バイクに乗りたいけど、久しく乗ってない。まだ初心者なので、もう少し上達したい。
◆バイク初心者が陥りがちの恐怖心を克服する
今春に行なわれた那須川天心選手のプロボクシングデビュー戦で、ラウンドガールを勤めてからメディアの注目を集める唯さん。一時、インタビューを受けるたびに「バイクの免許をお持ちなんですね」という話から「バイクは何に乗っていらっしゃるんですか」といった質問が投げかけられるのだとか。


ですが、実は彼女はバイクを所有していません。バイクに乗るのは現状ASCII.jpの取材時だけのようで、昔の少年漫画誌風に語るなら「唯さんのバイク乗車姿が載っているのはASCII.jpだけ!」。そんな貴重なバイクを運転する機会、つまりバイク取材は最近お休みがち。というのも、昨年夏以降、彼女は左足首を曲げると痛いと訴えはじめたから。大事が起きたら大変ですので、一旦中断することに。
その後、バイク取材は復活することなく時間が経ってしまいましたが、子供の頃は父親が運転するバイクにタンデムしていたことから「バイクは後ろに乗る乗り物です!」と力説したり、教習所でも「指導員の後ろに乗っての一本橋は楽しかった」と言うあたり、バイクそのものがキライなわけではないようです。
現在、バイク乗車を避けようとするのは恐怖心ゆえのこと。「だって立ちゴケが怖いし、修理代がかかるじゃないですか」。この恐怖心は、初心者やリターンライダーの誰もが抱くものでしょう。
そこで今回は、交通教育センターもてぎが行なっている「バイクのスクール」の門を叩くことになりました。
◆Hondaは企業の責任として交通安全講習を実施する

交通教育センターとは、参加体験型の実践教育をするHondaの安全運転教育施設。全国に7ヵ所あり、交通教育センターもてぎは、サーキットが開業した1997年から営業しています。唯さんが普通自動二輪免許を取得した「レインボーモータースクール和光」も、Hondaの1施設になります。
なんでバイクやクルマを売るHondaが交通教育センターをやっているの? というと、話は50年以上前の1960年代にまでさかのぼります。当時、交通事故死者数は年間1万人を超え「交通戦争」の言葉が生まれた時代。「交通機関を扱っている企業としてどうあるべきか、バイクを、クルマをつくり、売るだけでよいのか」と、創業者の本田宗一郎氏をはじめ社内ではパーソナルモビリティを世の中に提供するメーカーの果たすべき役割を真剣に考えたそうです。
そして、安全運転教育というソフトウェアを通じて、交通事故死者の増加に歯止めをかける必要性を感じ、安全運転講習所をHondaが所有する鈴鹿サーキット内に併設しました。
時を同じくして、警察では白バイ隊員に対して運転教育を行なう「白バイ訓練」がスタート。そんなある日、中部管区の白バイ隊長が鈴鹿サーキットの安全運転講習所(現:鈴鹿サーキット交通教育センター)に「どうしたら白バイ隊の殉職事故を防げるのか」という相談したところ、1964年10月から同施設で白バイ・パトカー運転技術の訓練が始まり、殉職者が0に。
その後、1970年に本田技研工業内に安全運転普及本部が発足し、全国に交通教育センターを設置。
と書くと、堅苦しいように見えますが、同施設では「楽しく体験する」に力を入れているようです。教習所では行なわない実践的な経験をすることで、運転技術を身に着ける施設なのです。
◆ペーパーライダーだからこそ受講する意味がある
「今回の企画の話を聞いてから、ホントに寝れないくらいに心配でした」と唯さん。さらに教習所と同じ服装の指導員の姿を見て「教習所で上手く乗れなかった思い出が蘇りました」と、テンションは下がり気味です。

バイクのスクールには、色々なメニューが用意されています。今回はベーシックコースを受講していただきました。同施設メニューには、「モビリティリゾートもてぎ」の二輪モータースポーツの最高峰「MotoGP」も開催されるレーシングコースを走行するものや、敷地内の林道を走行するものまで様々。
「サーキットを走ってみたいけれど、ちょっと怖そう」とか「オフロードやってみたいけれどバイクがない」という方にもピッタリです! 金額はコースにより異なりますので、交通教育センターもてぎのウェブサイトをご覧ください(公式サイト。
唯さんが今回受講するのはベーシックコース。街中での運転が苦手な人向けのプログラムで、安全で安定した走行やバランス感覚の練習をするというもの。基本朝10時からスタートし、約1時間のお昼休みを挟んで夕方4時までみっちり。気になるお値段は1万3000円で、申し込みはウェブサイトから行ないます。
「教習所だって1日2コマまでですよ!」と唯さん。なお、指導する内容は、本人の習熟度などにより多少変わるようで、今回は唯さんに合わせたものになっています。またすべてをお伝えすると、何字あっても足りないので、ここでは講習の一部をかいつまんでお伝えすることをあらかじめ申し上げます。


バイクは貸出をしてくれます。というのも、自分のバイクが転倒して、灯火器及び反射器、指示装置が壊れてしまったら、帰ることができないから……。家に帰るまでが「バイクのスクール」です。
貸してもらえるバイクは色々あるのですが、今回は「CB400 SF」。ちなみに、排気量が250ccの軽いバイクもあるようです。このCB400 SF、教習車としても使われているバイクで、苦楽をともにしたこともあってか、姿を見るやいなや教習所時代が蘇ったようです。特に引き起こし時にみせた青ざめた顔は、いまだ覚えています……。


バイクは教習所の仕様とは異なり、ギアポジションランプのない市販車そのもの。転倒時に備えてのガードは用意されていますが、それとて教習車よりも小さいものになっています。
◆バイクの基礎からもう一度学ぶ
まずインストラクターから、点検や乗車姿勢についてのレクチャーを受けます。この時、バイク押し引きのポイントを教えて下さいました。その内容は「バイクは垂直の状態が一番軽く感じると思います。その時が、一番押し引きがしやすいはずです。腕力がなかったり、慣れていないとバイクが自分側に傾きます。斜めになってしまうから重く感じるんです」と、わかりやすくアドバイス。この教え方、すごくわかりやすい! 唯さんも納得の表情です。

まずは低速時の立ちゴケ恐怖を払拭すべく、半クラッチを使っての発進停止。つま先立ちのよちよち歩きで、バイクをコントロールします。続いてバイクに慣れるためのウォームアップ走行を開始。これは教習所と同じです。すでに教習所とは異なるところは多々あるのですが、ここから先は、さらに異なります。




立ちゴケを防止すべく、低速でのバイクコントロールから。その場所に行くと、見たことがない形の一本橋が無数にあり「まさか、これをやるのか?」と思う筆者。唯さんも筆者も一本橋は苦手で、身をこわばらせます。ちなみに複雑な一本橋はやりませんが、一般的な30cm幅のほか、20cm幅の一本橋は走行する模様。教習所のように走行時に制限時間はないようですが、余裕があれば計測されているとのこと。唯さんは停止状態から徐行してのUターンを繰り返し、バランス能力を養います。



続いてブレーキング。教習所でいうところの「急制動」です。教習所では40km/hまで加速し、8m(ドライ路面の場合。ウェット路面で14m)で停止しましたが、ここでは50km/hにアップ! その代わり制動距離は25mに伸びます。その後60km/hで停止距離を23~27mを目標として挑戦します。
教習所の場合、スペースの都合から道幅は狭く、壁に向かって走る場合が多いので、度胸試しみたいなところもあるのですが、交通教育センターもてぎは、道幅が広く、そしてパイロンから60m先も道はあるので安心です。


次に加速→減速→コーナーリング→加速を繰り返すJターン走行。侵入速度は60~70km/h、その後、40km/h程度で旋回します。教習所よりもはるかに速い速度ですし、そもそも一般道でそのような速度を出したことがない彼女。おっかなびっくりで走り続けます。この時に目線であったり姿勢などを教えてくれます。約1時間みっちり走行しました。

最後に八の字旋回をして終了。終わった頃は、唯さんは汗だくのヘロヘロ。インストラクターから「左折は上手ですが、右折はもう少しですね。左折に自信がつけば、右折もキレイに曲がれるようになれますよ」とのお話をうかがいました。そして「一般道の交差点などは練習に最適ですので、左折に自信をつけていただければいいと思います。そこから右折の自信につながると思います。自信をもってバイクに乗りましょう!」とのことでした。

メニューとしては、ブレーキ、Jターン、バランスの3つ。「思ったより少ない」という印象を受けるかもしれません。ですが、各項目を1時間近く行なうほか、オリエンテーションや、走行前準備に点検、姿勢、ウォームアップ走行、お片付けに、最後のまとめがあるので、スクールは5時間近い(ほぼ1日がかり)になるのです。

こうして講習を受けた唯さんは「楽しかった! お話がすごくわかりやすかったです」と満面の笑み。最初はかなり暗い顔でしたが、終わってみたら受けてよかったと、にこやか。今回は取材時間の都合でショートバージョンでしたが、少し自信をつけた様子。なにより、再びバイクに乗ってみようかな、という気持ちになったようです。

「じゃ、これからはバイク取材、やりますか! 鉄は熱いうちに打てといいますし」というスタッフ。取材したいバイクはいっぱいありますよ。「いや……もうちょっと涼しくなってから」と、唯さんはやんわりと取材の誘いを断ったのでありました。
では、もう少し涼しくなってからやりましょう!

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モデル紹介――新 唯(あらた ゆい)

10月5日栃木県生まれ。ファッションモデルとしての活動のほか、マルチタレントを目指し演技を勉強中。また2022年はSUPER GTに参戦するModulo NAKAJIMA RACINGのレースクイーン「2022 Moduloスマイル」として、グリッドに華を添えた。