レクサス/IS300h(600万円)

 日本では2005年から展開を開始した高級ブランド「レクサス」。街に出れば同ブランドのSUVを目にしない日はありません。

ですが、レクサスの神髄はセダンだと感じています。今回、2度目のマイナーチェンジをはたしたISのハイブリッドモデルに触れて魅力をお伝えしたいと思います。


プレミアムセダン・レクサス「IS」って
どんな車?

 レクサスISは、Dセグメントに属するブランドを代表するプレミアムセダン。ライバルは、BMW3シリーズとメルセデス・ベンツのCクラス、アウディA4といった世界で高い評価を得ているモデル群です。ISという車名は、インテリジェント・スポーツ・セダンの「Intelligent Sport」の頭文字をとったもの。


プレミアムセダン・レクサス「IS」に見る無個性という名の個性
レクサス300hのフロントマスク
プレミアムセダン・レクサス「IS」に見る無個性という名の個性
レクサス300hのサイドビュー
プレミアムセダン・レクサス「IS」に見る無個性という名の個性
レクサス300hのリアビュー

 現行型の3代目がデビューしたのは、2013年5月にまで遡り、当時のプレスリリースによると「“走る楽しさ”を極めたLEXUSスポーツセダン」と銘打たれていました。このスポーツ性が、ライバルとは異なる要素として独自の存在感としているようです。


プレミアムセダン・レクサス「IS」に見る無個性という名の個性
新しい意匠のフロントグリルとヘッドライト
プレミアムセダン・レクサス「IS」に見る無個性という名の個性
IS300hのパワーユニット

 ラインアップは3.5Lガソリンエンジン車の「IS350」のほか、2.0Lターボモデルの「IS300」、そして2.5Lハイブリッドモデルの「IS300h」の3モデル。今回のマイナーチェンジでは、スピンドルグリルはグリルの先端を起点に立体的な多面体構造とし、スピンドルをモチーフとしたブロック形状とメッシュパターンを組み合わせた新意匠に変更。ヘッドランプはランプユニットの小型軽量化に伴って薄型化され、シャープな印象をさらに強めました。さらに、前後のフェンダーを張り出してワイドトレッド化を達成。全長と全幅で各30mmずつ、全高で5mmそれぞれ拡大されました。単なるマイナーチェンジという枠ではおさまらない印象を受けます。


プレミアムセダン・レクサス「IS」に見る無個性という名の個性
ハイブリッドモデルにはサイドスカートにハイブリッドの文字が入る

 今回試乗したのはラインアップの中でも、最も人気が高いと思われるハイブリッドモデルのIS300h。アクセル開度に対するエンジンとモーターの駆動力制御が変更されています。エンジンの最高出力178PS/6000rpm、最大トルク22.5kgf・m/4200~4800rpm。これに最高出力143PS/30.6kgf・mのモーター出力が加わります。ちなみにIS350とIS300がハイオク専用であるのに対し、IS300hはレギュラーガソリン対応車。ハイブリッドシステムと相まって、シリーズの中では経済的なモデルであるといえるでしょう。


室内は質感が高く、ラグジュアリー

 ハイブリッドシステムから生み出された出力は、CVTを介して四輪もしくは後輪に伝えられます。今回試乗したのはFRモデル。トヨタのFRスポーツセダンといえば、アルテッツァを思い出す人も多いのでは? ですがアルテッツァと大きく異なるのはプレミアムであること。


プレミアムセダン・レクサス「IS」に見る無個性という名の個性
レクサスIS300hのインテリア
プレミアムセダン・レクサス「IS」に見る無個性という名の個性
レクサスIS300hのドライバーズシート
プレミアムセダン・レクサス「IS」に見る無個性という名の個性
レクサスIS300hの車内
プレミアムセダン・レクサス「IS」に見る無個性という名の個性
レクサスIS300hのメーターパネル
プレミアムセダン・レクサス「IS」に見る無個性という名の個性
アクセルペダルはオルガン式だ
プレミアムセダン・レクサス「IS」に見る無個性という名の個性
アームレストの内部
プレミアムセダン・レクサス「IS」に見る無個性という名の個性
アームレスト内に2系統のUSB充電コネクタとアクセサリーソケットがある
プレミアムセダン・レクサス「IS」に見る無個性という名の個性
ドア内張りまわり

 それは室内で強く印象づけられます。ラグジュアリースポーツという言葉が相応しい、レクサスならではの空間に仕上げられています。このレクサスらしい、というのがプレミアムブランドにとって重要な要素で、どのレクサス車に乗っても世界観が統一されています。試乗車はバージョンLという高級グレードで、品質の高い素材を多用。

個人的にはステアリングホイールの上側がブラックアッシュ仕上げの木材に心がときめきました。


プレミアムセダン・レクサス「IS」に見る無個性という名の個性
シフトレバーまわり
プレミアムセダン・レクサス「IS」に見る無個性という名の個性
リモートタッチ
プレミアムセダン・レクサス「IS」に見る無個性という名の個性
10.3型ディスプレー

 レクサスらしさといえば、シフトレバー後方に設けられた「リモートタッチ」と呼ぶインフォテインメントシステムのコントローラー。10.3型へと大型化されたディスプレーをタッチパッド式で操作するのですが、不慣れな私にはちょっと使いづらいところ。正直、ディスプレーをタッチした方がラクなのですが、画面が汚れるしレクサスオーナー(仮)たるものリモートタッチだろうということで、こちらで操作することに徹しました。インフォテインメントは実に多機能! そのメニューの多さに圧倒されつつも、これも使いこなさないとレクサスオーナー(仮)にはなれない気が……。スマートフォン連携は、Apple CarPlay、Android Autoのみならず、スマートリンクデバイスまで用意する充実ぶりは流石のひと言です。


プレミアムセダン・レクサス「IS」に見る無個性という名の個性
マークレビンソンらしいノブが美しい

 オプションのカーオーディオはマークレビンソンの手によるものが搭載されていました。マークレビンソンは、ハイエンドオーディオというジャンルを確立したアメリカの名門で、オーディオ業界では広く知られています。搭載するデッキはBlu-rayにも対応しており、車内がホームシアターに変身することだって難しいことではありません。ノブの仕上げは、まさにレビンソンそのもの。指先にイイモノ感が伝わります。


プレミアムセダン・レクサス「IS」に見る無個性という名の個性
シフトノブ

 シフトレバーはイマドキ珍しいゲート式。

あまりに久しぶりなので、どうやって動かすのか最初わからず恥ずかしい思いをしました。ATセレクターはボタン式やストレートなレバー式、そしてジョイスティックと様々ですが、これが実際に使うと「ゲート式の方がいいのでは」と思えるから不思議です。スタータースイッチがハンドル左側方向にあるため、エンジンに火を入れて、そのままシフトへという一連の動作が実にスムーズにできるのもレクサスのよいところ。こういった細かな気配り、さすがおもてなしのレクサスです。


プレミアムセダン・レクサス「IS」に見る無個性という名の個性
走行モードセレクター

 ジョグダイアルで切替できるドライブモードセレクターは、エコ/ノーマル/スポーツ/スポーツプラスと4種類。さらにノーマルにはインディビデュアルという個別設定モードが用意されています。自分はエコモードかスポーツプラスモードしか使わないのですが、ジョグダイアルで素早く設定変更できるのは便利です。


プレミアムセダン・レクサス「IS」に見る無個性という名の個性
リアシート
プレミアムセダン・レクサス「IS」に見る無個性という名の個性
後部座席の背もたれを倒したところ
プレミアムセダン・レクサス「IS」に見る無個性という名の個性
ラゲッジスペース用のトランクドア
プレミアムセダン・レクサス「IS」に見る無個性という名の個性
ラゲッジを開けた様子
プレミアムセダン・レクサス「IS」に見る無個性という名の個性
後席用エアコンダクト
プレミアムセダン・レクサス「IS」に見る無個性という名の個性
後席ガラスドア
プレミアムセダン・レクサス「IS」に見る無個性という名の個性
サンシェードを立ち上げた様子

 後席も上質で、トランクスルーを始めとして使い勝手の面で不足ナシ! 強いて挙げるなら、後席にUSB充電端子が用意されていないことでしょうか。その一方、リアにサンシェードが設けられており、プレミアムなセダンにはこのような装備が付くのかと感心しました。


プレミアムセダン・レクサス「IS」に見る無個性という名の個性
財布に入れても厚さをあまり感じないリモコンキー

 リモコンキーはカード型で、財布のカード入れに綺麗に収まるタイプ。鍵をジャラジャラさせることはありません。案外クルマの鍵って行方不明になりがちなんですよね。

これはうれしいポイントです。


文句が出てこない快適な走行性能

 エンジンスタートし、シフトレバーをDポジションへ。パーキングブレーキを解除しようとボタンを探すのですが見当たらず。「フットブレーキかな?」と足元を見ても見当たらず。どうやらパーキングブレーキはPポジションで自動的に作動、ほかのポジションに入れれば解除されるのです。これは意外と便利な機能です!


プレミアムセダン・レクサス「IS」に見る無個性という名の個性
レクサスIS300h

 走行中、文句の1つも浮かばないのがレクサスの凄いところでもあります。もともとトヨタのクルマに関して文句はないのですが、重箱の隅をつつこうとイジワルモードで見てもなかなか見つけることができません。ただただ良いクルマなのです。「あぁ、良いクルマ」という言葉しか出てこないので、これ以上は書きようがないのです。


 その上で、良いクルマなのだけれど、個性が見いだしづらいのも事実。ドイツのプレミアム御三家には、メーカーごとの特徴があります。ですがレクサスの特徴は何? というと見つけづらいようにも。


プレミアムセダン・レクサス「IS」に見る無個性という名の個性
レクサスIS300h

 乗り心地一つとっても、やや硬質ながらも軽やかな印象を受けるメルセデス、どっしりとした安定感のBMW、柔らかくしなやかなアウディと表現できるのに対して、レクサスは3ブランドから等距離の中心点にあり、よく言えば3社のいいところどりをした日本の道に適した乗り味。

まったくもって不満はありませんし、それが正しいクルマづくりとも思います。ですが「レクサスならでは」という部分を見出そうと思うと、なかなかに難しいように思えるのです。


 こう感じるのは、おそらく自分が日本人だからでしょう。異文化のクルマの特徴を見つけ出すことはカンタンで、自分にないものだから惚れやすいのです。逆に日本車の良さは、案外見つけづらいものです。その中でもレクサスはトヨタという日本を代表する企業が作り上げた日本人に寄り添ったクルマだから、日本的な良さに気づきづらい、というわけです。


 そのようなトヨタ流の分析と改善を重ねて作り上げたからこそ、あまりに日本的なクルマとなり、より気づきづらいのかもしれません。ゆえに誰が乗っても不満を覚えることはないでしょうし、故に人々から支持と羨望を集めているのでしょう。逆にレクサスに不満を覚える方は、クルマに個性を求めていらっしゃる方といえるのかもしれません。ですからドイツ御三家とは、性能面や格式の面ではライバルになっても、比較対象なのかというと違う気がしました。


プレミアムセダン・レクサス「IS」に見る無個性という名の個性
レクサスIS300h

 さて。インテリジェント・スポーツという言葉が与えられたこの1台。

スポーツプラスモードにセットし、夜の首都高C1へ繰り出してみました。ステアリングは重く、ダンパーは引き締まり、アクセルレスポンスも俊敏。これは楽しめそう! FRというレイアウト、ハイブリッドゆえのトルクフルさも手伝って、これがセダンというレベルを超える速さ。頭の重さは感じるものの、アップダウンの激しいC1内回りを快適に、でありながら速く走れる。中でも右へ左へ上へ下へとスリリングなポイントである京橋のアップダウンと陸橋の下を、たやすく抜けたことに、ただただ唖然とするばかり。


 ですが運転していて気持ちが熱くなるのかというと、そうではなく。排気音も踏んだところでセダンそのものだし、各種電子制御システムが働いてヒヤッとすることもなく。結果として、いつまでも熱い気持ちにはなることなく、自分の中で冷静な部分が残ったまま。なるほどインテリジェント・スポーツとはこういう事か、と妙に納得しました。おそらく早朝のワインディングを適度な速度で走ると、このクルマは最高に気持ちよいんだろうなと思いながら、C1内回りを2周ほど楽しみ、翌朝クルマを戻しました。


プレミアムセダン・レクサス「IS」に見る無個性という名の個性
レクサス/IS300hと野良猫。どうやら猫もレクサスが気になるようです

【まとめ】突出した個性はないが
高品質が約束された1台

 普通に乗っていても乗り心地がよく、スポーティーな走りだって楽しめる。何より見た目がカッコイイし、室内もリッチでプレミアム。レクサスが誕生して15年、CMなどのブランド戦略も相まって、若い女性に「好きなクルマは?」と尋ねるとレクサスと答えるようになりました。そう答える彼女たちの多くはレクサスに乗ったことがないかもしれない。ですが、そう思わせるブランディングと、そして実際に乗った時に失望させない乗り味。撮影中、一匹の野良猫がレクサスISに寄りそり、暫く離れることがなかったのですが、「なるほど、レクサスは人だけでなく猫もとりこにさせるクルマなのか」とほくそ笑んでしまいました。


プレミアムセダン・レクサス「IS」に見る無個性という名の個性
試乗車のスペックとプライスリスト

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