ヒュンダイが「ヒョンデ」と改称し
EVとFCVで日本再挑戦
ヒョンデが日本市場に帰ってきました。2009年12月の日本撤退から13年目となる今年、日本での乗用車販売を再開したのです。ヒョンデとは、Hyundaiのブランド名であり、かつては「ヒュンダイ」や「現代」と名乗っていました。
ちなみに、Hyundaiは韓国の自動車メーカーであり、年間の自動車販売台数は400~700万台クラス。上には、トヨタ、フォルクスワーゲン、ルノー・日産・三菱、GMなどがいて、その下でステランティスやフォードと世界5位を争うポジションです。ちなみにスズキやホンダといった日系の単独ブランドは、さらに下。日本市場に関しては、過去、撤退したようにうまくいきませんでしたが、世界市場では大成功を収める自動車メーカー、それがヒョンデです。

そのヒョンデが日本市場に再挑戦するにあたって用意したのは、EVである「アイオニック5(IONIQ 5)」と、FCV(燃料電池車)の「ネッソ(NEXO)」の2台。つまり、ガソリン車やハイブリッドではなく、クリーンエネルギー車を武器に戦おうというわけです。
現状、日本のEVやFCVの販売は、全体の1~2%に過ぎません。ただし、今後の拡大が期待されているのがEVです。パイは小さいけれど、将来的に大化けする可能性のあるEVやFCVで再挑戦するという姿勢は、非常にクレバーなものと言えるでしょう。
世界的に高い評価を得た「アイオニック5」
そんな「アイオニック5」は、どんなクルマなのでしょうか。端的に言えば「EV専用プラットフォームを使ったSUVのEV」です。

そして、この「アイオニック5」の評価が、海外では非常に高いということも特筆すべきことでしょう。2022年4月に発表された「ワールド・カー・オブ・ザ・イヤー」をはじめ、ドイツや英国での「カー・オブ・ザ・イヤー」など、数多くの栄冠を得ているのです。
大胆でモダン、印象的なデザイン
今回の試乗は、神奈川県横浜市港北区にできたヒョンデのカスタマーエクスペリエンスセンター横浜での車両ピックアップからスタートしました。ここはヒョンデのショールームであり、販売やメンテナンスを行なう拠点です。この夏にできたばかりということで、非常にモダンな雰囲気です。予約をすれば誰もが試乗できるようです。


そこで目にした「アイオニック5」。最初の印象は「大きいな」というものでした。もともと「アイオニック5」は、工業デザイナーのジョルジェット・ジウジアーロが手掛けた、1974年発表のヒョンデ「ポニーコンセプト」をオマージュしたデザインが魅力の1つとなります。シンプルかつ大胆な顔つきは、日本車にはあり得ない強い個性を感じます。
寸法は、全長4635×全幅1890×全高1645mm。日本車と比べれば、トヨタの「RAV4」よりちょっと大きくなります。ホイール&タイヤは、なんと20インチ! タイヤの銘柄はミシュランのパイロットスポーツで、最低地上高は160mmあります。20インチもの大きいなタイヤが、写真でクルマを小さく見せているのでしょう。

また、車内のデザインは、さらに個性的です。まず、床が前席も後席もフラット。明るい色目の内装色にガラスルーフも加わって、とても解放的で広々としています。クルマというよりも家具や家電のデザインに近く、モダンリビングと呼べるようなデザイン。日本車ともドイツ車、テスラとも異なる独自のテイストです。この居心地のよいインテリアも「アイオニック5」の大きな魅力でしょう。



ベーシックが後輪駆動で
トップモデルが4WD
「アイオニック5」のユニークな点は、パワートレインにもあります。それは、ベーシックな2WDは、後輪駆動であるということ。高性能版となる4WD仕様は前輪と後輪にモーターを積んでいますが、2WDはモーターが床下の後輪部分にしかありません。フロントのボンネットの中に収納スペースがあり、それが4WDよりも2WDの方が大きくなっています。ここに充電ケーブルなど、普段使わないものを収容するといいでしょう。


パワートレインの仕様としては2WDに2種、4WDがひとつ。2WDは58kWhの電池に最高出力125kW(170PS)、最大トルク350Nmの後輪駆動用モーターで航続距離498km(WLTCモード)という仕様がベーシックモデル。上位の2WDは、電池が72.6kWhと大きくなり、モーターも160kW(217PS)、最大トルク350Nmで航続距も618km(WLTCモード)と長くなっています。4WDは、電池が72.6kWhで2つのモーターの合計で最高出力225kW(305PS)、最大トルク605Nm、航続距離577km(WLTCモード)です。
つまり、2WDには電池が小さくパワーのないエントリーと、電池が大きくパワーも航続距離も大きい上位グレードを用意。4WDは、パワフルだけど航続距離はそこそこという設定となっています。
驚くほどダッシュが鋭く
シャープな動きを見せる
今回、試乗したのはトップモデルとなる4WDグレード。ボディー横には、サッカーワールドカップの大きなステッカーが貼られているのがご愛敬です。

最初はゆったりと、インテリアの雰囲気を楽しみながら街中を流します。
シフトレバーがコラム式で、しかもノブの先を回転させるというのが独自なポイントです。また、パドルシフトを操作すると回生ブレーキの強さを調整することができます。クルマの表示を見ていると、回生ブレーキを最強にすると常時4WDになり、弱くすると後輪駆動の2WDになっているようです。

ステージを街中から高速道路へ。すると、4WDモデルならではの605Nmもあるトルクの真価が発揮されます。加速が驚くほど鋭いのです。キーンと遠くでインバーターの音もあり、まるでジェット機が離陸するかのよう。さらにハンドリングも狙ったラインを外しません。非常にタイトに、まるでスポーツカーのような俊敏な動きを見せてくれたのです。ミシュランのパイロットスポーツを履くだけのスポーティさを備えています。

静かで穏やかな走りと、一瞬で他車をごぼう抜きする優れた加速力。これぞ、パワフルなモーターを積むEVならではの走りです。
デザイン、パワー、そして価格の手ごろ感が魅力
「アイオニック5」を試乗すれば、誰もが「デザインの良さ」「室内の快適さ」「パワフルな走り」があることが感じられるでしょう。「ワールド・カー・オブ・ザ・イヤー」などの世界の高い評価も理解できます。

しかし、「アイオニック5」の魅力は、ほかにもあります。それが価格です。2WDの電池の小さいエントリーで479万円。2WDの上級グレードで519~549万円。トップグレードの4WDでも589万円です。これが、絶妙な価格付けとなっているのです。
ライバルとなるEVの価格を見わたせば、コンパクトカー・クラスのEVは400万円台が中心。そして、トヨタの「bZ4x」とスバルの「ソルテラ」は600万円台。


製品としてのデキの良さと、手ごろな価格が揃った「アイオニック5」。いわゆるコスパの良い商品として、一定の人気を得る可能性が高いのではないでしょうか。
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筆者紹介:鈴木ケンイチ
1966年9月15日生まれ。茨城県出身。国学院大学卒。大学卒業後に一般誌/女性誌/PR誌/書籍を制作する編集プロダクションに勤務。28歳で独立。徐々に自動車関連のフィールドへ。2003年にJAF公式戦ワンメイクレース(マツダ・ロードスター・パーティレース)に参戦。新車紹介から人物取材、メカニカルなレポートまで幅広く対応。見えにくい、エンジニアリングやコンセプト、魅力などを“分かりやすく”“深く”説明することをモットーにする。
最近は新技術や環境関係に注目。年間3~4回の海外モーターショー取材を実施。毎月1回のSA/PAの食べ歩き取材を10年ほど継続中。日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員 自動車技術会会員 環境社会検定試験(ECO検定)。
