない人にとっては、「ゴジラ」と聞くと子供向けの怪獣キャラクターや、怪獣同士が戦う映画を思い浮かべるかもしれません。

しかし、「怖いゴジラ」も「子供のヒーローであるゴジラ」も、どちらも間違いではありません。ゴジラは長い歴史のなかで、災害、人類への警告、正義の怪獣、親しみ深いキャラクターなど、作品ごとに別人……いや、別怪獣とも思えるほど多彩な変化を遂げてきました。

1954年11月3日に初めて銀幕に登場した怪獣王ゴジラは、まさに災害であり人間の愚かさを象徴する存在でした。しかし時代を経るにつれて子供向けの特撮キャラクターになり、平成ゴジラシリーズなどではその両方を兼ね備えた存在となって、『シン・ゴジラ(2016)』では再び災害としての存在に回帰しました。

はたしてゴジラ映画はそれぞれの時代で何を描き、何を訴えようとしたのか? そしてなぜ、これだけ長く愛される存在となったのか? 本稿では過去の映画シリーズを中心に振り返りながら、その理由を考えたいと思います。

◆歴代ゴジラシリーズが描いたもの
さて、ひと言で「ゴジラ映画」と言っても、これまで様々な展開がありました。まず1954年に誕生した初代の『ゴジラ』。そこから歴史がスタートし、第15作目『メカゴジラの逆襲(1975)』をもって一旦シリーズが途切れました。

次に復活したのは「平成ゴジラシリーズ」または「vsシリーズ」と呼ばれる展開で、第16作『ゴジラ(1984)』を皮切りに第22作『ゴジラVSデストロイア(1995)』までを上映。その4年後からは第23作『ゴジラ 2000 ミレニアム』をはじめとする「ミレニアムシリーズ」を第28作『ゴジラ FINAL WARS』まで展開。
近年は『シン・ゴジラ』と『ゴジラ-1.0』が世界的に話題になりました。

なお昭和シリーズ(第1期)、平成シリーズ(第2期)、ミレニアムシリーズ(第3期)、『シン・ゴジラ』以降の作品(第4期)は、興行の落ち込みによって一旦休止、数年後に復活するという流れを繰り返しているため、ストーリー的なくくりがあったり、設定的に深い意味があったりするわけではありません。平成シリーズのように世界観が繋がっている作品が一部にはあるものの、基本的には独立していますし、何よりゴジラは別個体であることが多く、今から「視聴したい!」という人はどこから観ても問題ないでしょう。

そもそも初代ゴジラは水中の酸素を破壊する物質「オキシジェン・デストロイヤー」によって白骨化していますから、第2作『ゴジラの逆襲(1955)』の時点で別個体の2代目です。

さてそんな各シリーズですが、初代ゴジラでは「核実験で誕生した存在であり、人間の愚かさの象徴」として破壊の限りを尽くし、一種の災害として人々を恐怖させました。しかし第2作の『ゴジラの逆襲(1955)』からはライバル怪獣の「アンギラス」が登場し、さらに第3作『キングコング対ゴジラ(1962)』ではキングコングと格闘したことで、以降は怪獣たちのバトルものに路線を変更していくこととなります。いわゆる「怪獣プロレス」です。

とくに1966年からは『ウルトラマン』のテレビ放送がスタートしたこともあり、ゴジラが発端となった空前の怪獣ブームの中、『怪獣島の決戦 ゴジラの息子(1967)』では“ゴジラの息子”ミニラが初登場。すっかり「子供向けのゴジラ」のイメージが定着しました。この期間が長かったことから、『シン・ゴジラ』までは「子供向け」と思っていた人が多かったことでしょう。

その間、さまざまなライバル怪獣が登場しました。

もっとも有名なところではキングギドラです。
第5作『三大怪獣 地球最大の決戦(1964)』で初登場した彼は、黄金の鱗と三つ首という独創的なデザインでたちまち人気に。それまでは実在の生物をベースとしたような怪獣ばかりだったこともあり、神話的な要素を含んだ見た目にファンはたちまち虜になりました。また、ゴジラがモスラやラドンと共闘してキングギドラに立ち向かったこともあり、以降は人類側に与する怪獣として描かれる機会も増えていきました。

次に有名な怪獣といえばモスラです。1961年の単独作『モスラ』で銀幕デビューしたモスラは、2度目の登場となるゴジラシリーズ第4作『モスラ対ゴジラ(1964)』で当時まだ人類の脅威だったゴジラと対決。ゴジラに勝利した初の存在となりました。また守護精霊のような存在であったことから、ハリウッド版ゴジラの一作『ゴジラ キング・オブ・モンスターズ(2019)』では「怪獣の女王」として神秘的な描かれかたをしていました。

そのほか人気の怪獣といえば、腕が鎌になったガイガン、人類が作ったAI搭載のヒューマノイド型ロボットのジェットジャガー、ゴジラを模した機械怪獣メカゴジラなどなど……。

中でも異色の怪獣と言えば、第11作『ゴジラ対ヘドラ(1971)』に登場したヘドラです。当時、社会問題となっていた公害にスポットを当てた内容だったこともあり、初代ゴジラを思い起こさせるような、人類に警告を発するテーマ性の強い怪獣として原点回帰した物語になっていました。数段階の進化を経て成獣になるヘドラは『シン・ゴジラ』を彷彿とさせます。

このように、様々なライバル怪獣と「怪獣プロレス」を繰り広げ、「正義の怪獣」として子供向け特撮作品に進化していった昭和シリーズ。
「災害としての存在」よりも「怪獣プロレスの特撮キャラクター」として愛されたのでした。

◆ハリウッド進出! しかし……
平成を目前にした1984年になると、ゴジラは第16作『ゴジラ(1984)』で再び破壊神として人類と敵対することになります。しかし昭和のシリーズと異なり、当時の子供が大人になったということで、人類に敵対しながらも別の怪獣と戦う、または人類と三つ巴の戦いをするなど、テーマ性と「怪獣プロレス」が混在するハイブリッドな作品として再び人気を獲得することとなりました。それはミレニアムシリーズも同様です。

一方海外では、初代ゴジラを海外用に再編集した『怪獣王ゴジラ(Godzilla, King of the Monsters!)』の存在があったことから、1998年にローランド・エメリッヒ監督による『GODZILLA』が制作されることになりました。しかしゴジラのデザインや設定が大幅に変更されていたことから、内容は“SF版ジュラシック・パーク”のような形に。作品自体はおもしろく作られていましたが、ゴジラとは似ても似つかないデザインや設定だったことから批判を浴びることになりました。

※『怪獣王ゴジラ』は、アメリカ人記者を新たな主人公に据え、再撮影分とオリジナル映像をミックスした、オリジナル版の別バージョンとも言うべきモノクロ映画作品。

その後、2014年からはキングコングとの共演を前提とした「モンスター・ヴァース」シリーズをスタートさせ、『GODZILLA ゴジラ(2014)』以降、独自の世界観を築いて2027年公開予定の第6作まで、シリーズは拡大を続けています。

「モンスター・ヴァース」シリーズがスタートした2014年といえば、ちょうどミレニアムシリーズが終わり、『シン・ゴジラ』が発表される直前のタイミングです。それまで国産ゴジラは着ぐるみの怪獣プロレスが売りでしたが、「モンスター・ヴァース」の登場によって、CGによる臨場感ある怪獣プロレスが展開されるようになり、いわばお株が奪われたような状況でした。

しかし2016年に『シン・ゴジラ』が公開されたことで、その杞憂は綺麗に払拭されることになります。
「怪獣プロレス」路線や「怪獣ヒーロー」路線から転換し、再び「災害としてのゴジラ」に原点回帰したことで、これまでゴジラシリーズに興味を抱かなかった新規の層も取り込む形で大ヒットを記録したのです。

現在は、国産ゴジラが描く「恐怖の対象であり災害としてのゴジラ」、ハリウッドが描く「怪獣プロレスのゴジラ」と「CGならではの迫力ある映像が楽しめるゴジラ」、さらにはアニメ版や、フェーズ6が翻訳版を発行するアメコミ版など、ゴジラシリーズはさまざまな切り口で展開されています。

着ぐるみのゴジラについても、その技術を継承するべく、毎年11月3日に開催されているイベント「ゴジラ・フェス」にて新作ショートフィルムが公開されるなど、ゴジラにまつわるあらゆる楽しみが全方位で展開している状況です。

かつて強烈なテーマ性をもって銀幕デビューしたゴジラは、その時代時代に合わせて“進化”し、現在はゴジラの様々な魅力に寄りそう形で多面的に展開しています。

恐怖の対象としてのゴジラ、友人としてのゴジラ、ヒーローのゴジラ、生物として可愛い面を見せてくれるゴジラ、アニメやコミックならではのダイナミックな活躍を魅せてくれるゴジラ……。ゴジラが長く愛されるのは、時代によって柔軟に変化し、新たなファンを獲得しつつ、獲得したファンがそれぞれの“お気に入りの場所”で楽しめるという、そのフリーダムな状況が理由ではないでしょうか。

まさに劇中に登場した怪獣島のように、ファンや制作者がそれぞれのテリトリーを守りながら“共生”する……。いわば理想郷です。

ちなみに筆者が一番好きなゴジラは「モンスター・ヴァース」のゴジラで、子犬のように丸まって寝たり、キングコングに先輩風を吹かせたり、鼻をヒクつかせたりする愛嬌のあるところが気に入っています。

そしてこのたび公開される最新作『ゴジラ-0.0』ではいったいどのような描かれ方をされるのか? 前作『ゴジラ-1.0』では初代ゴジラのアップデート版リメイクのように、戦後の日本を舞台にして「災害としてのゴジラ」を描きました。予告編では「やつはゴジラじゃない」と言われたり、前作ヒロイン・大石典子の秘密が匂わされたりと気になる描写がありましたが……?

いずれにしても、きっとまた新たな魅力を発揮し、新たなファン層を築いてくれるに違いありません。あなたの“お気に入りのゴジラ”はどのゴジラですか?

『ゴジラ-0.0』
11月3日(火・祝)公開
■キャスト:神木隆之介 浜辺美波 山田裕貴 佐々木蔵之介 國村隼 田中美央 安藤サクラ 長澤まさみ 田中泯 吉岡秀隆
■監督・脚本・VFX:山崎貴
■音楽:佐藤直紀
■製作:東宝㈱
■制作プロダクション:TOHOスタジオ ROBOT
■VFX:白組
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