『聖闘士星矢』という作品は、登場人物が特別な力を手に入れ、戦いに挑む、バトルマンガであり、星矢(当時13歳)の成長譚でもある。しかし単なる「敵を倒して成長する」という物語に終わらないのは、全体に張り巡らされた人間関係と丁寧な心情の描写にある。
■ 不可欠な仲間の絆
全体を通して重視される関係のひとつが、仲間との絆だ。これは当時の週刊少年ジャンプで連載されていた作品に共通する。もちろん週刊少年ジャンプのテーマは「友情・努力・勝利」。
当時、同時に『ドラゴンボール』『魁!!男塾』『ろくでなしBLUES』などが連載されていたが、これらに比べても、『聖闘士星矢』での友情を重視する度合いは強い。しばしば自分を犠牲にしてでも、仲間を前に進ませようとする。
星矢側のチームは、紫龍、氷河、瞬、一輝と全5人。最初は、同じ聖衣を持ちながら、ライバルのような存在だったものの、より大きな敵が出てくると一致団結してチームとなって立ち向かう。
前編でも触れたとおり、単純な戦いの力という点では、星矢の力はそこまで強くはない。特に物語の序盤では、主人公にもかかわらず敵に倒され前に進めないことも多々ある。『聖闘士星矢』では、この主人公=星矢の力を補い、さらに前進を後押しするのが仲間=紫龍、氷河、瞬、一輝との連携なのだ。彼ら瞬らは、時に星矢の代わりに強い敵と戦い、時に立ち止まりそうになる星矢の背を押す。星矢も仲間を信頼し、戦いを任せる。
物語が進むにつれ、性格や役割の違いも強調されていく。冷静さや理性は氷河や紫龍が引き受ける一方、瞬は守りややさしさの部分を担う。これは、氷河が氷の技を扱う特性や、瞬の星座であるアンドロメダの神話ともリンクして強調される。(実際氷河は、物語が進むにつれ、自分に冷静さやクールさが足りないと自覚しそれを身に着けようとする)。一方、当初、星矢たちに対峙する「敵」として登場した一輝が引き受けるのは、パワーや冷徹さ。情に流されやすいほかの4人を叱咤激励すると同時に、自分の力で道をこじ開ける役割も担う。徐々に瞬だけでなく、4人の兄としての役割も出てくるのだ。
そしてこの5人のなかで、主人公である星矢が担うのは「可能性」という役割だ。前述のように、けして最も力が強いわけではないが、やり遂げるという意志の強さはほかの4人を上回り、いざというときにみなが賭けてみたくなる――最後の最後で勝負を託される存在として描かれている。
星矢が仲間を信じて戦いを任せる分、仲間も信頼を返す。
アニメ!アニメ!『聖闘士星矢』
http://animeanime.jp/special/358/recent/
(c)車田正美/集英社・東映アニメーション
■ クローズアップされる肉親、師弟関係
絆は仲間どうしの間だけではない。師弟や、数は少ないものの肉親との絆も強い。
師弟関係は、聖闘士星矢の物語全体にベース音のように流れている。師匠は弟子を鍛え、戦場に送り出す。そしてその後、味方や対峙するものとなり、より弟子との関係を強くしていく。氷河は師匠と戦いを通じて、瞬は師匠の敵をとることで。紫龍も折に触れて師匠に教えを請う。星矢の場合も、戦いでピンチになると、師匠の教えがよみがえる――聖闘士は常に師匠の姿を背負いながら進んでいくことになる。
数少ない肉親の絆が強く示されるのは、一輝と瞬の兄弟愛だろう。
一方瞬にとっても、一輝の存在は大きい。一輝はVSシャカ戦で命を落としたと思わされるが、瞬は一輝の最後の言葉「さらばだ瞬!星矢達ともに最後まで男らしく戦うんだぞ!」を胸に前に進む。終始柔らかな表情をしていた瞬が、この言葉の後、強い光を込めた目で進む姿には成長を感じさせる。
兄弟関係は敵側でも出てくる。例えば双子宮の聖闘士、サガとカノンの双子の兄弟。双子座を背負ったことから、兄のサガは[善]、弟のカノンは[悪]の性格に分かれてしまい、カノンが悪をささやき続けた結果、サガにも悪の心が生まれ、サガが教皇を殺して自分が権力を握るきっかけになってしまう。「神のように慕われていた」サガが、なぜ悪の道にという読者や視聴者の疑問も、兄弟という強い関係性だからこそと納得させられるのだ。
このような師匠や仲間との絆が強い印象を与えるのは、多くのキャラクターが肉親の縁が薄いからだ。聖闘士の多くは、親がいなかったり、いても亡くなったりしている。紫龍も親の姿は描かれないし、氷河も母親は亡くなり海に沈んでいる。
アニメ!アニメ!『聖闘士星矢』
http://animeanime.jp/special/358/recent/
(c)車田正美/集英社・東映アニメーション
■ 緊張感を与える「敵が味方に、味方が敵の中に」
戦いばかりが続く『聖闘士星矢』。この戦いを盛り上げるのは健全な緊張感だ。これは、キャラクターが敵と味方を行ったりきたりし、敵と味方のどちらなのか惑わされるからではないだろうか。
たとえば一輝。最初は聖衣を手に入れに行くという同じ側にいたにもかかわらず、もっとも早いタイミングで敵として登場して、星矢らを襲う。しかし、物語が進むと心強い味方となり、仲間の背中をおし、自ら強い敵に打ち勝つ。瞬の兄ということに加え、その強さで少しずつ仲間に認められていく。様々な作品で「強者」として描かれてきた不死鳥――当時の子供が、あこがれないはずはない。もちろん少年マンガに多いパターンだが、車田節の台詞とは相性がいい。
さらに物語が進むにつれ、味方であった存在が、「敵」=主人公らと対峙するものとして登場することも少なくない。読者や視聴者は「なぜ敵に?」という理由を考え、味方は戦いながらも「なぜ」と深く葛藤する。この心情が、読者や視聴者を引き込むのだ。
例えばムウ。最初は、壊れた青銅聖衣を修復するなど星矢らに味方するものの、十二宮編に入ると、ムウ自身が黄金聖闘士であることが明らかになる。結局直接戦うことはなく、むしろ倒れた城戸沙織を守る側になるものの、十二宮編全体で黄金聖闘士と対立していることを考えると、読者や視聴者は「いつか裏切るかも」と思わされる。
獅子座のアイオリアも味方から一時、敵に回った。アテナの化身である城戸沙織に忠誠を誓って、敵の親玉である教皇を倒そうとするものの、返り討ちにあい、教皇の技にかかってしまう。十二宮で星矢の敵として立ちはだかることになった。
前編で触れた、氷河の師匠、水瓶座のカミュもこの系統に入るだろう。黄金聖闘士としての役目であるとしても、かつて鍛えた氷河と戦うことになったのだ。
かつて楽しんだマンガやアニメを改めて見直すのは、リアルタイムで見ていたときの楽しさを思い出すと同時に、人間関係やメッセージに新たな発見があるからだ。もちろん、今とは違う雰囲気の絵柄や音楽、説明の多さに戸惑うかもしれないが、子どものころにみたときとは違うセリフやシーンに感銘を受けることもあるだろう。読者や視聴者が経験を積んだ分、新たな発見につながるのだ。
[文:マンガナイト・山内康裕、bookish]
アニメ!アニメ!『聖闘士星矢』
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