今夏あの酷暑に、地球温暖化を身をもって知った方も多いのではないでしょうか。その地球温暖化で重要なのが「脱炭素」「カーボンニュートラル」といわれ、二酸化炭素を出さない再生可能エネルギーに注目が集まっています。
そこで消費エネルギーのうち、再生可能エネルギーの比率が4割を超えるという北海道をアウディとともに訪れ、現状と課題を見てきました。
再生可能エネルギーの現場を
アウディとめぐる旅に参加した
アウディジャパンは、社員とメディアに向けて、持続可能な社会の実現の重要性について考えるきっかけとして、サスティナビリティーに取り組む地域をe-tronで巡る「Audi Sustainable Future Tour」を不定期で実施しています。過去には、岡山県真庭市、岩手県八幡平市、静岡県浜松市、そして鹿児島県の屋久島を旅しました。
その5回目が北海道・稚内。アウディからサステナブルとかカーボンニュートラルを考えるきっかけをいただいた筆者が、北の大地を見て感じたこと、考えたことを素直に申し上げたいと思います。みなさんも環境問題について考えてみませんか?
北海道の日本海側沿岸部を飛ぶ機内から眼下を見下ろすと、海沿いに数多くの風車の姿が目に飛び込んできました。その数にただただ驚くばかり。この風車群のことをウインドファームと呼ぶそうです。
飛行機から見えたウィンドファームのひとつで、1万kW以上の風力発電では日本で最も古い施設である、幌延町の幌延風力発電 オトンルイ風力発電所へ。
取材日の東京の最高気温は34度でしたが、この場の温度は半袖でいることを後悔する21度。クルマから降りると強く冷たい海風に襲われ、半袖で訪れたことを後悔します。周りに木々はないところからも、1年を通して風が強く、風力発電に適した地であることを感じ取れました。
支柱の高さ75m、ローター直径が50mという大型の風車が、海沿いの道に沿って南北3.1kmにわたり28基の風車が立ち並ぶオトンルイ風力発電所。観光地としても知られているようで、「夕景は圧巻」といくつかの観光ガイドに書かれています。
ですが、見聞きしていたのとは違い、薄暗い寒空に低く轟く風切り音は、どこか不気味。それに何もない平原にそびえる白い巨塔は、この世のものではない違和感を覚えます。
支柱に近づくと、インバーターの金切り音が耳に響き、世紀末感がさらにアップ。そんな風車1基あたりの出力は750kW。28基あるので、発電所の総出力は21000kWとなります。同出力の火力発電と比べ、年間約70万トンのCO2削減効果が得られるのだそうです。ちなみに生み出された電力は、17km先にある北海道電力幌延変電所へ送られているそうです。
平屋建ての一般家屋のような事務所には、何台かのコンピューターと、発電機をモニターする画面がありました。担当者によると、発電所の稼働は2003年から。会社が設立した2000年当時、環境問題の観点から国全体で新エネルギー導入機運の高まっていたのだそう。
今年で運転開始から21年目。風車の寿命は20年が目安で、そろそろ建て替えを考えているのだそう。ですが最近は風車が大型化しており、現在使っているものと同じ規模は手に入らないといいます。そこで4200kWクラスを5基で同等の電力を得ることを検討しているとのこと。
素人目には「28基すべてを4200kWにすればよいのでは?」と思いますが、4200kWの風車の値段は建設費を除いて1基約7億円。さらに風力発電機は現在、海外製に頼らざるを得えない状況で、昨今の円安により価格は高騰。現在、計画は中断しているとか。
というのも、その昔、発電用風車は三菱重工、日本製鋼所、日立製作所が国内製造をしていたのですが、日本市場の成長が遅れたことなどから、撤退したのだそうです。
また再生可能エネルギー導入促進により、太陽光や風力で得た電力が、北海道内に溢れていることも、現状と同じ出力とする要因だといいます。しかも、北海道電力はベース電力強化の観点から、原子力発電所(泊発電所の3号機)の再稼働を検討しているとのこと。
「もっと電気を使ってください」と担当者。同じ事は九州の太陽光発電でも起きていて、出力制限がなされたのだとか。電気代高騰に苦しんだ夏、一部地域では電力が余っていたのです。
世界最大級の蓄電施設はアウディのEV8700台分
風力発電は風の影響により出力変動が発生します。そこが自然エネルギーの難しいところです。
次に訪れたのは、天塩郡豊富町にある国内最大規模、世界でも最大級の蓄電池設備を誇る変電・蓄電施設、北海道北部風力送電の北豊富変電所。風力発電で得た電力を、一旦リチウムイオン電池に蓄える世界最大級のバッテリーシステム(720MWh)です。たとえるならアウディの電気自動車e-tronの約8700台に相当します。
蓄電施設は9つのウインドファーム(合計127基の風車)とつながっており、合計127基の風力が生み出される電力540MW(メガワット/54万kW)のうち、現在は300MW(30万kW)を北海道電力に安定的に供給しています。今夏、北海道電力のピーク電力は400万kWだったので、約8%分が賄えるというわけです。
施設内はリチウム電池のセルがズラリ。「燃えたらどうするんですか?」と尋ねると、二酸化炭素で消火するそうで、近くには大量の緑色のボンベ(通称ミドボン)がありました。
施設ができたのは約2年前。周りを見渡すと土地はいっぱいありますし、建屋は平屋なので2階建てにするなど、もっと作ればいいのにと思うのですが、現時点でこれ以上の開発はしない模様。
というのも、ここでも再生可能エネルギーの電力は余り気味という声が聞かれました。「もっと皆様が再生エネルギーを使ってくだされば……」と関係者は語ります。
風力発電はどこでもできるものではない
このようにポテンシャルのある風力発電。菅 義偉首相も在任中、「洋上風力産業ビジョン」として、2040年までに原発30~45基分に相当する30~45GW(ギガワット)(=3000万~4500万kW)の導入を目指す考えを打ち出しました(参考資料:PDF)。
ですが、日本全国どこでも建てればスグに電気になる、というわけにはいきません。経済産業省は福島沖で600億円を投じて、浮体式洋上発電事業を行ないましたが、稼働率が採算ラインに乗らず失敗、撤退となりました。
つまり、いくら巨費をかけたところで、条件の合う場所でなければ、電力は生み出せないのです。風力発電の場合、その地域が北海道と東北地方に偏在しているのです。
北海道の電気自動車事情
電気を多く消費してほしいのなら、電気自動車が好適では? と思うところです。アウディ旭川に行き、その事情を尋ねてみました。
そこで知ったのは「北海道は日本で最も電気自動車が普及していない」という事実。
ネットでは「寒くなるとリチウムイオンバッテリーの特性上、航続距離が落ちる」と言われており、実際、航続距離は2~3割ほど低下する模様。さらに航続距離が短いので敬遠される、というわけです。
航続距離が足りなければ、急速充電器を増やすしかありません。アウディジャパンも、ディーラーに超急速充電器を設置するなどしていますが、それとて十分な数ではありません。
ちなみに北海道のクルマは、四輪駆動であることが前提だそうで、四駆の電気自動車が少ないのも普及率低迷の要因ではないか、とのこと。アウディで四駆の電気自動車はQ8かe-tron GTという、1000~1500万円もするフラグシップモデルしかありません。今後のラインアップ拡充に期待しましょう。
話は逸れますが、旭川店で売れている車種はQ6、A6より上のハイエンドモデルとのこと。逆に都心部で人気のA1やQ2といったコンパクトモデルは苦戦しているとのことでした。
余った電力は足りないところへ
そんな単純な問題ではない
生産地で余っている電気。ならば消費量の多い場所へ送ればよいのでは? と考えるのが自然なこと。まして化石燃料高騰などによる電力代値上げの昨今、再生可能エネルギーからの供給量を増やせば、電気代は抑えられるのでは、とさえ思うわけです。ですが、現時点ではそう思うようにはいきません。
北海道再生可能エネルギー振興機構 鈴木亨 理事長に話を聞くと、北海道と本州の間を結ぶ電源ネットワーク「北海道・本州間連系設備」で流せる電力容量は900MW(90万kW)しかないとのこと。
経済産業省資源エネルギー庁の資料によると、増設の予定はあるようで、2027年には120万kWに増やすとのこと。ほかの地域でも増強の計画があるそうです。ですが、それとてまったく足りないのが実情です。
偉い人たちも理解しているようで、北海道~東北~東京の電力線を800万kWまでの増強をはじめとして、日本全体で送電網の拡充を考えているようです。このプランは長期方針であり、具体的にいつまでに、という決め事はありません。いわゆる努力目標みたいなものです(参考資料 経済産業省:PDF)。
電力を道外へ伝える手段も少なければ、道内で消費しきれないにもかかわらず、北海道には1000件以上の風力発電施設建設予定(申請)があると、北星学園大学 経済学部 経済学科 藤井 康平専任講師は語ります。
それらをすべて建設し、発電できたとしたら200万kWをゆうに超えるだろうとも。それゆえ、道外へ送電しないのはもったいない話です。一方で「こうした申請の中には、いささか不明瞭なものがある。発電所が新たな雇用となるのかも注視したい」と、別の問題も危惧をされていました。
これは北海道に限らず、九州でも起こっているといいます。九州は全国の太陽光発電の2割を占めるほど太陽光発電が活発。それゆえ、晴れて発電量が増える日は、送配電会社が発電事業者に供給を止めるよう指示を出す「出力制御」が行なわれました。
再生エネルギーと電気自動車の普及はインフラ次第
よく「電気自動車は環境に優しいというけれど、結局化石燃料から得た電力で動いている」という論を目にします。あわせて「再生エネルギーは安定しない」という論もあります。ですが、それらは技術的に克服しつつあるように思いました。
次なる問題は、風力で得た電力をクルマに充電する経路が乏しいのです。インフラの整備は、民間企業では限界があり、そこは資源エネルギー庁がキチンと舵をとってもらいところです。同庁のカーボンニュートラルに対する姿勢を注視したいと思います。
資源エネルギー庁のマスタープランによると、その費用は概算で8兆円とのこと。おそらく上振れをすることでしょう。大きなイベントもいいですが、もうちょっと公費をここに投入しては……と思ったのは、私だけでしょうか。
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