2022年5月25~27日、パシフィコ横浜にて「人とくるまのテクノロジー展2022 YOKOHAMA」が開催されました。
「人とくるまのテクノロジー展」は、1992年から開催されている技術者向けの専門展で、例年5月に開催されています。2014年からは7月頃に名古屋でも開催されるようになりました。ですが2020年と2021年は新型コロナウイルス感染症に伴い緊急事態宣言の影響で、オンライン展示会/講演会のみの開催となりました。

3年ぶりとなるリアル開催。場内はスーツ姿の方の姿が目立ちました。そしてもう1つ目立ったのが「カーボンニュートラル」「CO2削減」「SDGs」といった言葉たち。そのほとんどは「電動化」に関する内容なのですが、部品メーカーは、その一歩先として脱炭素社会に向けて何が提案できるのか、製造時においてCO2削減に貢献できるのか、という部分に軸足を移しているように見えました。まずは各自動車メーカーの展示内容をご紹介しましょう。
説明はオンラインで
三菱自動車


三菱自動車は「アウトランダー」に搭載した特徴技術であるPHEV(プラグインハイブリッドEV)システム、車両運動統合制御システム「S-AWC」(Super All Wheel Control)、新プラットフォーム、三菱自動車のPHEVで初めて3列7人乗車を可能としたパッケージングや先進安全装備を紹介していました。

コロナ対策なのか、解説員はその場にはおらず基本的にオンラインで技術説明をしていたのがユニークなところ。ちなみに、このような展示の仕方はほかの自動車メーカーでは行なわれておりませんでした。
発表したばかりの「SAKURA」を展示
日産


自動車業界では早くからBEV(バッテリーEV)に取り組んでいた日産。昨年発表したARIAと、今月発表したばかりの軽EV「SAKURA」の2車種を展示し、BEV時代を見据えた商品展開を訴求していました。

またシリーズハイブリッドであるe-POWERも訴求。前後にモーターを配置した4WDシステムを展示していました。
バイクのライディングアシストも!
Honda



HondaはEVとFCの両面から電動化を訴求していました。ユニークなのは電池パック交換式のEV。「Honda Power Pod e:Ptorotype」は、家電用ハンディー蓄電池とBEVスクーターの電池パックを共有するというもの。バッテリーパックを複数個用意すれば、充電時間の短縮を図ることができますし、いざという時にも役立ちます。

EV以外で目を惹いたのは、2輪姿勢制御のライディングアシスト。これはバイクそのものが自立させることで、立ちごけ等を防ぐというものです。CES2017で発表され話題を集めましたが、展示車はさらに進化したものになります。写真で見るとただのバイクですが、本当にスタンドを使わずに、しっかりと立っているから凄い!
運転支援技術がメイン
マツダ



マツダはEVではなく、運転支援に関する展示をしていました。MAZDA CO-PILOT CONCEPT技術試作車は、ドライバーの体調や操作を常にモニタリング。万が一の時に作動し、運転継続が難しい場合には自動的に減速・停車させ、必要に応じて緊急通報するというものです。
さまざまな電気自動車を展示
トヨタ



常に満員御礼状態で人気を集めていたのがトヨタ自動車。というのも、近日発売予定のBEV、bZ4Xのシャシーを展示していたから。プラットフォームの床下部分にバッテリや駆動用モーターが敷き詰められていてフラットな床面になっているのを確認することができました。

また、FCEV(燃料電池車)「ミライ」のシステムを紹介する展示もありました。BEVに対して、FCEVは水素を貯蔵するタンクや燃料電池ユニットが大きく鎮座するなど、同じブースでBEVと見比べることができるのは興味深かったです。
同社初のEVのカットモデルを展示
SUBARU


SUBARUブースでは、同社初のBEVである新型「ソルテラ」のカットモデルを展示し、間近で見られるようになっていました。また前後独立モーター駆動式AWD制御技術についてもパネルと動画で展示。多くの人が足を止めて見学していました。
クルマとバイク以外に船のエンジンも
SUZUKI


SUZUKIブースでは、2021年12月にフルモデルチェンジして、軽自動車としてトップレベルの27.7km/Lという低燃費を誇る「アルト」と、バイク「GSX-S1000GT」を展示。GSX-S1000GTは、欧州などでも販売されているスポーツモデルで、電子制御システムS.I.R.S.(スズキ・インテリジェント・ライド・システム)を採用し、エアロダイナミクスを追求することにより、快適に長距離ツーリングを楽しめるようようにしたバイクだとか。

ほかにもDF140BGという船舶用エンジンの姿も。これはエンジンの冷却水をくみ上げた際、一緒に海洋マイクロプラスチックを回収できるのだとか。
新開発のハイブリッドシステム「e-SMART HYBRID」
ダイハツ


ダイハツは昨年発売したロッキー・ハイブリッドのカットモデルを展示していました。新開発のハイブリッドシステム「e-SMART HYBRID」は、1.2リッターエンジンとモーター、ジェネレーター、容量4.3Ahの走行用バッテリーで構成。エンジンは発電のみに使用するシリーズ式ハイブリッドです。燃費改善効果は35%以上というから驚きです。
タイ産のSUV「MU-X」をお披露目
ISUZU


いすゞ自動車は、タイで製造する海外向けのSUV「MU-X」を展示していました。MU-Xは2020年に2代目にチェンジしました。
では、自動車メーカー以外では、どのような展示があったのでしょう? これが意外なメーカーが意外な物を作っていたりして、とても興味深いのです。
スマホだけじゃない!
ファーウェイ



スマートフォンなどでおなじみのファーウェイ。なんと自動車用の部品も作っていました。それもカメラにとどまらず、モーターや制御系まで、かなり幅広く展開して驚きました。ファーウェイのプラットフォームが使われた車が日本で走る日が来るかもしれませんね。
インホイールモーターが特徴的
日立Astemo

日立グループの自動車部品メーカーである日立Astemo。実に幅広いパーツ展開をしておりました。その中から個人的に興味を惹いたものを2つ。

まず1つめはCFPRプロペラシャフト。

そしてインホイールモーター。これが驚くほど小さいうえに、よく見るとブレーキローターとキャリパーがついているから驚きです。確かにホイールの中に入りそう。これを4輪に取り付けた車が近い将来出てくるのでしょうね。
小型・軽量のダンパーを開発
EXEDY


クラッチメーカーで知られるEXEDY。その展示の多くは、ハイブリッド車向けのトルクリミットダンパーでした。ハイブリッド車には過大トルクが原因でダンパ及びその他のユニット(変速部)が破損しないようリミッター付きダンパが取付けられています。これにより衝撃トルクを緩和するとともに指定のトルクを超えるとスリップして機械を保護するのですが、EXEDYのそれは小型・軽量なのだとか。

ブース内で最も大きい機械が、この扇風機のようなもの。これが小型の風力発電機というから驚きです。なにやら「脱炭素社会の実現に貢献すべく、トルクコンバータの流体解析技術とディフューザーによるレンズ効果がもたらす小型化、静音化、高発電量の風力発電機」なのだとか。
3つのSがテーマのコンセプトカー
旭化成



なにやら黒山の人だかり、といった感じの旭化成ブース。何があるのかと思いきや、見たことがない車が1台。カーデザイナー石丸竜平氏が率いるフォートマーレイがデザインを手掛けたコンセプトカーで、名前は『AKXY2』。Sustainability(持続可能なクルマづくり)、Satisfaction(クルマの満足度向上)、Society(社会とクルマのつながり)という3つのSがテーマだそうで、アルミペーストのシルバー塗装は乾燥が早くて製造時の環境にやさしいのだとか。

そしてどこかでお見掛けしたことがある女性の姿を発見。その名はみずきてぃこと小湊美月さん。TGR TEAM SARD 2022 KOBELCO GIRLS/2022 D'station フレッシュエンジェルズ/2022 SHIBATIREと3カテゴリーで活躍されているレースクイーンさんです。「こういう真面目な展示会も取材するんですね。まさかと思って、何度も名札を見ちゃいました」と笑顔で話しかけるみずきてぃ。ということでコッソリと写真をパチリ。金曜日が終わったらそのままSUPER GTの鈴鹿サーキットに行くというから、実に働き者です。
NCチタンを世界で初めて量産化
神戸製鋼

お次は神戸製鋼へ。ボディーなどに使われる鋼板を生産する同社ですが、そこで思わぬ物を見つけました。

それは水素燃料電池車の基幹部品であるFCスタック。この部品を使って水素から電気を取り出しています。神戸製鋼は燃料電池に求められる耐腐食性、表面伝導性を兼ね備えたNano-Carbon Composite cote チタン(NCチタン)を世界で初めて量産化に成功したメーカーなのだとか。この素材はTOYOTAの燃料電池車「MIRAI」に使われているのだそうです。
クルマの中のノイズから解放
京セラ

続いて京セラへ。スマホやセラミックで知られる同社ですが、車用にはいろいろな物を開発していました。その中の1つがレーザー光を使った電力伝送システムです。


車の中はノイズがいっぱいで、電圧が下がったりします。レーザー光で電力伝送すれば、そのノイズから解放されるというわけです。ここではカメラへの給電に使われていました。まだ試作段階で、20Wの電力を送って2Wしか出力できないという問題はあるのですが、ある程度の効率化の目途はたっているとのことでした。
高性能シミュレーターを公開
日本無線

個人的に会場で最も意外性を感じたのが日本無線(JRC)のブース。日本無線といえば日本を代表する業務用無線機メーカーで、空港気象ドップラーレーダーなどを作っています。また駅のデジタルサイネージも日本無線の機械だったりします。そんな同社が車用に作っているのが、なんとシミュレーター。


これがかなりの高精度なうえに、拡張性が高く、そしてインターフェースを公開しているのだとか。また車のほか、ドローン用のシミュレーターもあるそうです。
タイヤメーカーなのにタイヤがない!?
Continental

タイヤメーカーで知られるドイツのコンチネンタル。1904年、世界で初めて溝付きの車両用タイヤを生産した会社です。展示会ではタイヤをズラリ並べているのかと思いきや、タイヤは1つもなく。

あったのは何とFCV用の配管! コンチネンタルは現在ラバー事業、オートモーティブ事業、パワートレイン事業の3つの事業グループがあるそうで、ここではラバー事業以外を展示していたのだとか。他にも先進運転支援システムなども展示していました。
グラスファイバー国内トップシェア
日東紡

繊維メーカーである日東紡。特にガラス繊維の分野では、日本で初めてグラスファイバーの工業化に成功した企業で、国内トップシェアを誇ります。展示はもちろんグラスファイバーがメイン。


そんなグラスファイバーを使った製品のひとつがヘルメット。ARAIのヘルメットは日東紡のグラスファイバーからできているのか、と感心していたら、SUPER GTで活躍中の小暮選手のヘルメットが展示されているではありませんか。こういう使用例はわかりやすくてイイと思います。
バイクのクラッチで有名だが……
F.C.C.

日本のクラッチメーカーであるF.C.C.。特に2輪では世界首位の会社で、日本の四大メーカーのバイクのクラッチは、すべてF.C.C.製といってもよいほどです。ですのでバイクのクラッチが並んでいるのかと思いきや……。

セラミックス材料充填ペーパーなるものを展示。どうやら紙のように扱えて、焼けば硬くなるという素材のようです。

そして電動スクーター用のモーターとCVTも開発しているとのこと。これが実にコンパクト。バイクは2035年までに電動化が求められていますが、EVモデルは車と比べて少ない印象でしたが、ここまでできていたら、あとはバッテリーが小型化できれば……。
スパークプラグではなく固体電池
NGK

スパークプラグで知られるNGK。ガソリンエンジン車がなくなってしまったらどうなるのだろう? とブースを訪れたところ、思わぬものを見つけました。

固体電池です。同社の酸化物系固体電池は100度で使用可能なほか、不燃で安全とのこと。また大型化が容易なのだそうです。環境面でも硫化物フリーなので、流化水素の発生懸念がないそうです。
空飛ぶクルマの時代が来る!?
DENSO

自動車部品の大手であるDENSO。入場規制も手伝って、ブースに入るのが困難なほどの活況でした。そこで見つけたのは……。

空飛ぶクルマ用電動推進ユニットなるモーター! 近未来映画のようにクルマが空を飛ぶ時代を予感させるものです。何やら小型・軽量化が課題なのだとか。図によると垂直離着陸機(VTOL)のような回転翼機のような、ドローンのような形状を想定しているようでした。
音響ではなくデータロガー
TEAC

1953年に東京テレビ音響として創立。高級オーディオやプロ用DAWなどの分野で知られているTEACが、クルマ業界の展示会に何を出展されているのかと訪れてみました。

TEACブースで展示されていたのは、自動車開発用のデータロガーやデータレコーダー。振動などのほか、脳波や心電も計測できるそうです。このような機械を使ってクルマは作られるのですね。
普段はなかなか知ることのない企業を知るのも、専門展示会の面白いところです。自動車にか欠かせない企業がこれほど多いのかと驚くとともに、その技術力にも感心しました。
革に穴を開ける縫製器具
タジマ工業

自動車のシート等の縫製器具を製造するタジマ工業では、縫製器具の展示をしていました。縫製器具は普段見ることはないので興味津々で見てみると……。


どうやら革に穴をあける機械の様子。精密工業でいうとこのNC加工のように穴あけをしていくのですが、穴の密度ではなく大きさで表現していることに驚き。ちなみにお値段は1000万円位とのことでした。
ヘッドライトでメジャーな
小糸製作所

ヘッドライトで知られる小糸製作所はLEDヘッドランプを訴求。なかでもハイビームを訴求していました。

近年のハイビームは対向車や人を検知するとロービームに切り替わるものが多いのですが、その切り替わりは結構唐突だったりします。ですが小糸製作所は滑らかに切り替わるものを開発。しかも使っているLEDの個数は同じだそうで、その制御方法にコツがありそう。詳しいことは教えてもらえませんでしたが、小さな障害物を横切らせると、実に滑らかにその部分だけロービームになるからスゴイ!
セルフクリンチングファスナー技術
PEM(PCCディストリビューション・ジャパン)

PEM(ペン・エンジニアリング&マニファクチャリング)は、自動車にはかかせないネジやボルトを作っている会社です。

ボルト止めしたうえに上からパンチすることで、より締結力を高めるというセルフクリンチングファスナーという技術がウリです。なにやら欧州車にも使われているそうです。ちなみにPCにも使われているんですよ。ということで、係員の方に手で持っていただき写真をパチリ。

係員の方のお顔を見たら、なんとミスFLASH2019グランプリを獲得、今年もサーキットの華として活躍しているアメージング・ビーナスこと沙倉しずかさんではありませんか! 展示会が終わったら、そのままSUPER GTのため鈴鹿へ行くのだとか。実に働き者さんです。
ということで、人とクルマが結ぶ縁も感じながら、展示会を後にしました。7月には名古屋でも開催される予定とのことですので、ぜひ足を運んでみてはいかがでしょうか。面白い発見がありますよ。
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