前にしかスピーカーがないのに、四方八方から音が聞こえるOPSODIS 1。体験すれば誰もが「なぜ」と不思議な感覚に陥る。これを実現するのがバイノーラル技術だ。初めて紹介されたのは1881年のパリ万博。極めて歴史のある、よく知られた音響技術だ。
マネキンの頭を用意して、耳の奥にマイクを仕込んで録音すれば、音のリアルな位置関係を録音できるのではないか……。これがバイノーラル録音という技術。実際、この方式で録音された音源はとてもリアルだ。
バイノーラル技術は手軽に立体音響を楽しめる。とても面白くて素晴らしいものだ。さらに最近では、普通のステレオ音源を、バイノーラル音源に加工できるような技術も普及してきた。しかし、ただ一つバイノーラルには欠点がある。再生する場合にはヘッドホンやイヤホンでなければならない、というものだ。左右の耳に到達する微妙な音の違いによって音の位置関係を再現する、という原理ゆえ。
長大な前置きになってしまったが、本来ヘッドホンやイヤホンでしか得られないバイノーラル効果を、スピーカーで実現しようというのがOPSODISという技術。OPSODIS 1の中核をなす。6つのスピーカーが仕込まれた一つのスピーカーボックスから、右耳用、左耳用の音を同時に出すわけだが、何もしなければ、右耳向けの音が左耳にも聞こえ、逆の現象もまた起こる。OPSODISでは、ノイズキャンセル技術に似た、音を相殺する技術を利用することで、逆耳用の音を打ち消す。ヘッドホンやイヤホンと同じように、右耳には右耳用の音だけ、左耳には左耳用の音だけが聞こえるようにすることに成功した。つまり、本来ヘッドホンやイヤホンでしか体験できなかったバイノーラルによる立体音響が、スピーカーでも体験できるようになったわけだ。これはとても画期的なことだ。
実はOPSODISを開発したのは鹿島建設。OPSODIS 1のクラウドファンディングを起案したのも同社だ。有名な建設会社とは、一見無縁に思える立体音響技術だが、実は密接な関係がある。
「OPSODIS 1は、PCなどにつなげてユーザーが一人で使うようなイメージで開発した。ゲームなどでも活用できる」と話すのは、鹿島建設 立体音響プロジェクトチームの村松繁紀 事業推進統括部長だ。OPSODIS 1を正面に置き、約60cm程度の距離で最も高い立体音響効果が得られる。
クラウドファンディングが終了したOPSODIS 1。今後は鹿島建設のWebサイトでダイレクト販売する予定だ。「クラウドファンディングの最後は1台7万4800円という価格だったが、これでも赤字ギリギリ」という。販売価格は未定だが、ダイレクト販売時には、価格がもう少し上がってしまうかもしれない。クラウドファンディング分の最終発送は来年の4月下旬から6月中旬の予定。鹿島建設Webサイトでのダイレクト販売分の発送は、早くてもそれ以降になるだろう。これから購入すると1年以上は待たされる計算だ。とはいえ、他に類を見ないOPSODIS 1。
「実は、鹿島建設がコンシューマー向け製品を販売するのは、今回が初めて。本格的な事業化へのゴーサインはまだ出ていない」(村松部長)という。クラウドファンディングで大成功したとはいえ、あくまでも慎重に進めていく方針のようだ。立体音響は今、静かなブームになっている。音楽ホール建設で得た膨大な知見を武器に、まだまだユニークな製品をつくりだせそうだ。音の鹿島建設に、大いに期待したい。(BCN・道越一郎)
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