公道をレーシングカーで走るなんてハリウッドのアクション映画みたいな体験をしてみたい。
そんな荒唐無稽とも言える夢が叶うクルマがこの世にはあるのです。
ポルシェの911といえばスポーツカーのベンチマーク。上位グレードにはターボやGT3などがありますが、その市販車ラインナップの頂点に位置するのが911 GT3 RSなのです。ちなみにお値段は3378万円です。筆者が購入した中古マンションよりも高価です。広報車はオプション全部入りで約4000万円というプライスになっています。
911 GT3 RSがどんなクルマかを説明すると、まずエントリーモデルの911カレラがあります。その911カレラから後部座席を取っ払い、ロールケージを入れて、巨大なウィングを装備して、ライトチューンしたものが911 GT3。さらに911 GT3をベースにウィングは二枚重ねの可動式に、ボディーにたくさん空けられたエアダクト、さらに強力なロールケージを装備し、サーキット走行のための機能をてんこ盛りにしたのが911 GT3 RSなのです。
現行型の911(Type992)は2018年に登場してから数々のモデルが追加されましたが、このGT3 RSはその中で最も刺激が強すぎる、アンタッチャブルな暴れん坊と言えます。
なお、いつもは乗ってレビューをしてくれるASCII自動車部のゆみちぃ部長ですが、今回は諸事情によりモデルとしての出演です。
どデカいウィングにゴテゴテのエアロ
ネコ科の獣のような低い戦闘姿勢
エンジンは自然吸気の4L 水平対向6気筒エンジンを搭載し、最大出力は525PS/8500rpm、最大トルクは465N・m/6300rpmを発生。サイズは全長4572×全幅1900×全高1322mm、ホイールベース2457mm、車重は1490kgとなります。
面白いのはパワーと最高速度で、911 GT3が510PSで最高速度が318km/hに対し、911 GT3 RSはパワーこそ525PSと上がっていますが、最高速度は296km/hとちょっとだけ“遅い”のです。911 GT3 RSは最高速度を犠牲にして、そこまでの到達時間を重視しているのでしょう。
たとえば富士スピードウェイのような直線が長いコースだと最高速度の差が効いてくるかもしれませんが、コーナーが連続するニュルブルクリンクのようなコースだと最高速度まで達することはほとんどないと思うので、中間加速がモノを言うのでしょう。
最高速度が“遅い”といっても296km/hなので、あらゆるサーキットで戦えるオールラウンダーなのは間違いありません。そう、街中をチンタラ走るクルマではないのです。なお、前モデルのType991型にはターボの911 GT2 RSがありましたが、Type992には今のところナシ。そのうち出るかと思います。
地上の戦闘機を平和な街中で走らせる
筆者はサーキット走行はしませんので、今回お借りした911 GT3 RSでは、主に街中と首都高を走りました。
まず、筆者の近所は非常に路面が荒れているので、最低地上高100mmはなかなか気を遣いました。フロントアクスルリフトシステム(フロントの車高を40mm上げてくれる)があるので、ガソリンスタンドやコンビニなどに入るときは安心なのですが、30km/hで自動的に元に戻るので、一般道は慎重に走りました。
ATなのでアクセルを踏めば走ってくれるワケですが、走行モードをノーマルにしていても低速トルクが微妙でかなりゆっくりスタートします。踏み込んでもいいのですが、かなり鋭い加速をするので、街中ではそんなことはできません。また、かなり強いLSDが装備されているせいか、駐車場から出るときなど、低速でハンドル切って曲がると「パキパキガタガタ」と振動と異音が発生し、ちょっとビビります。
横幅が1900mmなので(ミラー含めると2000mm超え)、それなりに大きいですが、裏道などに入らなければ問題ありません。速度が乗ってくれば一般道も軽やかに走ります。タイヤは前275/35ZR20、後335/30ZR21というサイズなので、千葉県の道にありがちなワダチにハンドルをよく取られるので、そのたびに背中に冷や汗をかきました。
市販車でDRSが付いてるとかどうかしてる!
高速道路はまず湾岸線から。水を得た魚のようにあっという間に制限速度に到達。ディスプレーを見ると「DRS準備完了」のような表示が出ました。ん? DRSってあのF1で使われているDRS(ドラッグリダクションシステム)? そう、911 GT3 RSには市販車で初めてDRSが搭載されているのです。
通常、リアウィングはダウンフォースを得るために斜めになっていますが、このDRSが作動するとフラット(地面に対して平行)になるのです。
普通に街乗りしていてDRSを作動させる場面はほとんどないと思いますが、こうしてF1と同じ技術が使われているなんて、クルマ好きならテンションが上がらないわけがありません。もちろん、サーキット走行を楽しむ人だったら、ここぞというときにDRSを使って、F1気分も味わえるでしょう。
このDRSだけでも「公道を走るレーシングカー」と言えます。
お金とコロロに余裕があって
サーキット走行を趣味にできる人向け
明らかに日本の道路には向かないクルマですが、ではどんな人が乗るんでしょうか? それはこのクルマを購入できる資金力があり、一般道の渋滞でもイライラしない心の余裕があり、趣味は週末にサーキット、という人でしょう。
最近、SUVのカイエンやマカン、EVのタイカンに乗ったASCII自動車部のゆみちぃ部長(純情のアフィリア)が、911に興味があるというので、このクルマに乗せたところ、助手席だけでお腹いっぱいになったようで、さすがに運転は「嫌な予感がする」と辞退しました。なので、今回はモデルとしての登場でした。
いつもはSUVなどが好みのゆみちぃ部長も、911 GT3 RSを目の前にして「とんでもなくカッコイイ!」と写真と動画を撮りまくりでした。乗り心地はさすがに固すぎたようですが。
スペックも価格も破格の911 GT3 RS。ご時世的に、こんなモデルをいつまでポルシェが出してくれるかはわかりませんが、今はまだ“公道のレーシングカー”を出してくれるありがたみを感じつつ、スポーツカーの未来に想いを馳せたいと思います。
筆者紹介───スピーディー末岡
アスキースマホ総研主席研究部員。速いものが好きなスペック厨で、スマホ選びはスペックの数字が優先。なので使うスマホは基本的にハイエンドメイン。クルマはスポーツカーが大好き、音楽はヘビーメタルが大好きと、全方位で速いものを好む傾向にある。スマホ以外では乗り物記事全般を担当している。