3月23日から4月5日までタイで「第47回バンコク国際モーターショー 2026」が開催されました。タイの自動車イベントって盛り上がってるの? どんなクルマがお披露目されたの? 日本の私たちとの関係は? などなど、日本からではわからないタイの自動車事情をレポートします。
ピックアップトラックが大人気!
日系ブランドが7割を占める
タイは東南アジアきっての自動車生産国です。タイに国産自動車メーカーは存在しませんが、トヨタやホンダ、日産などの日系メーカーが進出しており、タイでクルマを生産・輸出しています。最近では、年間約150万台を生産して、約100万台を日本やASEAN各地に輸出しています。
また、タイの国内で販売される約50万台のうち、乗用車は約4割で、残る6割が商用車。商用車も半分以上が農家や中小企業向けのピックアップトラックです。つまり、日本と違って、ピックアップトラックが乗用車並みに売れている、というのが特徴です。
そんなタイ国内の販売シェアトップが約4割のトヨタで、続いてホンダといすゞがシェア10%程度で2位と3位を争います。ピックアップトラックが売れるので、タイではいすゞの存在感が大きくなっています。そして、三菱自動車が約4%で、日産/マツダ/スズキがそれぞれ約1~2%のシェアを持っています。トータルでは、約7割が日系メーカーで占められているのです。
モーターショーは年間の2割を売る重要な新車販売の場
そんなタイにおけるモーターショーの意味合いは、日本や欧米と異なります。日本や欧米では、現地の自動車メーカーによる新型モデルや、将来を見据えたコンセプトカーが花形です。来場者の目当ては、今まで見たことのない未来のクルマです。ところがタイのモーターショーはトレードショー。
そのため展示車の横には、自動車販売会社の営業マンが待ち構えており、クルマを気に入れば、一緒にブースの裏にある広い商談コーナーに移動。そこで購入契約を結ぶことになります。商談コーナーの一角には銀行の出張窓口もあって、そこでローンの申請も同時に行ないます。
毎年10日間ほどの会期で、5~7万台も予約が取れるとか。また、春先だけでなく、年末も同様のイベントがあります。クルマを売るという儲かるイベントですから、1年に2回も開催されるのです。2年に一度の日本とは違います(意味合いも)。
その結果、タイではモーターショーだけで、新車が年間10万台以上も売れています。タイの年間新車販売規模は50万台程度。ショーで10万台も売れるのですから、業界にとって重要なだけでなく、来場者にとっても大金を使う、まさに熱いショーといえるでしょう。
シェアを伸ばし、ショーにも数多く出展する中国ブランド
そんな新車販売の最前線となるタイのモーターショーですが、今年のトレンドはEVでした。近年のタイは、国をあげてEVを推進しており、EVの新車販売は2025年の新車販売全体の20%を超えるほどに伸びているのです。
国内販売のシェア7割が日系ブランドですけれど、なんと残りのうち2割を中国ブランドが占めています。乗用車だけで言えば、2025年の中国ブランドのシェアは22.1%にも高まっているのです! 聞くところによると、中国ブランドのEVは、「日本のエンジン車よりも安い!」というモデルもあり、現地の人にも人気が高まっているというのです。
そもそもタイは地理的に中国と近く、中国ブランドにとっては絶好の進出場所。すでにタイにおける中国ブランドのナンバー1であるBYDは、タイに工場をかまえて現地生産もスタートしています。そして、今年のバンコクモーターショーには、CHERY、LEPAS、FIREFLY、FORTHINGという4つの中国ブランドが初出展しました。
もちろん、出展の中国ブランドはそれ以外にも、BYD、MG、GWM、GAC、CHANGAN、GEELY、ZEEKER、XPENGなどがあり、国別でいえば日本を上回る数のブランドがブースを構えていました。そして、そうした中国ブランドの展示車のほとんどがEVで、ごく一部がハイブリッドとなります。
そのため、タイのモーターショーでは、EVが失速気味のアメリカや欧州、苦戦する日本とは異なる、まったく違った「勢いのあるEV」という風景が展開していたのです。
タイで生産する「ランドクルーザーFJ」を発売
では、日系メーカーはどんな展示内容だったのかをレポートしましょう。まず、現地タイのシェアナンバー1であるトヨタ。そのトヨタの目玉は「ランドクルーザーFJ」でした。クルマそのものは、昨年秋に世界的に発表されましたが、今回、タイで正式に発売となりました。2.7Lのガソリン・エンジンを搭載する4WDモデルです。価格は126.9万バーツ(約622万円)です。
ランドクルーザー・シリーズの末弟となる「ランドクルーザーFJ」ですが、名称と違って、中身は「ハイラックス」と同じIMV(Innovative International Multi-purpose Vehicle)シリーズのプラットフォームを使っています。そしてタイは「ハイラックス」の主力生産拠点。
また、ブース会場には、兄弟車となる「ハイラックス」だけでなく、そのEVバージョンやEVの「bZ4x」なども展示されていました。エンジン車中心ながら、EVも置いてあるよ~という格好です。
中国生産のEVを持ち込んだホンダとマツダ
トヨタに続く、タイでの日系ビッグネームがホンダ。そんなホンダの発表は、中国で生産するコンパクトSUVのEV「e:N2」(142.9万バーツ:約700万円)でした。また、ブースには東京モーターショーでもお披露目したコンパクトEV「Super-ONE」なども用意し、EVに力を入れる姿勢を見せたのです。
なお、ホンダのプレスカンファレンスは、2:8くらいでクルマよりもオートバイに時間を多く割いていました。
ホンダと同様に中国のEVを持ってきたのがマツダです。メインステージに飾られたのは、セダンのEV「Mazda6e」(116.9万バーツ~:約573万円~)とSUVの「CX-6e」の2モデル。会場の展示は価格が提示された「Mazda6e」を中心としたものとなっていました。
また、スズキはインド製のEV「eビターラ」とコンパクトSUV「フロンクス」を展示。ホンダと同様にオートバイ用に広いスペースを振り分けていた。
ハイブリッドを展示した日産と三菱自動車
日産がアンヴェールしたのは新型「キックス」です。そこで驚いたのが、2024年に発表されている北米の新型「キックス」とは別モノだったということ。どうも、昨年12月に発表されたラテンアメリカ向けの「カイト(KAIT)」と同じモデルのように思えます。
タイの新型「キックス」は、1.2Lのハイブリッド、e-POWERとタイ初の運転支援機能プロパイロットを搭載して、83.9万バーツ~(約411万円~)という価格でした。
三菱自動車のメインの展示はミニバンの「エクスパンダーHEV」とコンパクトSUVの「エクスフォースHEV」の2台。どちらもハイブリッドをウリにしています。ブースの正面にはAXCR2025(アジアクロスカントリーラリー)優勝の「トライトン」が誇らしげに飾られていました。
そして、最後にいすゞは、ピックアップトラックの「D-MAX V-CROSS」と、そのSUV版となる「MU-X」の2台をメインステージに。また、EV化されたピックアップトラック「D-MAX EV」も展示されていました。レーシングカー風カスタムの「D-MAX」や、ゆるキャラのマスコットキャラクターを用意するなど、楽し気な雰囲気が印象的でした。
中国EVがどこまで普及するのかに注目
振り返ってみれば、日系メーカーはトヨタといすゞがエンジン車を、日産と三菱自動車がハイブリッド、そしてホンダとマツダが中国製のEVをメインの展示としていました。トヨタといすゞは、どちらもオリジナルのピックアップトラックのEVも持ち込んでいましたが、あくまでも扱いは小さなものです。
つまり、今回のタイのモーターショーで、数多く見たEVは、そのほとんどが中国製です。欧米や日本では、EVの普及にはもう少し時間がかかりそうですが、中国メーカーが大挙してやってきたタイはどのような方向に向かうのかは、現状ではわかりません。
このまま中国本土のように、EV化に突き進むのか? それとも、現在の欧米のようにEV熱が冷めてしまうのか。中国メーカーにとって、海外進出は生き残りをかけた非常に重要なミッションです。タイという新天地に根付くことができなければ、他の国に進出することも難しいはず。この先のタイ市場のEVの勢いには要注目です。
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筆者紹介:鈴木ケンイチ
1966年9月15日生まれ。茨城県出身。国学院大学卒。大学卒業後に一般誌/女性誌/PR誌/書籍を制作する編集プロダクションに勤務。28歳で独立。徐々に自動車関連のフィールドへ。2003年にJAF公式戦ワンメイクレース(マツダ・ロードスター・パーティレース)に参戦。新車紹介から人物取材、メカニカルなレポートまで幅広く対応。見えにくい、エンジニアリングやコンセプト、魅力などを“分かりやすく”“深く”説明することをモットーにする。
最近は新技術や環境関係に注目。年間3~4回の海外モーターショー取材を実施。毎月1回のSA/PAの食べ歩き取材を10年ほど継続中。日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員 自動車技術会会員 環境社会検定試験(ECO検定)。









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