映画の撮影では、フォーカスは手動で合わせることがほとんど。どこに、いつフォーカスを合わせるかは重要な映像表現のひとつだからだ。ふわっとゆっくり合うのか、キュっと素早く合うのか、どの地点からどの地点にどんなタイミングでフォーカスが移動するのか……。やり方次第で映像に意味と深みが加わる。AF(オートフォーカス)でも合わせることはできるが、単に合うだけ。表現意図に沿ったフォーカス合わせは手動でしかできない。実は、撮影の現場で、フォーカス合わせはカメラマンの仕事ではない。セカンドと呼ばれるアシスタントの役割だ。映画やドラマを撮って45年。プロ中のプロの倉持氏も、2ndとしてフォーカスを担当した時期もあった。「役者の動きを見ながらフォーカスリングを回さないと遅れてしまう。
例えば、カメラに向かって歩いてきて、立ち止まってセリフを話すような場面。歩き始める位置、止まってセリフを話す位置はそれぞれ決まっている。最初に歩き始める位置を決め、役者を立たせて立ち位置の印(フットマーク)をつけ、カメラの撮像面からの距離をフィートで測る。さらにカメラのフォーカスを合わせ、どの位置でフォーカスが合ったかをレンズに直接印をつける。次に、立ち止まってセリフを話す場面も同様に役者を立たせフットマークをつけ、距離を測り、レンズに印をつける。歩いてくる中間地点にもフットマーク、測距、レンズに印で準備完了。
実際に役者を歩かせて撮影だ。役者からフォーカスを外さずに追いかけるべく、レンズにつけた印を頼りに手の感覚だけでフォーカスリングを回していく。倉持氏は、歩いてくる役者の映像を一度もぼかすことなく、一発で撮影をやってのけた。「レンズのフォーカスリングには、距離表示が書かれているが、これはあくまでも目安。
レンズには「被写界深度」というものがある。フォーカスが合って見える範囲のことだ。
一方渡辺氏は、現在制作中の「神様待って! お花が咲くから」の一部を題材に、映画製作のテクニックを披露した。小児がんをテーマにした11月公開予定の劇場映画。自身が脚本も手掛けた。映画撮影の「録音部(=映画の音声を担当するチーム)」としても活躍し、音のプロでもある渡辺氏が、映画の音の世界を解説した。例えば、脚本上は4月の場面だが、スケジュールの都合で9月に撮影したシーン。問題になったのはバックの音だ。セリフに盛大なセミの声が重なって響いている。
会場から録音に関する質問が飛んだ。「環境音を立体的に収録するにはどうすればいいのか」という問いに対して、渡辺氏は「方法は二つある」と話し始めた。「一つはゼンハイザーのAMBEO VR MICやZOOMのH3-VRのような360度収録用の機材を使う方法だ。後で自由に加工ができて便利」。しかし「これは正直言ってあまり面白くない。
また、動画制作のコツを問われた渡辺氏は「番組制作にあたって、若いディレクターには『文字コンテを書け』とアドバイスする」という。絵コンテは大変だが、文字のコンテなら書けるだろうということだ。「まず、映像を見た人の心にどんな言葉を浮かばせたいのか? を考える。とはいえ、自分が『美しい』とか『可愛い』とか思って映像を撮ったとしても、実はほとんど伝わらない。普段の会話ですら、相手の気持ちはわからない、自分の心も伝わらない。映像化したらなおのこと。
さらに渡辺氏は「映像は手品でなければならない」とも。「最後に『ああ』と思わせる仕掛を用意することだ。一番簡単なのは工作動画。早回しで何か作るような作品だ。作る過程で、何かしら3回ぐらいは事件が起こる。そして最後に完成して『ああ、これができたのね』となる。映像の面白さだ」。また「映像はぶつぶつ言いながら収録する。『カメラの上にモフモフがあるねぇ』と言ったら、映像を見た人がリアクションする『間』を意図的に作る。これでテンポができていく。さらに視聴者のリアクションを予測してそれをちゃんと言ってあげる。そこで共感が生まれる。意外な新しい情報も加えることで、驚きで『ああ』となる。詐欺師と似た手法だ。映像制作者は、ある種の詐欺師にならなきゃいけない」とも話した。
映像や録音の世界に興味がある人にとっては、垂涎の情報が詰まった桜風凉ミーティング。ケンコー・トキナーが本社で行うアウトレットセールに合わせて開催するのが恒例になってきた。同社の田原栄一 チーフデモンストレーターは「集客にも売り上げにも貢献していただいている」と話す。次回のミーティングの予定はまだ決まっていないが、次のアウトレットセールは10月に開催する予定だ。(BCN・道越一郎)
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