ストロボは、筐体が小さくても大光量で被写体を照らすことができる利点がある。しかし、一瞬しか光らない点光源であるため、素人には扱いが難しい。カメラの上に取り付けただけで何も考えず直射して撮ると、いかにも「ストロボを焚きました」という写真しか撮れない。自然な写真にするためには、それなりのテクニックが必要だ。一方で、高感度センサーが当たり前になり、薄暗い場所でも明るく撮れるようになった。照明なしでも問題ない場面も増え、ストロボを使う機会は驚くほど減っている。
Lumix S9は、35mmフルサイズセンサーを搭載するレンズ交換式のミラーレス一眼カメラだ。ライカやシグマも採用する「Lマウントレンズ」が使える。形はデジカメだが、ストロボが使えないことからもわかるように、動画撮影により重きを置いている。コールドシューにはマイクやLED照明を載せ、動画撮影時に使うという想定だ。さらにS9のシャッターは電子シャッターのみ。
S9が強烈に意識しているのはスマートフォン(スマホ)との差別化だ。パナソニックは、いわゆる「撮って出し」(=撮影したデータを加工せずそのまま使用すること)で使えることを目指している。それはグローバルの製品ビジュアルの中で表現されているキーコピー「SHOOT. EDIT. SHARE.」に表れている。真ん中の「EDIT.」を取り消すかのように赤々と横線が引かれているのだ。編集の技術がなくても、撮ってすぐ、例えばインスタグラムやTikTokに上げられる素材を提供できる、というわけだ。そのためにリアルタイムLutという機能も付けた。Lutは、Look Up Tableの略で、映像の色調(色味)を自在に変更できる仕組み。S9では独立した「LUTボタン」を備え、撮影段階で色調設定の変更がしやすい。
S9は小型軽量もコンセプトの一つだ。しかし、それなら同社が展開する小型カメラのフォーマット、マイクロフォーサーズのほうがはるかにふさわしい。
S9ボディーと同時に発表したパンケーキレンズ、LUMIX S 26mm F8は、絞り値固定のマニュアルフォーカスレンズ。あえて面倒なマニュアルフォーカスを採用し、スマホでは得られない撮影体験を味わえる。9月1日まで実施するLUMIX S9の発売記念キャンペーンでは、このパンケーキレンズをプレゼントするという大盤振舞だ。カメラメーカーは、いかにスマホとカメラを共存させつつ、カメラとスマホの違いを際立たせるか、に苦慮している。巨大なスマホというライバルが存在する以上、カメラには、これまでの常識を飛び越るような大胆な進化と変化が求められている。
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