BYD車両の測定データを販売する、小野測器の安地隆浩執行役員(左)と大越祐史代表取締役社長

 電子計測器の製造および販売を手がける小野測器は、2023年6月より自動車の計測データの販売サービス「ベンチマーキングレポート」を行なっています。そして2023年8月に第2弾のデータ提供を開始しました。

自動車製造における、コスト削減と品質向上に役立つサービスとのことでお話を聞いてきました。


メーカーから依頼された様々な計測を担当

小野ビットこと小野測器が手がけるEVのベンチマークテストでBYDを丸裸に!
小野測器
小野測器 横浜テクニカルセンター

 小野測器は1954年1月に創業した振動や音、速度など物理計測を得意とする会社で、自動車メーカーや関連企業に計測機器を納品したり、メーカーからの依頼された製品の計測サービスをする会社です。


小野ビットこと小野測器が手がけるEVのベンチマークテストでBYDを丸裸に!
小野測器
最初期の製品であるデジタル回転計UT-45
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小野測器
上から見た様子(天板をアクリル板に変更している)
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小野測器
真空管が用いられている

 最初はデジタルカウンターからスタート。この機械を用いて、新幹線の開発などに貢献したのだそうです。具体的には離線率という、電線とパンタグラフが離れるのをカウントしていました。このカウンターを用いて、長さ、位相差、単位時間を正確に計測することができるようになったとか。これは現在でも使われる同社の主要技術です。


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小野測器
本田技研工業からの感謝状

 自動車メーカーとの付き合いは、Hondaが1954年のマン島TTレース出場の頃にさかのぼります。その後、Honda F1第2期(1983年~1992年)の常勝時代を技術面でサポート。会社には感謝状が展示されていました。


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小野測器
一部の方からは「小野ビット」の名で知られる最高速度測定器
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小野測器
測定器
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小野測器
出力のプリンター

 計測器ですので一般の方の目に触れることはあまりないのですが、クルマ好きの中で知られるのは「ビデオマガジン」での最高速チャレンジでしょう。GPSが一般的ではない時代、路面や軌道上の小石・砂・アスファルトなど、様々な大きさの粒子やタイヤ跡による不規則な模様から、特定の反射ムラ (色ムラ、凹凸ムラなど) だけを抽出する、きわめて特殊なセンサーを用いて速度を計測する「空間フィルタ式速度検出器」を開発。ビデオマガジンやチューニング雑誌では「小野ビット」の名で、この機械が大活躍しました。


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小野測器
現在の測定器
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小野測器
マイクが米粒程度しかない!

 ほかにも音の周波数特性や音圧レベルを計測するのも得意とするところ。周波数分解能を細かくしたFFT分析を日本で初めて実用化したのは同社なのだとか。現在は米粒のような小さなマイクを使い、同時に収録、分析することができるようになっています。


小野ビットこと小野測器が手がけるEVのベンチマークテストでBYDを丸裸に!
小野測器
過去の自動車計測機器
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小野測器
エレベーター測定器
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小野測器
現行製品

 そんな小野測器の計測器は、自動車メーカーをはじめ、エレベーター設計など、「モノが動く」分野の設計ではなくてはならない存在に。研究や開発だけでなく、工場では製品テスターとして同社の機器が使われています。


自動車開発が複雑多岐になったため
小野測器のデータが必要に

 そんな小野精機が、どうして自動車の計測データ販売を始めることにしたのでしょうか? それは自動車開発が複雑・多岐にわたり1社対応の限界に近付きつつあるから、なのだそう。それはメーカー間での協業や提携のニュースからも想像に難しくない話です。


小野ビットこと小野測器が手がけるEVのベンチマークテストでBYDを丸裸に!
小野測器
測定の一部。車両をマイナス10度などの環境化において各種データを取る

 自動車メーカーはライバルメーカーの車両を購入し、様々な角度から分析し、自社製品開発に役立てています。ですが、一部分の計測のために車両購入をしたり、計測のためにエンジニアが何日も本来の設計作業ができない、高額な計測機器を占有するなど、金額と時間の面で弊害がありました。それゆえ小野測器が計測代行サービスを行なっているのですが、相応の金額がかかります。


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小野測器
車両を事細かに計測し、データ販売を行なうサービス

 そこで始まったのが、計測データを販売する「ベンチマーキングレポート」というわけです。小野測器が注目車種を選定、入手して動的性能を高精度に測定。

レポートを提供すれば国内自動車産業に貢献できる、というわけです。また、自ら計測することによって、今後の計測機器設計にも役立つというメリットもあるのだとか。


 気になる測定項目は出力、パワーユニット効率からはじまって、車内の騒音、走行抵抗、そして車内の冷暖房などの熱マネジメントに至る14項目。気になる価格は1項目あたり50万円で、詳細な計測レポートのほか、測定データも付属します。実はドキュメントより、このデータに価値があり、シミュレーションなどに役立つそうです。


BYDは日本仕様ではなく本国仕様で計測する

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小野測器
BYDのATTO3とSEAL
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ATTO3。輸出仕様ではなく本国仕様とのこと
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車内に取り付けたセンサーを引き出すケーブル
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SEAL
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各種センサーが車内に引き込まれていた
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運転席近くに計測機器を設置
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小野測器
ヘッドレストにもマウントが取り付けらていた
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小野測器
漢字で車種名が書かれていた

 現在はBYDの「ATTO3」と「SEAL」の2車種のデータをリリース。あくまでも輸入車を測定し、国産車の計測データ販売は行なわない方針だそうです。ここで注目は、計測したBYDのクルマはいずれも日本仕様ではなく、本国仕様のクルマである点。これはクルマがワールドワイドのマーケットであるため、それに合わせたデータが必要になるからです。


 ちなみに、BYDを選んだのは「メーカーエンジニアとしては気になるけれど、クルマを買ってまで測定するには……」という視点でチョイスしたのだとか。ほかにもテスラなどが候補に挙がったようですが「いまさら測っても……」と、発売年から除外したのだとか。


小野ビットこと小野測器が手がけるEVのベンチマークテストでBYDを丸裸に!
小野測器
販売するデータの一部
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小野測器
計測設備の模型

 おそろしいのは、その測定の内容。筆者が見ても何が何やら分からないのですが、本当に部品単位といってよいほど、細かな部分の特性を計測しているのです。その一例として、エアコン動作時における電力配分などを見たのですが、冬季に言われるほど電力は使われていないことがわかります。もちろん寒さによるバッテリーの効率などは変わるとは思いますが、クルマのエネルギーマネージメントを知るうえで重要なデータとなります。


小野ビットこと小野測器が手がけるEVのベンチマークテストでBYDを丸裸に!
小野測器
無響室の様子
小野ビットこと小野測器が手がけるEVのベンチマークテストでBYDを丸裸に!
小野測器
床面はピアノ線になっている

 当然、クルマを計測するため、その施設はかなり巨大。今回はそのうちのひとつ、音響測定用の無響室を見学しました。さすがにクルマ1台を入れることはできないのですが、それでも日本有数の広さを誇ります。ちなみに、1日18万円でお借りすることもできるそうです。ほかにも自動車や、電機用品材などの音響透過損失測定をする残響室なども用意されています。


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小野測器
挨拶をする小野測器の大越祐史 代表取締役社長
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小野測器
説明をする安地隆浩 執行役員

 自動車産業は100年に1度の大改革の真っただ中。その中で、日本の自動車業界は挙党体制で世界に立ち向かおうとしています。小野測器の取り組みは、まさに日本自動車業界の屋台骨を支える重要な取り組みといえるでしょう。


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