2015年1月に放送開始したテレビアニメ『純潔のマリア』がフィナーレを迎えようとしている。本作は中世フランスの百年戦争の時代を舞台に、争い嫌いな魔女・マリアが戦争を止めるべく奔走するファンタジーだ。

石川雅之さんの傑作マンガを原作に、その世界観を見事に映像化した話題作だ。そんなアニメ化を実現したのは精鋭スタッフだ。『無限のリヴァイアス』や『コードギアス 反逆のルルーシュ』などで知られる谷口悟朗さんを監督に、アニメーション制作はProduction I.Gが担当している。
このインタビューでは、監督の谷口悟朗さんにアニメ化にあたっての工夫、オリジナル要素の意図など話をうかがった。

TVアニメ「純潔のマリア」公式サイト  
http://www.junketsu-maria.tv
3月29日(日)22時30分 TOKYO MXを皮切りに最終話放送

■ アニメ化にあたって

――「監督」としてTVシリーズに参加されるのは久しぶりですが、そもそもどのようなきっかけで『純潔のマリア』に参加されたのでしょうか?

谷口
講談社さんとバンダイビジュアルの湯川(淳)プロデューサーからお話をいただきました。同じく講談社さんから刊行されている『プラネテス』も監督をさせて頂いていたので、それもきっかけの一つだったのかも知れませんね。


――はじめに原作を読まれてどう思われましたか?

谷口
これは困ったな、と。中世ヨーロッパの百年戦争末期はそもそも資料に乏しい時代なんです。しかも日本人にとって「百年戦争」は馴染みがないので、バックボーンを説明しようとしても興味を持たれない可能性がある。さらに物語やテーマ的に「キリスト教」をファッションとして捉えてはならず、むしろきちんと教義としてとらえないといけない。そうした要因が複雑に組み合わさっていたので、どうしたものかと。

――実際どうされたのでしょうか?

谷口
『プラネテス』の時と同様に、まず “勉強会”からはじめました。
チーフリサーチャーの白土晴一さんを講師として招いて、当時の時代背景やキリスト教の教義、さらに服装や食べ物にいたるまで、私や脚本の倉田さん、デザインの千羽さんや中田さんにひと通り説明していただきました。

――オリジナルキャラクターの登場など、原作の石川雅之氏とどんなお話があったのでしょうか。

谷口
原作マンガでは「魔女」と「天の教会」の関係性が物語の中心でしたが、アニメでは視聴者の方により深く理解してもらうために「人間」の目線を補強させてくださいとお話しました。人間は、更に「働く人」「戦う人」「祈る人」に分類し、各グループにオリジナルキャラを配置してあります。

――原作マンガと比べると、主人公・マリアが少女っぽく描かれているように感じました。

谷口
これは「漫画」と「アニメ」というメディアの違いと、今回「人間」の目線も導入したことによる必然から、ですね。
許可していただいた石川さんには感謝しています。

――キャラクターデザインの千羽由利子氏を起用されたのも、そのあたりが理由になってきたのでしょうか?

谷口
ええ、「柔らかさ」が欲しかったので。あと、本作では「品」がないと成立しないと思っていたんです。そうしたときに男性の方のキャラクターデザインでは、いらない欲が入ってしまう可能性もあった。

――いらない欲ですか?

谷口 
「性欲」です。生殖に関する信仰も入ってくる可能性があったため、女性のキャラクターデザイナーさんのほうが向いていると考えまして、『プラネテス』からの流れも活かして千羽さんにお願いしました。


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■ 海外を視野に

――テーマ的には「キリスト教」が重要になっています。宗教というのは、扱いにくい題材だと思ったのですが……。

谷口
個人的には、本作を国内だけではなく「海外に持っていこう」という目標があるんです。キリスト教から逃げるのではなく、むしろ真正面から扱って、海外の方々にも楽しんでもらえるものにしようと。べつにキリスト教の良し悪しを描きたいわけではなく、当時の人々が苛酷な日々のなかで生きていくために必要な、“社会システム”としてのキリスト教を描こうと考えました。
本作では天の教会と地の教会、それぞれの思惑が同じ方向を向いて動いているわけではないので、そのあたりも表現として膨らませていこうと思いました。


――ネットで海外ファンの感想を見ていたら、キリスト教の描き方が好評でした。

谷口
ありがとうございます。ただ、中世ヨーロッパの時代背景や宗教観など、日本のアニメファンに受け入れてもられるのかは微妙でした。でもそこをきちんと描かないと作品としてグダグダになってしまう。正直に言ってしまうと、難解になるのは承知の上でしたから、かなりの数の方々からは見捨てられるだろうと思っていたんですよ(笑)。
いざ蓋を開けたら、こちらの予想以上について来ていただけている方が多かった。
やはり、日本のアニメファンは層が厚いですね。とても嬉しかったです。

――深夜アニメで海外を意識した作品は珍しい気がします。ドメスティックにつくって結果的に海外に拡がるというパターンはありますが、なぜはじめから海外を意識されたのでしょうか?

谷口
わたし自身としては、海外はけっこう前から意識していました。現実問題として、日本の市場は少子高齢化社会などで縮小傾向にある。アニメは海外のように国からの援助がない限りは、ファンの方に商品を買ってもらったり、応援していただかないと成立しない。
だったら日本のアニメファンだけでなく、海外のアニメファンにも目を向ける必要があるのかなと。とくに『純潔のマリア』はお話やテーマ的にもそれが可能だったので。

谷口
監督やスタッフとして明確な足場を設定しないと、本作は“なんちゃって中世”になってしまう。それだと作品としてつまらないし、何よりこれだけ真摯にテーマを描かれている原作の石川さんに失礼な行為になる。そう考えたときに、海外の観賞に耐えうる作品、というのは私の中でのひとつの指標だったんです。

――リアルな戦闘シーンや当時の宗教観など、時代考証の徹底ぶりに驚きました。

谷口
あの時代をこれだけきちんと描こうとしたものは、日本国内においてはアニメーションのみならず、どの映像作品においても初だと自負しています。デザイン、作画、色彩、美術の各チームの成果ですね。
ただ「考証」はそれ自体が目的ではなく、物語が要求する必然です。マリアが魔女なので「魔法少女もの」で説明しましょうか。通常の作品ならば、普段の生活を営む“日常”のブロックと、変身して魔法を使う“非日常”のブロックがあって、その2つが有効に働くフォーマットになっている。
ところが本作では、マリアが生まれながらにして「魔女」なので存在そのものが“非日常”。そこを照らし出すためには、人間の暮らしの足場をしっかりと構築しないといけなかったんです。だから中世ヨーロッパの日常に関しては、調べられる限り調べてくださいとチーフリサーチャーの白土さんにお願いをしていました。

――そのための時代考証だったと。

谷口
白土さんは素晴らしい仕事をしていただきました。ただ、実際にやってみると想定外のところも出てくるのが常です。この状況で修道士は頭を下げるのか下げないのかなど、細かい所作まで調べる必要が出てきたり。またこの時代は大量生産はまだ行われておらず、武器や服は一点ものなんです。さらに染料が限られていたり、差別的なイメージの色は使えなかったりで、使える色に制約が生じてしまった。そういう意味では、他のスタッフの皆さんに申し訳ない気持ちがありつつも、よくぞついてきていただいたという感謝の気持があります。音響も撮影も、よくついてきてくれました。

後編に続く (3月29日アップ予定)

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発売・販売元:バンダイビジュアル

【第1巻 特装限定版特典(BD&DVD共通)】
[封入特典]
総作監修正画集<第1話・第2話>(16P予定) 
特製ブックレット (40P予定)
[映像特典]
配信ミニ特番『チーフリサーチャーからの挑戦状』(出演:金元寿子<マリア役>・日笠陽子<アルテミス役>・小松未可子<プリアポス役>)
※「4話まとめて一挙無料配信」(2月8日より毎月1回・全3回)実施時に付属する特番です。一部編集有。
ノンテロップOP・ノンテロップED  TVCM・PV
[音声特典]
オーディオコメンタリー<第1話・第2話>(出演予定:金元寿子<マリア役>・日笠陽子<アルテミス役>・小松未可子<プリアポス役>)
[他、仕様]
キャラクターデザイン・千羽由利子描き下ろしジャケット

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3月25日発売
発売元:ランティス  販売元:バンダイビジュアル
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出演者:金元寿子(マリア役)、日笠陽子(アルテミス役)、小松未可子(プリアポス役)

TVアニメ『純潔のマリア』公式サイト
http://www.junketsu-maria.tv
TVアニメ「純潔のマリア」公式Twitter
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TVアニメ『純潔のマリア』
(C)石川雅之・講談社/純潔のマリア製作委員会