[取材・構成:渡辺由美子]

■ ぼくらにとって『マクロスII』とは何だったのか?

―対談の前半では、『マクロスII』のヒビキとイシュタルとシルビーの三角関係についてのお話になりましたね。「イシュタルが、ヒビキを好きだったにも関わらず去っていった理由」について、笠原さんのほうで思うところがおありだとか。


笠原弘子さん(以下笠原) 
イシュタルは、歌姫としてこれから人々に戦い以外の歌を広めないといけなくて、背負ってるものが大きすぎるということもあったんだと思いますけど……。
あと、私自身、歌が大好きで今歌のお仕事をさせていただいていますけれども、イシュタルの、歌に対する気持ちとヒビキへの気持ちなら、歌の方がきっと大きかったんだと思うんですよ。歌を歌う人がごく普通の生活を求めると歌えなくなるというか……歌って神聖なものだなと、私もそういう気持ちを持っているので。だからヒビキと歌の両方とるなんて、きっとあり得ないというか。

タカヤマツトムさん(以下タカヤマ)
あー、なるほどそうか。ヒビキは自分が勝手に動いていた中で知らずにイシュタルやシルビーの気持ちがこっちに向いてきてくれたわけだけど……ヒビキ自身が、彼女たちにどんな気持ちを抱いていたかっていうのは、もう少しやりたかったですね。

笠原
今見るとすごく奥深いですよね。この作品は。もっと掘り下げていったら、別なストーリーがあるような気がします。イシュタルは恋の歌を歌ってるけど、まだ自分では恋をあまり知らなくて。もっと時が経って、大人になった彼女が歌う歌がどんなものになっていくのかにも興味がわきますね。

―イシュタルの歌は、『マクロスII』の中で、戦争を終結させることになる重要なものですよね。


笠原
そうですね。歌が人々に大きな影響を与えるということが、私の中では一番大きな『マクロス』の世界観なんでしょうね。物語序盤は、なかなかイシュタルは自分では歌わないんですよね。後半に、『あなたを感じている -ミア・センテス・レン-』とか何曲か歌わせていただいたんですけど、やっぱり最後に歌った『もういちど Love you』がすごく印象的ですね。ここでイシュタル歌うんだ、と思って。もうそれが切なくて。

タカヤマ
クライマックスの一番おいしいとこにかかりますからね。そこが『マクロス』的ですよね。前作『愛・おぼえていますか』に負けずとも劣らないクライマックスの高揚が。『愛・おぼえていますか』はどちらかというとミディアムテンポの曲だったから。しっとりしたバラードで、でもこれだけ雄大にいくっていう。なんか、途中入ってくるストリングスとかああいうのがすごくいいな、と思いつつ。


笠原 
大人っぽい曲調ですよね。『マクロス』らしく、繊細でありながらもおしゃれな感じもして。すてきな曲がいただけたなと思って自分の中でも大切にしてるんですけど。

タカヤマ
笠原さんの歌声を一番最初に聴いたのは、大阪と東京でやったイベントのときに歌っていた『2億年前のように静かだね』。歌ったの覚えてます?

笠原
覚えてます。ちゃんと覚えてます(笑)。

タカヤマ
『2億年前のように静かだね』で初めて生で聞いたんだけど、僕にとっては『バイファム』の頃から聞いてた声優さんだったから。あっ、笠原さん、こんなに歌うまいんだ、と。出演者なのに完全にお客さんになって聴いてたけど。

笠原
いやいや(笑)。

―笠原さんにその頃ついたキャッチフレーズが「アニメ界の歌姫」でしたね。当時「歌姫」と呼ばれていることをどのように意識されていましたか。


笠原
当時は「歌姫」って言われていたっていう意識が……本当に私、当時はすごくクールで(笑)。あまりこう、自分がそうだと思ったことはなかったですね。
小さい頃からこういうお仕事をさせていただいていたので、きちんとふるまわなきゃいけないって劇団の先生から教育を受けてたので。“今、自分が置かれている仕事上の役割が「歌姫」っていう立場なんだな”って少し客観的に思ってました。「歌姫なら、もっと頑張んなきゃ」って気負うことが得意な方じゃなかったので、気にしないようにしてたというか。

タカヤマ
役割って。人事?(笑)

笠原
「歌姫」って呼ばれてるんだ、みたいな(笑)。そんな感じでいましたね。

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■ 『マクロスII』に見る『マクロス』らしさ

―『マクロスII』は、『マクロス』シリーズの中でどんな作品だと思いましたか。

タカヤマ
戦いと歌がコラボレーションして、歌が戦いを終結させる。『愛・おぼえていますか』のカタルシスを再現するじゃないけど、『マクロス』シリーズが持っている「歌」「バルキリー」「三角関係」っていう王道のエッセンスを一番忠実に再現してる作品のかな、っていう感じはしますよね。
……でもね、『マクロスII』はさんざんね、「黒歴史」と言われてきましたから(笑)。


笠原
あの……『黒歴史』って何ですか?(一同笑い)

タカヤマ
要は「歴史上なかったことにされたもの」のことを黒歴史ってアニメファンは呼んでいるんですよ。
『マクロスII』というキーワードで検索すると、公式サイトとWikipediaの次に「黒歴史」って出てくるから。もう由々しき事態(笑)。今、公式サイトのトップページに「マクロスIIはなぜ黒歴史と呼ばれたのか?」って出てくるけど、僕がオーディオコメンタリーのときに「黒歴史って言われている」って発言したのがきっかけだったらしいんですけど。

笠原
……でも、何というか、皆さんの気になる作品でいてくださっているのかな、っていう。

タカヤマ 
『マクロス』世界の中で、唯一、主人公のヒビキがバルキリーに乗らないですから。ヒビキが戦闘機に乗って最後にボスを倒すという案もあったらしいんですけど、それだと前作に近くなっちゃんのでなくなりましたけど。

タカヤマツトムさん
―好きなシーンなどはありますか。

タカヤマ
『マクロスII』は、男子の目線的に言うとメカアクションですね。バルキリーの顔破壊がミサイルであったりとか。そういうのも「ああ、これぞロボット物!(拍手)」っていう感じがありまして。
メカアクションでは第4話のフェフとのチェイスが一番好きなんですよ。
ヒビキとシルビーがイシュタルを助けに行って、バルキリーで逃げ出すのをフェフが追っかける。音響監督の本田さんがつけてくれた音楽も良くてね。チャッチャ、スチャスチャ、チャッチャッチャ♪ ダビングを見せていただいた段階でもう鳥肌でしたね。

笠原
私が好きなのは、(第3話の)イシュタルがヒビキにフェスティバルに連れて行ってもらうシーンですね。イシュタルちゃんがライブで地球の歌を初めて聴いて、感激のあまり思わず立ち上がって目キラキラさせているのがすごくかわいい。“こんな歌があったんだ”って発見して目がキラキラするようなところって私も少なからず持っていて。アニメなんですけど、あそこはすごく……。

タカヤマ
笠原弘子とオーバーラップする感じ?

笠原
そうなんですよ。演じているときはお芝居で精一杯だったけど、今振り返ってみると、ご縁があって演じさせていただいた役というのは、私自身と通じるものがあったのかなって。その頃アニメを見てくださっていた方もそう思ってくださっていたのかな、というのは感じましたね。
イシュタルちゃんが歌うっていうのが、『マクロス』の世界というか王道というかキュンとします。女子から見ても「歌で戦いを終わらせる」というのは理想的で。
今のこの時代に、もうそんなことができたらわたしやります、みたいに思っちゃうぐらい……。そんな素敵なことってないじゃないですか。それを真剣に、こうやって映像作品という残る形で後の時代に伝えていけるっていうことが素晴しいですね。

■ 『マクロスII』から受け取ったもの

―『マクロスII』を22年経った今見返す、または初めて見るファンの方へ見どころのご紹介をお願いします。

笠原
『マクロス』って歌あり、戦闘シーンあり、若者の成長ありと盛りだくさんですよね。

タカヤマ
それを30分6本でやろうっていうのが大変な作業ですよね。よくまとめられたというか。スタッフみんながベストを尽くしたがゆえに、いろんな要素が詰まりすぎていてちょっと展開がバタバタしているところもあるんだけど(笑)、その熱さは今見たら貴重かもしれないです。初めて見る方には先入観なしに“黒歴史なんてくそくらえ”で(笑)。

笠原 
スタッフの皆さんの思いがたっぷり詰まっていますよね。あと、時代的にもすごく貴重な作品なような気がするんですよ、あの頃の“ぜいたくな時代”をそのまま表わしているような。

タカヤマ
ブルーレイになって、絵がこんなにきれいだったんだ、っていうのが感激でしたよね。あらためてHDネガスキャンしたんだって。6月の『マクロスII』のオールナイト上映会【6月6日に行われた新宿バルト9「マクロス映画祭 ~初夏の陣2014~」】に行ったんですよ。そのときにも思ったけれども、22年前のクオリティで、メカの描き込みとかの部分が全く遜色ない……というか、むしろ手描きによる良さがあるなあと。
笠原:絵が本当にきれいで。戦闘シーンが美しいですよね。それは女子が見てても本当にきれいだなという……今の気持ちだと、『マクロスII』見ながらお酒飲みたい、みたいな(一同笑い)。

笠原弘子さん
笠原
絵もとても繊細なタッチで描かれていて、絵画を見てるような気持ちになりますね。全部手描きなんですよね。本当にぜいたくな時代だったというか。これからアニメーションのお仕事をやりたいなと思ってる方にも、こんな時代があったのかという発見があるとすごくうれしいですね。

タカヤマ
そう。さっき笠原さんが上げていたフェスティバルでイシュタルが立ち上がるシーン。あれこそ、さすがに美樹本(晴彦)さん、っていう絵じゃないですか。

笠原
そうですね。いきいきしてるんですよね、イシュタルが。
私としては今見ているとやっぱりヒビキに惹かれるんですよ。最初は無鉄砲にそんなこと言っちゃってどうするの、って視点で観ているんだけど、後半になると自分がヒビキに惹かれている。

タカヤマ
え、それはリアル笠原弘子が?

笠原
そう、私自身が。ヒビキって魅力的な主人公だな、とあらためて。人間っぽいというか、本当っぽいというか。最初っから「理屈を分かってる主人公」じゃないというところが。
向こう見ずなヒビキが、いい先輩とかいろんな人に助けられて成長していく過程もとってもいいし、そこも今はなかなかない、ぜいたくな時代のものなのかもしれないですね。今って、人が人を育てる時間が削られてしまっているような……新入社員のうちから社会の理屈をわかっていないとダメみたいな部分があるけど、あの頃は、ヒビキみたいな若者が育っていく過程をじっくり描ける時代だったんだなって。

タカヤマ
むしろ今見るべき、と。

―では最後に。『マクロスII』はご自身にとってどんな作品でしたか。

笠原
『マクロス』の歌姫をやらせていただいて、今とっても糧(かて)になってます。歌をずーっと続けていきたいなと思いますし。今のめまぐるしく変わっていく世の中で、自分の心が変わらずに歌を続けていくってことって難しいと思うんですね。わたしはマイペースな方なのでこうやって続けさせていただいてますけど、それは、イシュタルのような素敵なキャラクターや作品が、今も私の力になって、支えてくれてる気がするんですよね。

タカヤマ
うんうん。それはありますね。作品が自分を支えてくれる。ぼく自身、声優として大きな役はこれともう1作品ぐらいしかないんですけど。この『マクロスII』をやったっていうことは、もうこの二十何年、このブルーレイが出る前、本当に日の目を見ないときでも、自分が演じた、という事実自体が自分の中に確固たる芯のようなものとしてあったんですね。
アフレコのときに、後ろにいらっしゃるのがベテランさんが多かったんです。キートン山田さんとか古谷徹さんとか。もう右も左も分からない若造が、偶然『マクロス』という何十年も続くことになるシリーズに関わることになって、ベテランの方々の前で演じさせてもらったことの自信みたいなものといいますか。根っこになっているのは確かだと思います。

笠原
高山タカヤマさんが、それまで声優のお仕事をあまりされていなかったっていうのが、今日初めて聞いて驚きました。

タカヤマ
いや、あらためて思って。自分でもよくやったな、と思います。本当に何も考えてなかったな、怖いもの知らずって一番怖いな、と思いましたけどね(笑)。

タカヤマ
うーん、なんだろ。声の仕事始めて、1年半かそれぐらいで……。本当に、マイクの前でしゃべるっていうこと自体を分からないまま立ってたから。そこからあんな長ゼリフを言うことになるとは。第1話なんてしゃべりっぱなしだったからね。逆に、何も知らないからできたのかもしれないですよね。

笠原
すごいですよね。きっとヒビキと重なるところがあったんでしょうね。

タカヤマ
何を考えて演ってたんだ、オレは、っていう。それは後ろでマネージャーが「胃が痛くなった」って言いたくなるのも分かるよな、っていう(笑)。そう考えるとヒビキも『マクロスII』も自分自身だなっていうのは思いますよね。良くも悪くもそこもひっくるめて今の自分だし、っていう。なんか、深い人生観みたいな話になってきちゃいましたけどね。

笠原 (笑)

―どうもありがとうございました。

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