これからクルマは電動化の道を進むと言われています。その時、スポーツカーはどうなるのでしょう? そこでポルシェのPHEV(プラグインハイブリッド)とBEV(バッテリーEV)に触れながら、実用面とともに未来について考えてみたいと思います。
家族でゆったりポルシェに乗りたい
そんな人にオススメの「パナメーラ」と「タイカン」


今回取り上げるのは「パナメーラ4 Eハイブリッド」というPHEVモデルと、トップパフォーマンスBEVの「タイカン ターボS」。ポルシェに乗りたいけど、家族の事を考えると911や718などのスポーツモデルは難しい。かといってSUVは好みじゃない。どちらもそんな人にピッタリの4ドアサルーンです。
価格から見ていくと、パナメーラ4 Eハイブリッドが1669万円、タイカンターボSが2746万円と、1100万円も違います。ポルシェの価格差(=グレード差)は、他ブランドと比べると、装備面の差よりもパフォーマンスの差によるところが大きいように思います。
そしてパナメーラとタイカン、かなり背格好が似ています。



パナメーラのボディーサイズは全長5049×全幅1937×全高1423mmで、ホイールベースは2950mm。



タイカンは全長4963×全幅1966×全高1378mmで、ホイールベースは2900mm。数字的にタイカンの方が少し小さいくらいですが、実際の車両を見るとほぼ違いがわかりません。

なお、両モデルとも、輪留めには注意が必要。勢いよく後ろに下がると、ほぼ確実にバンパーに傷がつきます。
BEVかPHEVかという話から逸れますが、この2台の乗降性はかなり異なります。
それでは、後席からPHEVとBEVの差をみてみましょう。パナメーラ、タイカンともに4人乗りですので、後席は2人しか着座できません。



パナメーラの場合、中央にドライブシャフトが通るためか、センタートンネルが盛り上がっています。ですので車内で右から左へ、といった移動は結構大変。また、バッテリーが後部座席の下付近にあるためか、座ってみると天井が低い印象を受けます。さらに言えば、サイドシルが結構立っているため、年配の方が乗りこむのは少し困難です。

タイカンはというと、床面全体がバッテリーというレイアウトのためか、収まってしまえば自然な着座姿勢が保てます。またセンターにドライブシャフトが通っていないため、中央部が少し低くなり、左右移動が少しだけしやすくなっています。
他社をみると、BEVの方がセンタートンネルが低いか、そもそもセンタートンネルがない場合が多いので、そこがPHEVとBEVの差のひとつといえそうです。ですが、世界的にハイブリッド四駆はメカニカル四駆から、トヨタのE-Fourに代表される「前輪はエンジン+モーター、リアはモーター」という電気式四輪駆動の流れなので、センタートンネルが低くなる可能性はあります。
USBはType-Cなどリアシートの共通部分は多い
せっかくなので、タイカンとパナメーラの後席で共通する部分についても紹介しましょう。


アームレストはどちらも中央にドリンクホルダーを配置するタイプです。


どちらもUIは異なるものの、後席専用のエアコン送風口を配置。



USB充電端子はどちらもType-Cを2系統用意します。
維持費/ランニングコストともにタイカンの方がオトク




EVの充電ポートは、パナメーラは欧州PHEVの常といえる通常充電のみ。カイエンは急速と通常充電に対応します。搭載するバッテリー容量はパナメーラが17.9kWh、タイカンが93.4kWhで、満充電時のEV走行距離はパナメーラは56km、カイエンは400km。
それでは少し計算してみましょう。まずは充電時間から。「必要とする充電量(kWh)÷充電器の出力(kWh)」で、おおよその充電時間は求められます。家庭充電が3kWhとすると、パナメーラが約6時間、タイカンが約31時間となります。続いて電気代は1kWで27円14銭(東京電力・夏季)ですので、パナメーラが485円81銭、タイカンが2534円88銭。パナメーラの方がオトクに見えますが、ガソリンタンク容量は80Lで、しかもハイオク専用です。都内は180円前後ですから(今後値上がり予定)、満タンで約1万4400円。
これで何km走るのか? というと、パナメーラは電池があれば10km/hは行くので、ざっくり800km。これはタイカンが1充電で走れる400kmの倍。よって40Lのハイオクガソリン7200円+電気代485円の合計7685円とすると、同じ距離を走るコストを考えると、5000円ちょっとのタイカンの方がオトクです。
ちなみに急速充電はというと、90kWの急速充電は最初の5分が385円、以後1分あたり77円ですので、30分充電すると2310円。これで満タンになればいいのですが、充電されるのはおそらく30~40%程度。2回連続で急速充電したとして4620円。急速充電でもガソリンと比べてオトクといえそうです。
もちろん細かい条件次第でコストも変わります。さらに税の優遇処置に関しては毎年変わるので、ここでは言及しませんが、BEVの方が優遇される傾向にあります。さらにエンジンオイルの交換は不要ですので、ランニングコストの安さも見逃せません。エンジンオイル交換費用が不要なのは大きなメリットといえそうです。ポルシェ指定のオイルと工賃で数万円はしますので。
インテリアも使い勝手も異なる
フロントフードを開けると、2台の差はいっそう明確になります。

パナメーラのフロントには最高出力330PS、最大トルク450N・mを発生する2.9LのV6ユニットが姿を現します。モーターを含めたシステム出力は462PS/700N・mという十分なもの。

タイカンはというと、84Lのラゲッジが姿を現します。奥行きはかなり深く、ショッピングセンターで買い物をした時には便利です。
ちなみにタイカン・ターボSのパフォーマンスは、最高出力761PS、最大トルクにいたっては1050N・mとハイパーカー顔負けのスペックなのです。












リアのラゲッジはパナメーラが403L、タイカンが407Lと、どちらも十分すぎますが、わずかながらタイカンの方が床の落ち込みが少ないよう(高床)で、使い勝手はタイカンの方がよいかも。決定的に異なるのは底板を開けた時に、充電ケーブルが出てくるか否かということ。






運転席もチェックしてみましょう。タイカンの方が登場した年代が新しいゆえ、物理スイッチを極力排した近未来的であるということ以外、どちらもポルシェらしい、ラグジュアリーでスポーティーに満ちた空間です。
クルマらしいパナメーラと
新しい乗り物のタイカン
少しだけ走りについて触れましょう。同じ四輪駆動システムで、前後重量配分比率が似ている2台ですが、走りはかなり異なります。というのも、パナメーラはFRベースの四駆という印象であるのに対し、タイカンは低重心さを信条とする、まるで地面に吸い付くような、かつて体感したことのないクルマの動きなのです。
加速においても、一瞬の間をおいて、轟音とともに速度が上がるパナメーラに対して、カイエンは躊躇なく甲高いモーター音と共に加速します。

ブレーキフィールも大きく異なり、ポルシェらしいカッチリさを感じるパナメーラに対して、タイカンは柔らかさを覚えます。これは回生ブレーキの設定なども関係するのでしょう。

総合してPHEVは“クルマ”であるのに対し、BEVは「タイヤがついている別の乗り物」という印象。これはポルシェに限らず、ほかの自動車メーカーでもいえる傾向なのですが、ポルシェは趣味性が高いブランドゆえ、それを顕著に感じました。
【まとめ】過渡期の技術ではない2つの個性
長い自動車の歴史からみれば、電動車はまだ実用化されたばかり。もちろん、今後はさらに進化していくでしょう。ですが現時点でも、かなり満足できるのも事実。一部から「BEVがゴールで、PHEVは過渡期のもの」という声を耳にしますが、PEHVはPHEVの良さがあり、BEVもBEVで良さがあります。
あとは充電インフラ次第といったところ。こればっかりは自動車メーカーだけではどうにもできないので、政府が旗を振ってしっかり整備していってほしいところです。
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