【家電コンサルのお得な話・249】2025年4月1日から、高年齢者雇用安定法の改正により、65歳までの雇用確保が完全に義務化された。これまでは希望者を対象に再雇用する措置が認められていたが、今後は希望者全員に対して雇用の機会を提供することが、すべての企業に義務付けられたのである。


●企業は「再雇用」「65歳定年」「定年制廃止」のいずれかを義務付けられる
 すべての企業は、従業員に対し、一般的な「再雇用」のほか、定年年齢の65歳への引き上げ、定年制の廃止のいずれかを実施する必要がある。労働力人口が減少する中、高齢者の力を活かす取り組みは、時代に即しているといえるだろう。
 しかし、この制度を見聞きするたび、すっきりしない違和感を覚える。その一つは、60歳を境に賃金が大幅に下がることだ。60歳以降も業務内容はほとんど変わらず、責任が軽くなる程度にとどまる場合が多い。それにもかかわらず、賃金が三割近く引き下げられる現状は、心情的に納得しがたいものだろう。
 さらに、強く違和感を覚えるのは、「どこまで働かせ続けるのか?」という点である。この感覚は「103万円の壁引き上げ」に対して抱くものと同質だ。最低限の生活を維持するため、安い賃金で労働時間を引き伸ばし、人生そのものと言える「時間」を消費させられるのは、根本的な解決策ではない。
 私は共働きの家庭に育ち、幼少の頃は近くに住む祖父母が面倒を見てくれた。高齢者が経済的な不安を抱えず、時間にゆとりを持てる社会であれば、こうして次世代を自然に支える役割を果たすことができる。単に高齢者やパート従業員を長く働かせることだけが解決策ではない。
「欧米=最先端のシステム」は幻想であり、日本独自の慣習や制度にもメリットがある。利益を優先的に従業員に還元し、長時間働くことなく、日ごろから家族とともに過ごし、地域とつながり、心にゆとりを持てる生活こそが、豊かな社会ではないだろうか。
 失われた30年が示す通り、ここ30年間の株主資本主義は日本を豊かにしなかった。本当に目指すべきは、従業員を企業の中心に据えた経営である。年齢を重ねても、誇りを持って働き、若者に負担をかけずに生きることができる日本を、今こそ取り戻すべきである。いまこそ、目先の効率だけではない、持続可能で温かい日本型経営を再評価し、進化すべき時ではないだろうか。(堀田経営コンサルタント事務所・堀田泰希)
■Profile
堀田泰希
1962年生まれ。大手家電量販企業に幹部職として勤務。2007年11月、堀田経営コンサルティング事務所を個人創業。大手家電メーカー、専門メーカー、家電量販企業で実施している社内研修はその実戦的内容から評価が高い。
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