Tesla Model 3に試乗したのが1月15日土曜日の午後。その日の夕方、スマートフォンから購入することになりました。
テスラのウェブサイトにアクセスすると、トップ画面にModel 3の写真があり、そのすぐ下には「カスタムオーダー」と「在庫車」のボタンが用意されています。これらのボタンが、すでにクルマの購入手続きの開始を意味します。
カスタムオーダーは完全な新車の発注で、この原稿が公開されるタイミングでは12~16週、つまり3~4ヵ月かかる状態です。筆者が発注した1月15日は、これが9~12週(2~3ヵ月)であり、その後確認すると4~9週(1~2ヵ月)に短縮されていました。
昨今の半導体不足も相まって、クルマの納期は長期化が進んでいます。特に輸入車の場合は半年から1年待ちは珍しくなく、車種によっては4年先の新車を予約して確保することもあるほどです。
そういう意味では、3~4ヵ月で納車されるだけでも早い方でしたが、1月の段階での4週間というのは驚異的な早さだと思いました。製造は上海工場で、おそらく右ハンドルの日本車を固めて製造して、これをガンガンフェリーで運んで納車ラッシュを決めようという算段が透けて見えます。
シンプルな選択肢
クルマと言えば様々なエンジンやオプションを選んで行くのも楽しみの1つですが、その点でModel 3はシンプルさが極まっています。
- 動力性能(バッテリーは上位モデルほど多い):
標準(RWD、後輪駆動) < ロングレンジ(AWD)< パフォーマンス(AWD、高性能モーター) - ボディの色:
ホワイト(標準)< ブラック・グレー・ブルー < レッド - ホイール:
18インチ(RWDで標準)< 19インチ(RWDのオプション、ロングレンジの標準)< 20インチ(パフォーマンスの標準) - 内装の色:
ブラック(標準)< ホワイト - フルセルフドライビングケイパビリティ(FSD):
87万1000円のオプション
選べるのはこれらのチョイスのみです。特にホイールはモデルごとに選択肢が限られているため、あえての選択肢とはならないかもしれません。
筆者が選んだのは、真ん中のロングレンジというモデルです。このトリムを選んだ理由については別に触れるとして、これだけシンプルに整えられていれば、スマホからオプションを選んで購入しても、あまり複雑にはなりません。
加えて、新興自動車メーカーで製造能力が他社の老舗自動車企業と比べればまだまだ弱いため、作る車のバリエーションを減らすことで製造効率を高めるねらいもあります。そうした弱みをカバーする施策でしたが、スマホでの購入をしやすくしているユーザー体験に転換している点は、うまい設計ですね。
最初の支払いは1万5000円
Tesla購入の瞬間は、本当にAmazonで何か買うときと同じ感覚でした。「ポチ」です。スマホのタップなのでクリック音は鳴りませんが。その際、予約の手数料として、1万5000円を払います。いきなり数百万をスマホから決済するわけではありません。
ただ、ここでクレジットカードを紐付けると、オプションの購入から、納車後にTeslaが用意する急速充電器(スーパーチャージャー)での充電料金、車載の4Gモデムの通信オプション「プレミアムコネクティビティ」の月額料金まで、このクレジットカードで決済されます。
もちろんあとからカードを変更することもできますが、Teslaのクルマを購入したのか、Teslaのサービスに加入したのか分からないと言われるとその通りかもしれません。ただ、都度請求書が来たり、カード決済画面になったりするよりは、良いと感じました。
ちなみに決済が終わると、なぜかハリネズミが登場して購入確認画面となります。

ユーザー体験の視点から考える
スマートフォンは言うまでもなく、我々の生活に欠かせない存在になりました。特にAmazonのおかげで、モバイルからのEコマース体験は向上し続けており、これに追随する形で各社のショッピングに関するユーザー体験も良くなり続けています。
しかし今まで窓口で行なわれていたこと、例えば銀行や自治体での手続き、住宅の購入やこれにまつわるローンの契約などは、まだまだ対面もしくは郵送での手続きが続いてきました。同様に、自動車の購入もまた、ディーラーという場所と接客によってユーザー体験が構築されていた領域です。
Teslaの購入が終わると、マイページにタスクリストがあらわれます。「納車場所」「郵送先住所」「登録内容」「下取り」がその中身。これを順番に埋めていくと納車準備が終わります。
程なくして封筒が届き、「登録内容」のために揃えるべき書類を取得して返信するように指示が出されます。印鑑証明や前のクルマの登記変更の委任状、車庫証明取得のための駐車場の地図などの書類を揃えるのですが、これらはスマホの上ではできません。
もちろんセブン-イレブンとマイナンバーカードを駆使して、ほとんどの書類をコンビニで取り寄せることができ、十分楽でした。しかし紙の書類のコンビニ取得と返送が面倒だと感じるぐらい、Teslaのマイページでの作業は簡単さを極めていたのです。
車の下取りにしても、マイページに車の外観、内装、エンジンがかかっている様子と走行距離の写真をスマホからアップすれば査定完了。
もしかしたら手数は普通の車のディーラーよりも多いかもしれません。しかし「マイページ」で進捗を自分で管理する方が分かりやすく、わずらわしさが少ない点もまた、今回Teslaの購入体験を進めてみてわかった結果でした。もちろん全部おまかせが良いという人もいるかもしれませんが、筆者にとっては心地よいものだったのです。
(つづく)

筆者紹介――松村太郎
1980年生まれ。ジャーナリスト・著者。モバイルとソーシャルにテクノロジー、ライフスタイル、イノベーションについて取材活動を展開。2011年より8年間、米国カリフォルニア州バークレーに住み、シリコンバレー、サンフランシスコのテックシーンを直接取材。帰国後、情報経営イノベーション専門職大学(iU)専任教員として教鞭を執る。
公式ブログ TAROSITE.NET
Twitterアカウント @taromatsumura