角川ドワンゴ学園N高等学校(N高)は、インターネットと通信制高校の制度を活用した新しい高校として注目されている。同校では現在、全国から入学できるネットコースと、全国13箇所の校舎に通いながら学べる通学コースのほか、ネットコースをベースにしてより専門的な知識に特化した学習ができる提携スクールという、大別すると3つ異なる学びの形を提供している。
このうち通学コースではアップルのMacBookをすべての生徒が使う教材に選定して、2017年のコース開設時から新たな学習スタイルを確立してきた。学校側の狙いと、生徒の学びにどのような形でその成果が表れているのか、N高を訪ねて取材した。
●N高生の独創性と実践力を育む「プロジェクトN」とは
今回筆者はN高の代々木キャンパスを訪問して、通学コースの授業の様子を見学した。当日は通学コースの中でもとりわけユニークなカリキュラムである「プロジェクトN」の参加者による成果発表会が開催されていた。
プロジェクトNとは実社会を題材に、生徒が自ら設定した課題に対する解決策を短期間に見つけ出し、発見した事をプレゼンテーションにまとめて発表するという参加型のユニークな学習カリキュラムだ。この日は6月・7月のテーマである「ICTサービスで身体的なハンディキャップを抱える人々を支援するアプリの立案・提案」の成果発表として、全国N高の参加者の中から選考を勝ち抜いた11チームがプレゼンテーションを行った。ゲスト審査員にはロボット研究者として有名な吉藤オリィ氏が迎えられた。
参加各チームが発表したアイデアはいずれも実社会で役に立つことを真剣に見据えたものばかりだった。なかにはすぐにでもサービス化できれば「即戦力」として、必要とする人々に歓迎されそうなものもあった。全チームの発表に丁寧な講評を加えた吉藤氏のコメントにも自然と熱がこもった。
プロジェクトNでは、参加各チームがターゲットニーズを正確に把握して、そのために必要なサービスのプロトタイプを作って調査を行う力と、独創的なアイデアの魅力を他者に伝えるためのプレゼンテーションの力を評価基準としている。
今回の場合も実際に動くアプリを作り切ることが目的ではないのだが、ステージに立って自らのアイデアを雄弁に語り、形にしようとする学生たちの強い意気込みに筆者も気圧された。
●学びの共通プラットフォームとして機能するMacBook
各チームともに「3分」という限られたプレゼンテーションの時間内に、驚くほどに密度の濃い内容を壇上でアピールしてみせた。代々木キャンパスから参加したチーム「ALL3」は、病院の診療時間以外にもアプリを通じて診察が受けられるサービス「helfen」を発表した。
メンバーの三上紘生氏にインタビューしたところ、今回のプレゼンテーションは約1か月半の間、週に3日、午前中の1~2時間の限られた時間にメンバーが集中してアイデアを固めたものなのだという。三上氏がプレゼンテーションのアウトラインを描き、ほか3人のメンバーがデザインを担当した。「短期間に良い集合知を出すことができた」と三上氏は会心の笑みを浮かべた。
彼らの作業現場ではMacBookが共通のツールとして活躍した。また三上氏の場合は普段のプログラミング学習にもMacBookを活用しているそうだ。N高ではMacBookがどのような形で学びのツールとして活用されているのか、ほかの生徒にも話を聞くことができた。
N高生でありながらフリーランスの映像ディレクターとしての道も同時に歩み始めた田邉快哉氏は、自宅ではiMacを、高校では13インチのMacBook Proを愛用している。Macを選んだ理由は「クオリティの高いディスプレイが映像製作の作業に欠かせない。直感的なユーザーインターフェースの操作感も気に入っている」とのこと。
N高で教材として使うことが推奨されているMacBookはスタンダードなスペックのものでも十分に事足りるのだが、田邉氏はあえて映像クリエイターとしてのこだわりを貫いて、フルスペックに強化したMacBook Proを選択した。N高では田邉氏のように、こだわりのマイMacを持参する生徒も少なくないそうだ。
イースターウッド 海歌氏も通学コースで学ぶN高生だ。“Macユーザー”である父親に影響を受けて、自身もずっとMacを愛用してきたが、N高への入学をきっかけに13インチのMacBook Proを愛機とした。写真加工から映像編集まで、さまざまなことに興味を持ってのめり込んでしまうというイースターウッド氏は「どんなクリエイションにも挑戦できそうなパフォーマンスと信頼性の高さ」からMacBookを相棒としている。
二人はN高生の中でもMacに関する知識を広く深く身に着けているエキスパートであることが、話の節々からよくわかる。通学コースの仲間にもMacやアプリケーションの使い方について訊ねられることもよくあるという二人も「トラブルシューティングなどすぐに助け合えることが、校内の皆がMacを共通の学習ツールとして使っている環境の良いところ」だと感じるそうだ。
仲間同士、あるいは個人が所有するMacからiPhoneへファイルを受け渡すときにはAirDropの機能をよく使うという。プロジェクトNのようなグループワークの際にもまたAirDropが真価を発揮する。N高では講師と生徒がともにMacBookを使っていることから、ファイルの受け渡しにAirDropを使うことも必然的に多くなると語るのは通学コース運営部 部長の梶原純氏だ。
●目標に向けてまっしぐらに学べる環境がN高の強みだ
梶原氏はN高の必修カリキュラムにはコンピュータプログラミングの授業が含まれており、これからさらに注目を浴びそうなiOSアプリを開発するために必要となる、Swiftなどのプログラミング言語を学ぶためのツールとしてもMacBookが最適だと述べている。
N高が共通の教材プラットフォームとしてMacBookの導入を決めた理由は他にもある。
「通学コースに入学する生徒の中にはスマホネイティブでありながら、PCを本格的に使ったことがないという生徒も多くいる。MacBookを共通のプラットフォームにすることで、教師が生徒にトラブルシューティングを含む一貫したバックアップができることに着目した」(梶原氏)。
生徒が学びたいこと、目標に向かって集中しながらまっすぐに進める環境がN高の大きな強みなのだ。この日、短時間ながらも筆者が言葉を交わすことができたN高の学生たちは皆、自分が将来なりたい自分のイメージをとても鮮明に描いていて、目標にめがけて迷うことなく歩んでいるような自信に満ちていた。「生徒たちが挑戦できる喜びを学校が全力で支えたい」と梶原氏は話す。そして学ぶことに貪欲な生徒たちを、互いに結びつけて、刺激を与え合う媒介としてMacBookも存分にその役割を果たしているように見えた。
3年間という、高校生に与えられた学びの時間は長いようで短い。学生の可能性を限られた時の中で最大限に開花させるために必要なツールを、無駄なく充実させた環境がN高にはある。もし筆者がもう一度高校生に戻れるなら、ぜひこの学校に通ってみたいと羨ましく感じた次第だ。(フリーライター・山本 敦)
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このうち通学コースではアップルのMacBookをすべての生徒が使う教材に選定して、2017年のコース開設時から新たな学習スタイルを確立してきた。学校側の狙いと、生徒の学びにどのような形でその成果が表れているのか、N高を訪ねて取材した。
●N高生の独創性と実践力を育む「プロジェクトN」とは
今回筆者はN高の代々木キャンパスを訪問して、通学コースの授業の様子を見学した。当日は通学コースの中でもとりわけユニークなカリキュラムである「プロジェクトN」の参加者による成果発表会が開催されていた。
プロジェクトNとは実社会を題材に、生徒が自ら設定した課題に対する解決策を短期間に見つけ出し、発見した事をプレゼンテーションにまとめて発表するという参加型のユニークな学習カリキュラムだ。この日は6月・7月のテーマである「ICTサービスで身体的なハンディキャップを抱える人々を支援するアプリの立案・提案」の成果発表として、全国N高の参加者の中から選考を勝ち抜いた11チームがプレゼンテーションを行った。ゲスト審査員にはロボット研究者として有名な吉藤オリィ氏が迎えられた。
参加各チームが発表したアイデアはいずれも実社会で役に立つことを真剣に見据えたものばかりだった。なかにはすぐにでもサービス化できれば「即戦力」として、必要とする人々に歓迎されそうなものもあった。全チームの発表に丁寧な講評を加えた吉藤氏のコメントにも自然と熱がこもった。
プロジェクトNでは、参加各チームがターゲットニーズを正確に把握して、そのために必要なサービスのプロトタイプを作って調査を行う力と、独創的なアイデアの魅力を他者に伝えるためのプレゼンテーションの力を評価基準としている。
今回の場合も実際に動くアプリを作り切ることが目的ではないのだが、ステージに立って自らのアイデアを雄弁に語り、形にしようとする学生たちの強い意気込みに筆者も気圧された。
聞けば同校には生徒がプロジェクトNを通じて取り組みたいことを見つけた際には長期実践型のプロジェクトに発展させ、優秀なプロジェクトを「起業部」に昇進して奨励する仕組みもあるという。
●学びの共通プラットフォームとして機能するMacBook
各チームともに「3分」という限られたプレゼンテーションの時間内に、驚くほどに密度の濃い内容を壇上でアピールしてみせた。代々木キャンパスから参加したチーム「ALL3」は、病院の診療時間以外にもアプリを通じて診察が受けられるサービス「helfen」を発表した。
メンバーの三上紘生氏にインタビューしたところ、今回のプレゼンテーションは約1か月半の間、週に3日、午前中の1~2時間の限られた時間にメンバーが集中してアイデアを固めたものなのだという。三上氏がプレゼンテーションのアウトラインを描き、ほか3人のメンバーがデザインを担当した。「短期間に良い集合知を出すことができた」と三上氏は会心の笑みを浮かべた。
彼らの作業現場ではMacBookが共通のツールとして活躍した。また三上氏の場合は普段のプログラミング学習にもMacBookを活用しているそうだ。N高ではMacBookがどのような形で学びのツールとして活用されているのか、ほかの生徒にも話を聞くことができた。
N高生でありながらフリーランスの映像ディレクターとしての道も同時に歩み始めた田邉快哉氏は、自宅ではiMacを、高校では13インチのMacBook Proを愛用している。Macを選んだ理由は「クオリティの高いディスプレイが映像製作の作業に欠かせない。直感的なユーザーインターフェースの操作感も気に入っている」とのこと。
N高で教材として使うことが推奨されているMacBookはスタンダードなスペックのものでも十分に事足りるのだが、田邉氏はあえて映像クリエイターとしてのこだわりを貫いて、フルスペックに強化したMacBook Proを選択した。N高では田邉氏のように、こだわりのマイMacを持参する生徒も少なくないそうだ。
イースターウッド 海歌氏も通学コースで学ぶN高生だ。“Macユーザー”である父親に影響を受けて、自身もずっとMacを愛用してきたが、N高への入学をきっかけに13インチのMacBook Proを愛機とした。写真加工から映像編集まで、さまざまなことに興味を持ってのめり込んでしまうというイースターウッド氏は「どんなクリエイションにも挑戦できそうなパフォーマンスと信頼性の高さ」からMacBookを相棒としている。
二人はN高生の中でもMacに関する知識を広く深く身に着けているエキスパートであることが、話の節々からよくわかる。通学コースの仲間にもMacやアプリケーションの使い方について訊ねられることもよくあるという二人も「トラブルシューティングなどすぐに助け合えることが、校内の皆がMacを共通の学習ツールとして使っている環境の良いところ」だと感じるそうだ。
仲間同士、あるいは個人が所有するMacからiPhoneへファイルを受け渡すときにはAirDropの機能をよく使うという。プロジェクトNのようなグループワークの際にもまたAirDropが真価を発揮する。N高では講師と生徒がともにMacBookを使っていることから、ファイルの受け渡しにAirDropを使うことも必然的に多くなると語るのは通学コース運営部 部長の梶原純氏だ。
●目標に向けてまっしぐらに学べる環境がN高の強みだ
梶原氏はN高の必修カリキュラムにはコンピュータプログラミングの授業が含まれており、これからさらに注目を浴びそうなiOSアプリを開発するために必要となる、Swiftなどのプログラミング言語を学ぶためのツールとしてもMacBookが最適だと述べている。
N高が共通の教材プラットフォームとしてMacBookの導入を決めた理由は他にもある。
梶原氏はこう語っている。
「通学コースに入学する生徒の中にはスマホネイティブでありながら、PCを本格的に使ったことがないという生徒も多くいる。MacBookを共通のプラットフォームにすることで、教師が生徒にトラブルシューティングを含む一貫したバックアップができることに着目した」(梶原氏)。
生徒が学びたいこと、目標に向かって集中しながらまっすぐに進める環境がN高の大きな強みなのだ。この日、短時間ながらも筆者が言葉を交わすことができたN高の学生たちは皆、自分が将来なりたい自分のイメージをとても鮮明に描いていて、目標にめがけて迷うことなく歩んでいるような自信に満ちていた。「生徒たちが挑戦できる喜びを学校が全力で支えたい」と梶原氏は話す。そして学ぶことに貪欲な生徒たちを、互いに結びつけて、刺激を与え合う媒介としてMacBookも存分にその役割を果たしているように見えた。
3年間という、高校生に与えられた学びの時間は長いようで短い。学生の可能性を限られた時の中で最大限に開花させるために必要なツールを、無駄なく充実させた環境がN高にはある。もし筆者がもう一度高校生に戻れるなら、ぜひこの学校に通ってみたいと羨ましく感じた次第だ。(フリーライター・山本 敦)
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