ダイハツの「シグラ」を段ボールで作り上げた。環境に優しいリサイクル素材を使うことをアピールするために作られたモデルだ

 コンセプトカーより実車が人気! ステージの裏に銀行出張所のある商談スペースがある。

知ってるメーカーなのに、知らないクルマばかり。驚きのインドネシアモーターショーの様子をレポートします。


大きく、若くて元気いっぱいで
日本車が大好きなインドネシア

 7月18~28日にかけて、インドネシアのジャカルタで開催された「GIIAS 204」を取材してきました。「GIIAS」とは「GAIKINDO INDONESIA INTERNATIONAL AUTO SHOW」の略で、言ってみれば、日本の「JMS2023」(ジャパンモビリティーショー)と同様の現地自動車工業会が主催する、インドネシアのモーターショーです。


インドネシアのモーターショーは日本車ばかりなのに日本メーカーは知らないクルマばかり! でもこれがアツかった!
インドネシア
インドネシアのモーターショー「GIIAS 2024」の会場となったのが、ジャカルタ市街の西南部にあるインドネシアコンベンションセンター(ICE)BSD Cityだ

 インドネシアは人口が約2.7億人、平均年齢は29歳で、年間所得が全国平均で40万円ほど、都市部では70万円ほどと高まります。まだまだ貧しいとはいえ、コロナ前の2010年代後半は、実質経済成長5%台をキープ。たくさんの若い人がいて、元気いっぱいに成長しているという国と言えるでしょう。


インドネシアのモーターショーは日本車ばかりなのに日本メーカーは知らないクルマばかり! でもこれがアツかった!
インドネシア
会場は、2つの細長いホールが、中央のコンベンションホールに接続する形だ。上から見たときに「く」の逆のような恰好をしている。規模は「JMS2023」に近いものがある

 そんなインドネシアは、日本車が大人気です。JETRO(日本貿易振興機構)のデータによると、2022年のインドネシアの約105万台の国内販売のうち、約94%が日系ブランドでした。人気はトヨタ(シェア31.6%)、ダイハツ(19.3%)、ホンダ(12.5%)、三菱自動車(9.5%)、スズキ(8.6%)、三菱ふそう(3.6%)、いすゞ(3.5%)と続き、8番目にようやく韓国の現代自動車(3.0%)が顔を出します。上位のほとんどを日本ブランドが占めているのです。


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インドネシア
プレス申請をしていたが、運営本部のサーバーがクラッシュ。プレスパスの発行がギリギリになったけれど、ケガも病気も盗難もなく無事に取材を済ますことができた。インドネシアの伝統の衣料・バティックを着用する人が多いのも特徴だ

 日系自動車メーカーのビジネスは世界市場が主戦場です。インドネシアの市場規模は、現状日本の4分の1ほどですが、人口の多さと所得の伸びを考えれば、将来が非常に有望。自動車ビジネスを考えるうえで、決して見逃せない市場となります。


インドネシアでは3列シートのミニバンとSUVが大人気

 そのインドネシアで人気を集めているのがミニバンとSUVです。また、国民車構想として低価格・ローコストの「LCGC(ローコストグリーンカー)」と呼ばれるコンパクトカーも伸びています。


 面白いのは、日系ブランドが日本にはないインドネシア(&ASEAN)向けのミニバンとSUVを数多く用意していることでしょう。


 トヨタではミニバンに「キジャン・イノーバ・ゼニックス(Kijan Innova Zenix)」「キジャン・アバンザ(Kijang Innova)」「アバンザ(Avanza)」「ヴェロズ(Veloz)」「カリヤ(Calya)」を揃えます。ちなみに、ほかにもトヨタは「アルファード/ヴェルファイア」「ヴォクシー」も販売しています。ミニバンだけで8車種もあるのです。


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トヨタはGRとトヨタの2つのブランドを用意。「GRヤリス」「プリウス/プリウスPHEV」「ハイラックスサーフ・ランガ」を発表した。
ランガは「JMS2023」で発表された「IMV0」そのものだ
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トヨタのGRモデルの展示スペース。「ラッシュ」や「フォーチュナー」などのSUV、コンパクトカーの「アギア」など、日本では発売されていないモデルが数多くある

 SUVも日本の「RAV4」「ヤリスクロス」「カローラクロス」「ランドクルーザー」「ライズ」「bZ4X」に加え、「ラッシュ(Rush)」「フォーチュナー(Fortuner)」があります。ほかにも「ヴィオス(Vios)」という日本にないセダンも販売されているのです。


 同じようにダイハツでも日本にはない、「セニア(Xenia)」「シグラ(Sigra)」「テリオス(Terios)」というミニバン、「シリオン(Sirion)」「アイラ(Ayla)」というコンパクトカーを販売しています。


インドネシアのモーターショーは日本車ばかりなのに日本メーカーは知らないクルマばかり! でもこれがアツかった!
インドネシア
ダイハツがインドネシアで生産するコンパクトミニバンの「セニア」。トヨタにもOEM供給しており、そちらでは「アバンザ」と名乗る。1~1.5リッターモデルで、タクシーにも使われている

 ホンダで日本にないのは「BR-V N7X」「モビリオ(Mobilio)」という7人乗車のミニバン、「WR-V」(日本と同じ名前で、内容が違う)のSUVに、「ブリオ(Brio)」「シティ(City)」というコンパクトカーとなります。


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ホンダの展示スペースに並ぶ、日本で販売されていないモデルたち。ハッチバックの「シティ」に「ブリオ」。走りに振った「RS」グレードが、それぞれに用意されている

 三菱自動車は「エクスパンダー(Xpander)」というミニバンと、「エクスフォース(XFORCE)」「パジェロスポーツ(Pajero Sport)」のSUVが日本にはないラインナップです。


 最後にスズキは「エルティガ(ERTIGA)」「XL7」というミニバンと、「GRAND VITARA」「S-PRESO」のSUV、「バレーノ(BALENO)」の最新モデルが日本にないモデルです。「ジムニー5ドア」もインドネシアでは販売されています。


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インドネシア
スズキのブースの真ん中に提示されていたのはEVコンセプトの「eVX」。スズキの量産EVの世界戦略車の第1弾となるモデルだ。2023年1月のインドのショーで初披露されている

ショーで発表されたのは電動車とミニバン

 日本車ばかりだけど、知らないクルマ&ミニバン&SUVばかりというのがインドネシアです。そんな地のモーターショーで発表されたのが以下のモデルでした。


 トヨタは最新の「GRヤリス」と「プリウス/プリウスPHEV」、そしてピックアップトラックの「ハイラックス・ランガ(Hilux Rangga)」の3台です。注目度が高いのは、ハイパフォーマンスの「GRヤリス」と商用車の「ハイラックス・ランガ」ですが、イベントでの説明の多くは電動化に費やされていました。FCVの「ミライ」のカットモデルの展示などもあり、トヨタとしては電動化の未来を提案していたのです。


 ダイハツの発表は「ロッキーハイブリッド」。1.2リッターのハイブリッドで、日本で発売済みのものがインドネシアにも導入されることになるようです。


インドネシアのモーターショーは日本車ばかりなのに日本メーカーは知らないクルマばかり! でもこれがアツかった!
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ダイハツが発表した「ロッキー」のハイブリッドモデル。コンパニオンの手のポーズは「We Care(私たちは気にかけています)」という顧客向けのキャッチコピーだ

 ホンダの発表は、ハイブリッドの「ステップワゴンe:HEV」とBEVの「e:N1」でした。展示スペースの一番に目立つところに置かれたのは、昨年の「JMS2023」でお披露目された「サスティナC」。リサイクル素材を使った外装は、日本での赤の展示とは異なり、白いものに替わっていました。


インドネシアのモーターショーは日本車ばかりなのに日本メーカーは知らないクルマばかり! でもこれがアツかった!
インドネシア
ホンダが発表した電気自動車の「e-N1」。中国で、すでに発売されている「e:N」シリーズが、インドネシアにも導入されることになった
インドネシアのモーターショーは日本車ばかりなのに日本メーカーは知らないクルマばかり! でもこれがアツかった!
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ホンダのコンセプトカーである「サスティナC」と「ポケットコンセプト」。2023年の「JMS2023」では再生樹脂部が赤かったが、今回は白くなったものが展示されていた

 三菱自動車の発表は新型「トライトン」と新型「パジェロスポーツ」。ピックアップトラックと、3列シートのSUVという組み合わせになります。


インドネシアのモーターショーは日本車ばかりなのに日本メーカーは知らないクルマばかり! でもこれがアツかった!
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三菱自動車が発表したのは、左の新型「トライトン」と、右のSUV「パジェロスポーツ」だ。「パジェロスポーツ」は、3列シートの7人乗車で、ミニバン代わりにも利用可能
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三菱ふそうでは、BEVトラックとなる「eキャンター」を展示。あわせて、インドネシアで初の納車となる納車式を実施した。納車した相手は日系の企業であった

 日産は「セレナeパワー」と、コンセプトカー「ニッサンハイパーツアラー」。どちらもミニバンというのがインドネシアらしい特徴です。


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ニッサンのプレスカンファレンスの様子。展示車の横に立つコンパニオンがダンスパフォーマンスを披露。プレスカンファレンスの最中は、各自のSNSで動画配信をしていった

まだ売ってもいないのに中国ブランドの出展ラッシュ!

 今回のインドネシアモーターショーのキーワードは“電動化”でしょう。日系ブランドの多くがハイブリッドモデルを発表していました。

また、数多くの中国ブランドが電気自動車を全面に押し出して出展していました。名前を挙げれば、ウーリン、BYD、MG、チェリー、GWM、AION、JETOUR、NETA、DFSK。さらに韓国のKIAとベトナムのVINFASTも電気自動車を出品していたのです。


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中国ブランドのウーリンのブース。掲示に「EV NO.1 di Indonesia」とあるように、インドネシアにおいて、最も数多くのBEVを販売している。主力は写真の3つの小型EV
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BYDのプレスカンファレンスは、「U8」による超信地旋回(左右のタイヤを逆方向に回して、その場で1回転する)からスタート。現地販売は、ドルフィンとSEALが中心となる。3列シートのBEVの「M6」も販売を開始する

 ここでポイントとなるのは、これだけ数多くのEV系の中国ブランドが出展していますが、実際にインドネシアで、すでに販売されているのはウーリンとBYD、DFSK、そしてMGのみ。それもウーリンを除くと、100台以下という規模となります。まだ、本格的に売れていない、導入もされていない、というのに出展しているというわけです。おそるべきは、そのバイタリティーの強さなのか資金力なのか……。


インドネシアのモーターショーは日本車ばかりなのに日本メーカーは知らないクルマばかり! でもこれがアツかった!
インドネシア
中国ブランドであるGWMは、BEVのSUVを中心とした展示をしていた。
GWMは、グレートウォールモーターの略であり、漢字表示は、長城汽車となる。中国有数の大メーカーだ

 ちなみにジェトロの調べによると、インドネシアの自動車販売に占める電動車(BEVだけでなくハイブリッドも含む)の割合は、2022年で1.5%、2023年前半(1~8月)で5.7%にしかすぎません。しかも電動車のうちBEVの割合は2割ほどしかありません。大半がハイブリッドなのです。インドネシアのBEV市場の可能性を見出しての中国ブランドの出展ラッシュだとは思いますが、数年後はどうなるのか? 死屍累々となるのか、中国ブランド隆盛となるのかに注目です。


気に入ったクルマがあればその場で買う!
商談できるモーターショーならではの活気

 インドネシアのモーターショーと日本のモーターショーの大きな違いは、買うか買わないかです。日本のモーターショーは「モビリティーの未来を見る」というイベントになっています。一方、インドネシアのショーは、タイなどと同じ「クルマを買うイベント」でもあるのです。


インドネシアのモーターショーは日本車ばかりなのに日本メーカーは知らないクルマばかり! でもこれがアツかった!
インドネシア
インドネシアのモーターショーは、実際にクルマを購入する、いわゆる「トレードショー」だ。展示ブースの裏側には写真のような商談スペースがある。また、ローンを組むための銀行の出張窓口も用意されている

 実際に各ブランドの展示車の横に立つのは、販売店の営業マン。持っているのはカタログではなく、支払プランの一覧表です。展示ブースの裏には商談コーナーがあり、ローンを組むための銀行の出先窓口まで用意されています。クルマの価格は日本と同じなのに、収入が日本の10分の1ほどですから、インドネシアではクルマの購入とは、どちらかと言えば、家やマンションを買うようなもの。


 ですから、モーターショーでしっかりと希望のクルマとライバルを比較して購入します。もちろん、現金一括ではなくローンが前提。4年48回払いどころか、5年60回払いだって普通にあります。


 買うためのショーですから、未来のコンセプトカーに対する注目度がとても低いのも特徴です。ショー会場を歩き回って疲れた人が、空いているコンセプトカー展示の周りで休んでいる、なんて風景も見ることができました。


インドネシアのモーターショーは日本車ばかりなのに日本メーカーは知らないクルマばかり! でもこれがアツかった!
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インドネシアモーターショーの会場のすぐ横に設置されたキッチンカーが並ぶフードコート。1食は、だいたい日本円で500円程度の価格。和食が多いことには、驚かされた

 インドネシアのモーターショーを訪れるのは、コロナ禍もあったこともあり、2015年以来となりました。10年弱もの長いブランクはありましたが、インドネシアの人の親切さや、少しシャイな印象はそのままです。


インドネシアのモーターショーは日本車ばかりなのに日本メーカーは知らないクルマばかり! でもこれがアツかった!
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メルセデス・ベンツのブースには、通常のメルセデス・モデルだけでなく、BEVのスマートのSUVクーペとなる「#3」なども展示された。2023年の上海ショーでデビューしたBEVだ
インドネシアのモーターショーは日本車ばかりなのに日本メーカーは知らないクルマばかり! でもこれがアツかった!
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シトロエンのブースには、新型「C3エアクロス」などが展示されている。ただし。欧州生産ではなく、その多くがインドで生産されたモデルであった

 街中のひどい渋滞は、以前よりも緩和したように感じます。ジャカルタの街中にも高速道路が伸びていますし、鉄道やバス専用路も見かけることができました。大きなショッピングモールの中は、ほとんど日本と変わることはありません。しっかりと経済もモータリゼーションも成長していることを実感できる旅となったのです。


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