効率化を追求し、残業しないワークスタイルを目指す王さん。社員には部署を問わず常にチャレンジすることを推奨している。
社員が独立しても応援するスタンスだ。産業革命に等しいと注目するAIへの取り組みにも余念がない。社内でも勉強会などを通じて活用レベルの向上を図っている。目下の大きな目標は中小企業へのDX支援だが、社会の根幹を支える彼らのDXはまだまだこれから。日本の将来を決めかねない重要課題でもある。王さん自身にとっても大きなチャレンジだ。
(本紙主幹・奥田芳恵)

●使えるAIの登場はまさに産業革命 嫌悪せず活用すれば人間の能力もアップする
奥田 社員の方々にいつもおっしゃっていることがあるそうですね。
王 スピード、アクション、コミュニケーションの三つです。今はなんでもスピードが速い時代です。どんどんと変わっていきます。スピードは基本で、すぐにアクションを起こす、この二つはセットですね。
奥田 コロナ禍以降、コミュニケーションのあり方はずいぶん変わりました。

王 子どもがいる社員なら、在宅で子どもの面倒を見ながら仕事をしたい、ということもあると思います。結果が出るのであればそれでOKです。逆に、できるだけ出社したいという人もいるでしょう。もちろんそれも構いません。ただし、オンライン会議では「Zoom」や「Teams」を使って、少なくとも顔は見ながらやるようにしています。
奥田 どんな社員がいらっしゃるんですか。
王 やっぱりIT好きが多いですね。最先端が見えて触れることができる。いわゆるオタクな人とも言うんでしょうか。そして彼らの在職期間も長いですよ。
奥田 社員の方々とは、よく飲みに行ったりされるんですか。
王 コロナ禍以降は、少なくなりました。
残業も極力しないようにしています。アフターファイブは自由な時間をリラックスして過ごして、明日また元気に出社してね、という感じです。
奥田 残業なし、というのはなかなか難しいのでは?
王 もちろん季節要因や部署間でのばらつきはあります。全くゼロというわけにはいきません。月末とか新しい商材が出た時もそうです。ただそれ以外の時期なら、定時で仕事を終わらせて早く帰るようにしています。上司からの指導も効率重視です。
奥田 社員の気質に変化のようなものはありますか。
王 昔に比べれば、おとなしくなったと感じています。例えば営業はもっと数字に貪欲でしたが、今はそうでもありません。ただ、今も昔も変わらず社員に求めているのは「いかにお客様から信頼を得るか」で、特に人間関係はとても重要です。相性も同じ。
人間は機械じゃありませんから、得意先のお客様と相性が悪ければ、担当を変えるのに、ちゅうちょすることはありません。
奥田 社員の方々に、自ら会社をつくり独立することを求めていらっしゃるとも伺いました。
王 できるだけチャンスを提供したいと思っています。とにかくチャレンジ精神を育てたいんです。新しいことにどんどん挑戦し続けていなければ、取り残されてしまいます。
奥田 具体的にはどんなチャレンジなんですか。
王 独立して経営者になりたいということなら応援します。新規事業の開発でも、ビジネスモデルでも、商材でも、つくってみたい商品でも。普段の仕事の改善でもいいんです。自分の担当でなくてもいい。特に、部長クラスには積極的にチャレンジしてほしいと思っています。
●日本の企業の大部分を占める 中小企業のDX推進に貢献したい
奥田 今、AIは世界的なチャレンジとも言えます。

王 まるで産業革命です。GAFAMを筆頭に大きな投資を行いながら、どんどん進化しています。スターウォーズの「R2-D2」みたいなロボットも、近い将来登場するんじゃないでしょうか。
奥田 人間がAIに負けてしまうのでは?
王 AIに淘汰されないようにするには、AIを使いこなすしかありません。私たちも社内でトレーニングやレッスンを通じて取り入れています。
奥田 成果は上がっていますか。
王 個人差はありますが、特に文書作成が最も時間の節約になりますね。同時に複数のことができるのもメリットです。そのうち、必要な文書をAIが勝手に書いたりするんじゃないでしょうか。
奥田 人はますます「考える」ということをしなくなりませんか。
王 人間は面白いものです。AIがいい刺激になって、逆に頭が良くなるんじゃないですか。
個人向けのコンピューターはどんどん変わってきました。デスクトップからノートやタブレット、そしてスマートフォン、眼鏡型デバイス……。AIも同じように変化しつつ、どんどんダウンサイジングして身近になっていくでしょう。嫌悪せずに取り入れたほうがいいと思います。
奥田 個々の企業が、AIに大きな投資をするのは重すぎますよね。
王 日本は中小企業中心の社会です。彼らが自らAIインフラに投資するのは得策ではありません。AIをうまく活用する側に回ればいいんです。これからのDXですが、まだまだ状況は変わるかもしれません。中小企業のためにも国を挙げてAIを推進していく必要があると思います。
奥田 今は大きな時代の転換期ともいえます。これからを担う若い方々や社員の皆さんにはどんなことを伝えたいですか。

王 35歳から65歳までの30年間、時間を大切に使うか否かがとても重要です。この間の頑張りが人生を決めます。好きなように過ごすのは65歳を過ぎてからでも間に合います。それまでの勝負です。社員にも常々そう話しています。
奥田 これからの目標を教えてください。
王 いかにDXに貢献するかですね。日本の社会に、より便利なものを提供していきたい。AIを使ったサービスもその一つです。トレンドについていきながら、その先のトレンドをつくり出していきたいですね。特に中小企業を応援したい。
奥田 中小企業にとって、これからはどんな世界になるんでしょうか。
王 IoT、AIoTが進むにつれ、どんどんオートメーション化が進みます。こうした超効率化社会に、中小企業は追いついていかなければなりません。その中小企業の大きな積み上げがあってこその大企業、日本社会なんです。
奥田 今のままだと立ち行かなくなってしまう?
王 いかに効率化するかはとても重要です。そのためのDXです。後継ぎ問題もあるし、高齢化社会が進めばセキュリティー問題はさらに大きくなります。一番先に応援したいのが中小企業です。
奥田 王さんがやるべき仕事は、まだまだたくさんありますね。
●こぼれ話
 「台湾に帰る予定でした」。26歳で初めて来日した当時を振り返る王夢周さん。PC市場が変化し、盛り上がってくる80年代にPCビジネスに目を付け、そこから王さんの活躍の場はすっかり日本となった。来日から50年以上、興味を持っている分野にチャレンジを繰り返してきた結果だという。
 興味の対象はAIに移っているようだが、今なお、好奇心とチャレンジ精神が王さんを突き動かす。キラキラした目と終わらないトーク。夢中になれるものを見つけた人の強さと輝きを感じる。時代に合わせて、ご自身の好きとチャレンジを掛け合わせて、楽しみながらビジネスしてきたのだなと想像できる。
 PCの黎明期にマザーボードの輸入を手掛けた王さん。ビジネスチャンスをつかむ嗅覚は素晴らしいが、その苦労はいかばかりか。秋葉原でもPCがこれからという時代だっただけに、そのご苦労も秋葉原の様子もなかなか想像が追い付かない。「苦労しましたよ」と明るく語る王さんの表情が忘れられない。その表情から、必死さの中に面白さと充実感があったのだろうな、と受け取ることができた。
 会議室で存分にお話した後、王さんの執務室に移動するとまたもや話に花が咲く。ASUSのPCを前に、やはりASUS JAPAN時代を振り返らないわけにはいかない。とにかくスピードを重視したのはもちろんのこと、その上で品質にこだわり何度も粘り強く改善を繰り返したという。もともとの技術力の上に、高品質を追求する意識をつくり上げていった。高価でも売れるのは確かな品質が認められたから。日本でのASUSの躍進には、王さんの品質へのこだわりは欠かせない要素であったに違いない。
 「スピード、スピード」。幾度となく王さんから発せられた言葉だ。日本のビジネスのスピードは遅いと危惧する。目まぐるしく変化するビジネス環境の中で、特に中小企業が置かれる環境は一層厳しくなっている。だからこそ、自らが応援しなければならないし、できることがとても多いと語り、テックウィンドのさらなる飛躍を目指す。王さんのチャレンジは尽きない。(奥田芳恵)
心に響く人生の匠たち
 「千人回峰」というタイトルは、比叡山の峰々を千日かけて駆け巡り、悟りを開く天台宗の荒行「千日回峰」から拝借したものです。千人の方々とお会いして、その哲学・行動の深淵に触れたいと願い、この連載を続けています。
 「人ありて我あり」は、私の座右の銘です。人は夢と希望がある限り、前に進むことができると考えています。中学生の頃から私を捕らえて放さないテーマ「人とはなんぞや」を掲げながら「千人回峰」に臨み、千通りの「人とはなんぞや」がみえたとき、「人ありて我あり」の「人」が私のなかでさらに昇華されるのではないか、と考えています。
奥田喜久男(週刊BCN 創刊編集長)
<1000分の第380回(下)>
※編注:文中に登場する企業名は敬称を省略しました。
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