この5月から大ヒット上映中の「トップガン・マーヴェリック」。その劇中でトム・クルーズは再びカワサキのバイクに乗車しているのは、映画を観た方ならご存知のとおり。
トップガン・マーベリックロングラン記念
トム・クルーズ気分を味わえる「Ninja H2」
映画トップガン・マーヴェリックは、トム・クルーズを一躍スターダムに押し上げた1986年公開の世界的ヒット作「トップガン」の続編。劇中ではマクドネル・ダグラス社(現ボーイング社)の戦闘機F/A-18E/F「スーパーホーネット」によるスカイアクションとともに、これまた地上の戦闘機といえるカワサキの「Ninja H2 CARBON」で疾走するマーベリック大尉(トム・クルーズ)の姿が、画面いっぱいに映し出されます。映画やドラマに感化されやすい人間的に、「Ninja H2に乗ればトム・クルーズ気分を味わえる!」と思ったわけです。

Ninja H2 CARBONとは、どのようなバイクだったのかを、簡単にご紹介しましょう。Ninja H2 CARBONは、最強の走りを追求するというコンセプトのもと、川崎重工のガスタービン・機械カンパニー、航空宇宙カンパニー、技術開発本部との協働により設計された、いわば川崎重工グループの総力を結集した1台。なかでも特筆すべきはエンジンで、998cc水冷4ストローク直列4気筒DOHCスーパーチャージャー付き! バイクで過給ユニットを搭載していること自体に驚きなのですが、これが自社開発というからすごい。
さらに興味深いことにインタークーラーの変わりに、ラムエアインテークと大容量のアルミ製インテークチャンバーで吸気温度をコントロールしているところ。こうして得られた最高出力はなんと231PS(ラムエア加圧で242PS)!

エンジンもすごければ他もすごく、カウルはカーボン、フレームはスポーツモデルに多いたアルミ製ツインスパーではなく、走行中の外乱からくる衝撃をしなやかに“いなし”減衰させるスチール製のトレリスフレームを採用。そのフレームの製造のために専用のロボット溶接機が導入したのだとか。結果、ついたプライスは363万円! カワサキのフラグシップにしてトム・クルーズが乗るにふさわしい1台なのです。
「劇中はNinja H2 CARBONなのに、この記事で取り上げるのはNinja H2 SX SEとはいかに?」と思われることでしょう。当方としてはNinja H2 CARBONをお借りしたかったのは言うまでもありません。



前置きが長くなりましたが、今回お借りした2022年モデルのNinja H2 SX SEに話を移しましょう。Ninja H2 SXとNinja H2 SX SEは、ハイパーツアラーという位置づけの1台。スーパーチャージャー付き998cc水冷4ストローク直列4気筒DOHCエンジンを搭載。スーパーチャージャーは搭載しているものの、H2 CARBONとは異なり、こちらの最高出力は200馬力。というのも、H2 CARBONはパフォーマンス優先のパワー型スーパーチャージドエンジン、H2 SX SEは扱いやすさと燃費向上の両立を目指したバランス型スーパーチャージドエンジンと、仕様が異なるのです。具体的には過給ユニット、シリンダー、カムシャフト、吸排気系に至るまで多くの部分に専用パーツが用いられているのだそうです。想像するに「パワー型スーパーチャージドエンジンはユーロ4に対応できなかったが、バランス型は対応できた」というわけです。

フレームは基本的に従来を踏襲。外装はカーボンではなく樹脂製とすることで、お値段はぐっとリーズナブルに。


新型で最も大きく進化したのが、ボッシュ製のARAS(アドバンスト・ライダー・アシスタンス・システム)を搭載したこと。これはクルマでいうところの運転支援みたいなものなのですが、その中に「アダプティブクルーズコントロール」が含まれているのが見逃せないところ。バイクのアダプティブクルーズコントロールはおそらくH2が初搭載の機能。バイクも運転支援の時代なのですね。
スマホ連携できるものの
ナビ入力がやや面倒

身長185cmの筆者がまたがってみると、相応に大きいけれど足はべったり。ツアラーらしくライディングポジションは緩やかなうえに、肉厚でクッションと相まって長距離クルーズモデルらしさ十分。

タンデムシートを外すとETC車載器が姿を現します。実質これ以外を入れることはできない雰囲気で、ドラレコの取り付けとかは難しいかも?


キーはバイクとしては珍しい(と思っているのですが)リモコンタイプ。車に乗る人ですと、キーを指しっぱなしにしてバイクから離れがちですので、これは便利。ちなみにヘルメットホルダーも同じキーで使うことができます。これもまた便利。

便利といえば12Vアクセサリーソケットを標準装備しているところ。どこにスマホを置くかは別として量販店で入手できるシガーソケットチャージャーを使えば、スマホの充電ができますし、ポータブル蓄電池も充電できるのは長距離ツーリングをしてキャンプをする方にはうれしいのでは?


メーターはフル液晶。昼と夜で色が変わるタイプになっています。表示は大きく視認性はかなり高い印象を受けました。





ASCII的に試さなければならないのは、スマホ連携。スマホに専用アプリをインストールしてBluetoothでペアリングすれば、バイク側からスマホ操作ができるようになります。ヘルメットにBluetoothヘッドセットを取り付ければ、通話のほかBGMを聞くこともできます。


そして、ナビも表示可能! Googleマップなどをそのまま表示できます。ですが、スマホで目的地を入力して、ルート表示できるかというと、そうではなく。なんと車両側から目的地を入力しないとルート表示ができません。この入力がタッチパネルではなく、ハンドルのリモコンキーからでないと受け付けないため、至極面倒。入力途中で心が折れてしまい諦めてしまいました。
長距離クルーズを得意とする運動性能

イグニッションを回すと、やや金属的なタービン音に混じった直列4気筒らしい排気音が響きます。攻撃的爆音かと思っていたので「意外と静かだな」と感じました。深夜や早朝にエンジンを回しても、ご近所から「うるさーい、なんてね火山が大噴火」にはならないでしょう。




ブレーキレバー、クラッチレバーは剛性感のある高級フィーリング。さすがブレンボ、操る楽しみがあります。左手のグリップ部は、かなりボタンが多い印象な上に、親指をかなり伸ばさないと押しにくいように感じました

スタンドは洗車時にチェーン洗いが便利なセンタースタンドもあるのがうれしい限り。クラッチを握りしめ左足でニュートラルから1速へ切り替えると、ガツンという強い衝撃に思わず身震い。過給機付いているから……、200馬力だから……と、思いながらクラッチレバーをリリースし、恐る恐る走り始めたのですが、アクセルワークに反応してガクガクすることなく、実にスムーズで実に扱いやすく拍子抜け。

金属的な音が混じる独特のエンジン音を聞きながら、2速、3速とシフトアップ。クイックシフターは、エンジン回転数が2500回転より上ならアップダウンできますし、シフトダウンもラクラク。スーパーチャージャーを搭載したからといって身構えていたのが馬鹿みたい。乗り心地も、実に快適。車体に重量があるので、ドシッとした安定感と足がよく動くという印象で、荒れた道も怖くなく。
3速3000回転で50km/h、そのまま6000回転まで上げると100km/hに上がるのは、リッターバイクでは普通の話。ですが、そこに至るまでの中間加速がとんでもなく、1秒もかからない! 感覚としては、ちょっとアクセルを回したらメーターは3桁に突入しているわけで、いつでもどこでもDangerZoneに突入できるといっても過言ではないほど。それゆえか、いく度となく白と黒のツートーンバイクがバックミラー越しにチラチラ見えるわけで、どうやらオフィシャルからも「速いバイク」と認識されている模様です。

取材日は記録的酷暑の昼間の都内。バイクの外気温計は40度、信号待ちでは水温計が98度、そして100度を指し示し「オーバーヒートするのでは?」とドキドキ。だけど、ニ-パッドは相応に熱いものの、エンジンの熱で蒸し風呂状態にはならないから不思議。ちなみに走り始めれば水温は簡単に10度近く下がるので、人間の体温的にも走り続けたいところ。




主にトラクションコントロールなどの制御が変わるモード切替は、SPORT、ROAD、RAINのほか、個別設定であるRIDERの4種類。魔がさしてSPORTにすると、それまで身を潜めていた過激さが姿を現します。といっても、回さなければフレンドリーなのですが。

クルーザーということで、バイクを一路高速道路へ。速度域は上がり6速2500回転で80km/h、3000回転で100km/hといったところ。抜群の安定感で怖さは皆無です。さらに安心なのはミラーに接近車両の警告が点灯するところ。バイクの場合、真横に近いところは見えづらいので、これは実にうれしい機能です。
ここでアダプティブクルーズコントロールをオン。使い方は自動車と一緒で迷うことはありません。ただ車間距離設定はできないようで、前走車との距離は約3秒で固定される模様。この3秒は都心部の高速道路としては、間隔をかなり開けて走っている状態で、横から車がガンガン入ってきます。ですが、横から入ってきたら速度を落として、間隔を維持しようとします。MT車でクルーズコントロールって、速度が落ちたらどうなるのかな? と思ったのですが、トルクが太いためか6速60km/hに落ちても、そこから加速設定速度まで加速していきます。シフトを落とす必要はありません。

さて、気になる燃費ですが、販売店の方によるとリッター18kmは行くとのこと。軽自動車並といえそうです。ですがストップ&ゴーを繰り返し、かつ速度域の低い都内では、20kmくらい走行して燃料計の目盛りが2個消えるなど、かなり悪めの印象。この事を販売店の方に伝えると「そうなんですよ。途端に悪くなるんです」と苦笑い。なるほど、長距離ツアラーに適しているバイクなのかと改めて思ったのでした。
【まとめ】トムにピッタリの高性能
きっとカワサキが好きになるカッコ良さ

さて、本題のトム・クルーズ気分が味わえたのか? というと、「さすがトムが乗るだけのことはあるバイク」という気分は楽しめました。後ろに金髪美女が乗るタンデムができたら、さらに最高だったのは言うまでもありませんが。
正直申し上げると、実はこのH2が私にとって初めてのカワサキのバイク体験。それまでカワサキの名は知っていても、触れるきかっけがありませんでした。「なんだ映画きっかけのミーハーじゃねーか」と思われることでしょう。でもいいじゃないですか。みんな最初は憧れて興味を抱くのですから。そして今は「カワサキ、いいかも!」と思っている次第です。
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