JR西日本とソフトバンクは、共同で実施していた「自動運転と隊列走行技術を用いたBRT(Bus Rapid Transit:バス高速輸送システム。以下、「自動運転・隊列走行BRT」)」の開発プロジェクトにおいて、専用テストコース(滋賀県野洲市)で実施していた実証実験を終了。

次のステップとして、11月より広島県東広島市で公道での実証実験を開始すると発表しました。それにあわせて、メディア向けの「自動運転・隊列走行BRT」の取材会が専用テストコースにて実施されました。


JR西日本とソフトバンク、自動運転レベル4のバスを公道で走ら...の画像はこちら >>
JR西日本とソフトバンクが共同で進める「自動運転・隊列走行BRT」。3台のバスによる隊列走行

 「自動運転・隊列走行BRT」とは、専用道を自動運転のバスで隊列走行させようというものです。隊列走行とは、いわゆるカルガモ走行で、先頭の車両に後続車がぴったりと自動で追従走行します。ほかのクルマのいない専用道を使うことで、安全で安定し、そして速いバス輸送を実現。さらに自動運転技術なのでドライバー不足にも対応します。JR西日本とソフトバンクが2020年3月にプロジェクトを立ち上げ、滋賀県に作った専用テストコースで2021年10月より実証実験を行なっていましたが、無事に次のステップへと進むというわけです。この先、JR西日本とソフトバンクは、2020年代半ばの自動運転レベル4の許認可取得と社会実装を目標にしています。


◆自動運転レベル3を先頭に、レベル4が続いて専用道を走行する

 「自動運転・隊列走行BRT」の技術的な特徴は、連節バス、大型バス、小型バスという3種類の異なる車種のバスを使うところにあります。これにより、需要に応じた柔軟な輸送力を確保することができます。


 そして、自動運転を行なうために、バスには多数のセンサー(LiDARセンサー、カメラ、ミリ波センサー、磁気センサー/RFIDセンサー、RTK-GNSSアンテナ)と自動運転用のコンピューターを搭載。また、隊列走行用の車々間通信のための通信機器、そして遠隔からの運行管理や監視のための通信端末(5G SA)が搭載されています。


JR西日本とソフトバンク、自動運転レベル4のバスを公道で走らせる!
自動運転
西日本旅客鉄道株式会社(JR西日本)の代表取締役副社長兼執行役員鉄道本部長である中村佳二郎氏(左)と、ソフトバンク株式会社 代表取締役社長執行役員兼CEOの宮川潤一氏(右)
JR西日本とソフトバンク、自動運転レベル4のバスを公道で走らせる!
自動運転
「自動運転・隊列走行BRT」の実証実験が行なわれた滋賀県野洲市にある専用テストコース

 隊列走行の自動運転に関しては、先頭車両がドライバー乗車の自動運転レベル3、追従する後続車はレベル4となります。レベル3は運転手がいて、問題があれば運転を代わるというもの。そしてレベル4は、運転手は何も操作をしなくてもかまわないという内容です。


 自動運転のための自車位置の測定は、GNSS(衛星測位システム)とソフトバンクが独自に設置した基準点(全国約3300ヵ所)を利用したRTK-GNSS技術、さらには路面に設置した磁気マーカーの読み込み等を併用。これにより、走行中で平均20cm前後、停止位置で数cm前後という非常に高い精度の位置情報を実現します。車々間の通信は、クラウド経由のV2NV2、ミリ波通信、光無線通信という3種の通信方式が搭載されており、冗長化が図られています。


 路面から強い反射波が発生するミリ波通信に関しては、2本のアンテナで受信を安定化させるアンテナダイバーシティ技術も採用されています。さらに信号機や踏切との連携、遠隔地からの運行管理・監視・指令も専用テストコースでの実証実験のメニューとなっています。


JR西日本とソフトバンク、自動運転レベル4のバスを公道で走らせる!
自動運転
「自動運転・隊列走行BRT」に使われた連節バス。いすゞの大型バスで、主に自動運転レベル3で隊列走行の先頭走行を担っていた
JR西日本とソフトバンク、自動運転レベル4のバスを公道で走らせる!
自動運転
「自動運転・隊列走行BRT」に使われた大型バス。フロント部に光通信用の送信機器(緑色の部分)、フロントとルーフ部にLiDAR、フロント部にミリ波レーダー、ルーフの四隅にカメラ、ルーフにアンテナが見える

◆縁石ギリギリに停まったバスに乗り込む

 野洲に作られた専用テストコースは、全長約1.1kmで、直線の長い楕円形。2ヵ所あるコーナーは非常にきつく、全長の長い連節バスには厳しい環境です。2つある直線部には、それぞれ停留所を模した場所があり、片側には分岐路と縁石も用意されています。

また、踏切を模した遮断機と、交差点を模した信号も用意されていました。


JR西日本とソフトバンク、自動運転レベル4のバスを公道で走らせる!
自動運転
「自動運転・隊列走行BRT」に使われた小型バス。バスのサイズは小さいけれど、大型バスと同様のセンサー類、通信機器が搭載されている
JR西日本とソフトバンク、自動運転レベル4のバスを公道で走らせる!
自動運転
路面の黒い小さな丸が磁気マーカー。数mおきに走行レーンに埋め込まれていた。写真は停留所側(左)と走行レーン(中央)の2つの走行レーンに埋め込まれた磁気マーカー
JR西日本とソフトバンク、自動運転レベル4のバスを公道で走らせる!
自動運転
地面に埋め込まれた磁気マーカー。バスの床下に磁気センサーを読み取る機器が備わっている

 最初は、隊列走行するバスを外から見学します。バス同士の間隔は、走行中は15m(±5m)ほどで、停止中は4mほど。3台のバスには、それぞれドライバーが乗っていますが、運転操作は一切しません。ただし、外から見ている限りは、ドライバーが操作する普通のバスと違いはわかりません。ところが、縁石に寄せて停まったバスは、本当に縁石ギリギリ。これには驚きました。毎回必ずこの精度で停まれるのであれば、人間の運転手よりも運転がうまいかもしれません。


JR西日本とソフトバンク、自動運転レベル4のバスを公道で走らせる!
自動運転
自動運転にて停車したバス。自己位置精度が非常に高いため、縁石ギリギリに停めることができる

 車内に乗り込んでみると、発進・停止だけでなく、コーナーでもドライバーは何も操作していません。きついコーナーでは、先行するバスが後続バスの正面からズレてしまいます。これは、光信号が直進する光無線通信にとっては大問題。そこで採用されたのが、送受信部を左右に振る、光無線通信機のトラッキング制御です。コーナーで確認すると、前走車のバスの後ろにある光通信用の送信機は、しっかりと後続のバスの方向を向いています。


JR西日本とソフトバンク、自動運転レベル4のバスを公道で走らせる!
自動運転
自動運転レベル4で先行車を追従するバス。ドライバーは、運転操作をせずに監視している
JR西日本とソフトバンク、自動運転レベル4のバスを公道で走らせる!
自動運転
自動運転レベル4で走行するバス。車内には、LiDARによる周囲のセンシング状況を示すディスプレイが用意されていた

 また、急なコーナーに入るとバスは速度を落としますが、3台の隊列走行は1つの長い列車と同じ扱いとなるため、最後尾のバスがコーナーを出るまで先頭のバスは直線路に入っても加速を控えています。最後尾のバスが直進路に入ったところで、3台がほぼ同時に加速をしていました。


JR西日本とソフトバンク、自動運転レベル4のバスを公道で走らせる!
自動運転
きついコーナーを曲がる連節バス。追従する大型バスより撮影。
この運転操作も自動で行なわれている

 停留所に停車すると、バスの室内にドライバーの案内が響きます。3台ある先頭車両のドライバーが、3台分のドアの開閉をするのです。乗客の乗り降りを確認してのドアの開閉は、自動化が難しい部分。一刻も早い実用化を考えれば、開閉をドライバーに任せるのは、妥当な判断と言えるでしょう。


◆「普通のバスと同じ」という感想こそ目指していたもの

 先頭車両と追従する後続の車両にも乗車しました。操作こそしませんが、どの車両にもドライバーがいましたし、ギクシャクした動きもありません。信号や踏切の協調制御も、乗って入れば、乗員的にも何も違和感はありません。そのため、乗った感想は「ごく普通のバスの運行と変わらないなあ」というものでした。ある意味「普通のバスと同じ」を目指して技術を磨いてきたのですから、当然のこととも言えるでしょう。


JR西日本とソフトバンク、自動運転レベル4のバスを公道で走らせる!
自動運転
先行するバスの後部には、光無線通信用の機器(緑色の部分)が備わっており、後続車を見失わないように、センサー部が後続車側に向いている

 次なるステップとなる、11月からの東広島市での公道での実証実験でも、違和感を見つけ出して、それを解消してゆき、最終的に「普通のバスと同じ」を目指すことになります。JR西日本とソフトバンクでは、2020年代半ばの社会実装と言っていますから、具体的には2024~26年がターゲットです。つまり、残された時間は2年ほど。

それほど先の未来というわけではありません。


JR西日本とソフトバンク、自動運転レベル4のバスを公道で走らせる!
自動運転
「自動運転・隊列走行BRT」を行った3台のバス

 自動運転技術の実用化は、強く社会から求められているもの。ただし、その歩みはそれほど早いものではありません。今回のプロジェクトも、スタートからすでに3年が過ぎており、しかも道半ばという状態。しかし、記者会見の場で、JR西日本とソフトバンクは「階段を上るように、少しずつやっていきたい」との旨を語っていました。ゆっくりではあるけれど、一歩ずつ確実に技術検証をして、前進している。そんなことを実感できる取材会となりました。


■関連サイト


編集部おすすめ