一風変わった社名のHENNGE(ヘンゲ)。10月に東証マザーズに上場したばかりだ。
「パソコンやスマートフォン(スマホ)、タブレット、AIスピーカー……。消費者にとって、IT環境の革新はめまぐるしい。これをビジネスの世界に取り込んでいくことがDXではないか」そう語るのは、HENNGEの小椋社長だ。テクノロジーの民主化が進むにつれ、誰もが先端技術を駆使した製品やサービスを日常的に使いこなすようになった。その感覚やスピード感をそのままビジネスに持ち込む、そんな考えだ。
だが、年かさの経営者にとってはスマホすら縁遠く、若い人たちが使いこなしている新しいテクノロジーのスピード感をビジネスに取り入れる、と言われてもピンとこない、としたら……。「若い頃、どこかの企業に入社するとして『弊社は文章を書くにあたり、必ず墨とすずりを使い筆で書きます』と言われたら、どう思ったか、問うてみればいい」と、小椋社長は分かりやすく例えた。ビジネスにおけるテクノロジーは、もはやボールペンやサインペンと同じレベルなのだ。
「消費者向けの市場では、いろいろな技術がぶつかり合って新しいものがどんどん生まれている。生き残るのは評価されたものだけだ。そのうまみをビジネスでも生かせばいい」(小椋社長)。しかし、個人レベルでスマホを導入するのとは次元が違う。ビジネスに新たな技術を取り込むには、システム移行という大きな痛みが伴う。今はなんとか動いているからいい、そのうちに最新システムに刷新しよう、などと考えているうちに、どんどん新システム導入に対する痛みが増していく。想像を超えるスピードで新たな技術が登場する今日においては、3年、5年といったスパンでのシステム刷新では追いつけない。導入にあたっては、その都度大きな痛みを味わうことになる。
「数年に一度、という不連続で大きな変化ではなく、日々連続的に徐々に変化していく流れに乗ってしまえばいい。
HENNGEは、企業が進めるDXを後押しする。SaaSといっても一種類では済まない。メールやファイル共有から始まり、グループウェアや顧客管理、営業支援、人事・労務管理など、一つの会社でも数多くのサービスを組み合わせて使うことになる。それぞれを自社に最も合う優れたサービスを選択、活用しながらより良いサービスが見つかれば、どんどん乗り換えていけばいい。ただ、複数のサービスを並列的に使う際には小さな痛みが生じる。IDやアクセスの管理だ。こういった問題を解決するのがHENNGE One。これもクラウドで提供するSaaSの一つだ。売り上げの8割を占めている。
HENNGE自身もその名の通り大きく変化した。「クラウド化を進めることになったのは、11年に提供を始めたメールのSaaSから。お客様からのいろいろなニーズを受けて対応する形で日々機能を追加していくと、お客様が連続的な変化の波を当たり前のものと考え、お客様自身がどんどん変革し始めた。
「ある企業は、初めはメールだけをクラウドにするつもりだった。ところが、いつの間にかDXの波に乗ってセールスフォースを導入し、マーケティングオートメーションツールのMarketo(マルケト)を活用してどんどん進み、気がつけばSaaS活用企業に生まれ変わった。そうした例をいくつも見てきた」と小椋社長は振り返る。とにかく何か一つ、小さなものでも構わないからSaaSを導入し、体験してみることだ。「連続的な変化が体験できるものを導入して、それが実際に自分たちのビジネスにどういい影響を与えるのかを体験する。社内でそれを布教できる人をつくる」。どうやら、これがDXへの近道のようだ。
「社名をHENNGEに変更して、失敗を容認するというメッセージを社長自ら社内に発信している。100回失敗してこそ1回の成功が得られる。とにかく新しいチャレンジをしよう。100回の失敗をしようと言っている」と小椋社長。あらゆるSaaS製品やデジタル技術を試しながら、競争力を獲得しようというわけだ。「環境が変わり続けている中では、経営的に考えても自分たちも変わり続けなければならない。2年後には滅んでもおかしくない、常に危機感を持ちながら、自身が常に新しいものを試し続けて変わり続けるようにしている」。自分自身の進化だけでなく「まずは私たち自身が試さないと、お客様に何をお勧めしていいか分からない。後々お客様が導入するかも知れないサービスについて、問題点や強みを知るために、自ら地雷を踏みに行く」ことで、より実践的な提案ができるようになるわけだ。
「本音で言うと、今後情報システム部(情シス)の人たちはいらなくなる。管理すべき情報は、どこかのクラウドにあり、それらは自動的に管理される世界が間もなくやってくる。システムごと置き換えられてしまうかも知れない。
「確かに、困っていなければ無理矢理デジタル化する必要はない……。いやいや。困っていないはずはない。気づいていないだけで。本当は必要なことが山のようにあるはずだ。今のままで、本当に戦い続け、生き残ることができるのか」小椋社長は問う。DXの理想を掲げる前に、まずは小さなサービスを導入して試してみればいい。重要なのは、最初の一歩だ。(BCN・道越一郎)
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